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#362 『負けて泣いているだけでは強くならない』

本日は、囲碁棋士の井山裕太さんの「負けて泣いているだけでは強くならない」についてのお話です。井山さんは2002年に日本棋院関西総本部所属のプロ棋士となり、2009年に史上最年少となる20歳で名人となりました。2013年に棋聖位を獲得し、囲碁界初の同時六冠、その後7タイトル制覇を2度達成したプロ囲碁棋士です。

"石井邦生先生の弟子になったのは、小学校一年生の7歳の時でした。しかし、先生の家までは片道2時間半もかかるため、なかなか通うこともできません。そこで電話回線を使ったネット碁を利用しました。これで週に2日、先生に直接、碁を打っていただく指導を受けました。"
"普通、師匠が弟子と対局するのは入段(プロ入り)の時と見込みがないと判断して引導を渡す時の2回だけだといいますが、私の場合は1000回にも及ぶ対局をしてくださいました。そのおかげで小学校3年生の10月に日本棋院関西総本部の院生になることができました。"
"この頃から先生の指導法が変わりました。院生対局の棋譜を自分でつけ、そこに「ここがよかった、悪かった」といった感想や質問を添えて先生の自宅に送るのです。それに先生が目を通し、添削したり、感想を書いたりして送り返してくださるのです。"
"これが結果的にはよかったといまになって思います。棋譜を書きながら反省し自分で考えるようになりました。そして先生の返事を見てさらに深く考えます。師匠はどうしてこういうことをおっしゃっているのだろうと。このおかげで、自分で考えるという習慣ができたように思います。"
"先生は盤上ではあまり型にはめることなく自由奔放に打たせてくださいました。どちらかといえば、先生は碁盤の上のことよりも、盤外のほうが厳しかったように思います。日頃の挨拶はもちろん、対局前には「お願いします」と頭を下げ、終局の時は「ありがとうございました」と再び礼をする。師匠はそうしたことを口でうるさく言われるタイプではなく、その姿をご自分で示して教えるという方でした。だから、私は師匠の姿を見て身につけていったと言ったほうがいいかもしれません。"
"いまも非常に印象に残っている言葉があります。子どもの頃から私は負けず嫌いで、負けると泣くこともよくありました。そんなある日、先生の手紙が届きました。
「負けて泣いているだけでは何万回対局しても強くならない。なぜ負けたか、それを自分なりに反省して次に生かさないと成長しないよ」"
"手紙をいただいてからは、きちんと反省するという作業を重点的にするようにしました。いまだから思いますが、どんな世界でもそういうことを疎かにしていたらなかなか上にはいけないのだろうなと思います。私の場合、小学生の時に先生に教えていただき、少しずつそういう習慣がついていったのだと思います。もちろんいまも一局終わる度に、自分の碁と向き合うことを忘れず行っています。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/12/28 『負けて泣いているだけでは強くならない』
井山裕太 囲碁棋士
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※Photo by https://gahag.net/006804-go-game/