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NO.49 冬の夜、太宰治に逢いに神保町を訪ねたこと

先週末の12月1日、友人がブログで紹介していた、太宰治の作品と人生を描いた映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』(2009年公開)を観るため、仕事帰りに神保町シアターまで足を運んだ。

素晴らしい作品だった。

ラスシート、戦後直ぐの闇市の剥がれかけたポスターが貼られた板壁の前に立つ松たか子と浅野忠信の姿と、そこで交わされる会話の記憶があるから、2009年の封切り当時映画館で観たような気がするけれど、記憶は定かではない。
(太宰の作品や彼を描いた映像作品等の記憶と混じっているかも知れない…)

特筆すべきはやはり主演の松たか子の美しさだ。

どんなに貧しい部屋の中にいても、闇市の中の末枯れた料理屋で忙しく立ち働いていても、その美しさとにじみ出るような艷やかさを失わない。
いや、その戦後間もない場末の暮らしだからこそ、一層彼女の無垢な魂の輝きが引き立つようだ。

浅野忠信が心中をはかる愛人を演じる広末涼子の、崩れたどこか世の中を諦めたような姿もとても美しい。

彼女達の輝きを前にして、浅野忠信や妻夫木聡、堤真一らの男達はまるで彼女達を照らすための陰画のように情けなく弱くくすんでいるけれど、そこにまた一抹の哀れと色気が漂う。

そう言えば、昨日は映画を観る前、少し時間があったので、新橋から虎ノ門ヒルズ、話題の麻布台ヒルズ辺りを散策したけれど、その虚飾の賑わいに辟易として、逃げるようにして夜の神保町に向かったけれど、映画の中の貧しい闇市の方が、よほど真っ当な人間が暮らす場所のような気がした…

太宰治が、今のこの国の体たらくを見たら、何を書いただろうと思いながら寒さに身を縮めながら帰路についた。

もう師走なのだ。




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