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【エッセイ】もぬけの殻も残らない

 「もぬけの殻」とは、中身が空っぽなことを表す慣用句だ。犯人が逃走したあとの家に踏み入った刑事なんかがよく使う。(例文「逃げられました!家はもぬけの殻です!」)
 ところで、「も」って何だろうか。

 「もぬけの殻」とはつまり、「も」が「ぬけ」た「殻」のことだろう。察するに、「も」と呼ばれる動物がいて、「も」には「殻」から抜けて出ていく習性があって、「も」が残した「殻」をみた古い人間が悔しがって「やられた、もぬけの殻じゃ」と言ったのが、この慣用句の起源であるに違いない。悔しがると言うことは、「も」は相当に美味しいんだろう。絶対に高級食材だ。
 「殻」があると言うことは甲殻類だろうか。ヤドカリみたいに殻を背負っていて、身体が大きくなると他の殻に家移りするのかもしれない。……それはもうヤドカリでは?「も」とはヤドカリのことだったんだろうか。
 或いは脱皮する爬虫類のことかも知れない。蛇の皮とかトカゲの皮とか、パリパリに乾くと「殻」と解釈できなくもない。田舎の村では蛇を鰻みたいに開いて食べると言うし、「も」と呼ばれる珍味蛇がいてもおかしくはない。蛇かぁ。ちょっと食べてみたいかも知れない。

 などと考えながら、検索エンジンで「もぬけの殻 由来」を調べてみた。

もぬけは、セミやヘビが脱皮することや、その抜け殻のことで、後者は「もぬけの殻」と同義である。

語源由来辞典より引用

 「も」「ぬけ」の「殻」ではなくて「もぬけ」た後の「殻」だったのか……!「もぬけ」で一つの動詞だとは思いもよらなかった。語源由来辞典によれば、「もぬけ」の語源は「身抜け」「衣抜け」が有力ということなので、「も」の正体は「身」或いは「衣」ということになる。成る程、動物の名前に行き当たらない筈である。

 疑問解決だ。これでもう「も」の正体に悩むことなく「もぬけの殻」を使うことができる。でも、殻を残す幻の珍味「も」がいなくなってしまったことだけが、ちょっとだけ寂しい。

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