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給与・賃金・報酬・所得 など色々な言い方がありますが


はじめに

会社勤めの方の収入は、一般的に「給与」や「賞与」と呼ばれると思います。しかし人事労務の仕事をしていると「給与」や「賞与」以外の言葉を使う機会も多いのではないでしょうか。
例えば “ハローワークの手続きで賃金台帳が必要になる” とか、“社会保険の手続きで報酬月額を計算する” とか、“年末調整で配偶者の所得を確認する”  など、言葉は違えど、似たような意味で使用していると思います。
しかし、そういった場面では「賃金」「報酬」「所得」が明確に使い分けられ、基本的に「給与」という言葉は使用しません。
人事労務の仕事をしている方は、それぞれの言葉の違い、使い分けについて認識されていると思いますが、では具体的に何が違うのかご存知でしょうか?

何が違うのか?

では、違いは何かというと、法律の話になります。
普段、何気なく使っている言葉ですが、次のとおり異なる法律によって、それぞれがの意味合いが定義されています。
 「賃金」… 労働基準法
 「報酬」… 健康保険法、厚生年金保険法
 「所得」… 所得税法

ちなみに「賃金」を例にすると、次のとおり定義されています。

この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

労働基準法 第10条

また逆を言えば、労働基準法に「給与」や「賞与」に対する定義はありません。会社から支払われるものには色々な名称がありますが、基本給、役職手当、通勤交通費、残業手当、家族手当などと言われるもの全て「賃金」であると言えます。
なお健康保険法では「報酬」と別に「賞与」の定義があり、また所得税法では単に「所得」という言葉の定義は無く、給与所得、雑所得、事業所得 等「○○所得」という形で細かく分類されて定義されています。

では次に、人事労務の仕事で、どのように言葉を使い分けているか、具体的に例を挙げて説明していきたいと思います。

賃金とは

「賃金」とは 労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのもの と定められており、基本的には 毎月の給与 と、定期・不定期にかかわらず賞与の全てが含まれると言えます。なお、結婚祝金、弔慰・見舞金など任意・恩恵的なもの、出張旅費や備品購入費等の実費弁償的なものは含まれませんのでご注意ください。

「賃金」を使用する場面としては、
・ハローワークへ提出する育児休業給付金の申請書や、離職票を作成する
・労働基準監督署へ労災給付の申請をするため平均賃金を計算する
・全従業員の一年間の給与・賞与を基にして労働保険料を計算する
といったものがあります。
つまり、労働局、労働基準監督署、ハローワークに関連する仕事をする時は「賃金」を使用するとお考えください。

報酬とは

「報酬」とは 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのも(ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものを除く)と定められています。ここで、毎月の給与が含まれるという点は「賃金」と同様に考えて問題ありませんが、「報酬」には現金で支払われるものの他に “現物支給” という考え方があります。
 具体的には、食事の提供、住居の貸与、自社製品・通勤定期券等の現物支給がある場合、一定の基準で金額換算して「報酬」に加算するというものです。例えば、社員食堂の食費が格安である、社員寮に入居している といった場合に該当する可能性がありますのでご注意ください。

「報酬」を使用する場面としては、
・入社した人の報酬月額を基に健康保険料・厚生年金保険料を決定する
・健康保険の出産手当金、傷病手当金の請求書類を作成する
といったものがあります。
つまり、協会けんぽ・健康保険組合、年金事務所(日本年金機構)に関連する仕事をする時は「報酬」を使用します。
なお、上記に関連する手続きで「報酬」とは別に “三月を超える期間ごとに受けるもの”「賞与」とする定義があり、賞与から徴収される健康保険料・厚生年金保険料の計算を行うといったものもあります。

所得とは

所得税法で「給与所得」とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいうと定められており、一般的に「給与」や「賞与」として支払っているものは「給与所得」に該当すると考えて、大きな問題はありません。
しかし所得税法は「課税所得」と「非課税所得」という考え方(税金計算に含める所得と含めない所得)があったり、会社からの現物支給や値引販売などの利益を給与所得に含めるなど非常に複雑で、専門家の助言無しには理解が困難です。ここでの説明は、ごく一部の説明であることをご承知ください。
「所得」を使用する場面は、年末調整の時期が殆どであると思います。
税金・税務署関連の仕事で使用する言葉として、ご理解ください。

とは言え、一般の従業員はよく分からない

ここまで説明させていただきましたが、人事労務の仕事に携わる方以外、これらの言葉を使い分ける必要性は殆ど無いと思います。
逆に似たような意味の言葉を使い分けられると、相手が混乱してしまう恐れもあります。あくまで専門用語であり、関係者同士で使用する言葉と認識しておきましょう。

おまけ

実務で使用することはまず無いと思いますが、給与や賞与などに関する法律用語には、もう一つ別なものが存在します。
労働組合法「収入」という言葉です。
これは厳密に定義されているとは言い難いのですが、興味のある方は条文(労働組合法 第三条)をご覧になってみてください。

出典(e-Gov法令検索)


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