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はじめての装丁、全記録。

装丁をずっとやりたかった。

僕の過去ツイートをさかのぼったところ、異常なくらいに「装丁をやりたい」とつぶやいている。任天堂を辞めてから作った「死ぬまでにやりたい100のリスト」1位に入る。それほど熱望していた。

ところが、装丁の仕事はなかなかこない。出版社の装丁は、どうやらおつきあいのあるデザイナーさんに頼むことが多いらしい。ましてや装丁未経験者のデザイナーには、くるはずもない。だから一時はあきらめていた。そんな矢先、ついにお声がかかった。

このオファーこそ、僕がはじめての装丁を担当することになった著者の板垣雄吾さんからのメールだった。この辺の経緯は、以前書いたnoteを読んでほしい。

今回は『やりたくないことはやらなくていい』の装丁のプロセスをすべて完全公開する。


装丁物語
はじめて幻冬舎へ

1月の初旬、幻冬舎にて打ち合わせ。僕は幻冬舎 箕輪厚介さんのオンラインサロン「箕輪編集室」のメンバーだから、幻冬舎の写真は何度も見たことがあった。でも、実際に行ったのはこの時がはじめて。著者の板垣さん、編集者の片野さんとは年内に顔を合わせていたので、この時が2度目。本のタイトルはこの時から『やりたくないことはやらなくていい』(以下 #やりやら )だった。

著者の板垣さんは、かつてバンドマンでCDデビューした経歴もある。そんなことから装丁は「ジャケ買いしたくなるようなものを」とオーダーがあった。また、編集者の片野さんからは「いわゆるビジネス書らしくなく、タイトルはタイポグラフィーで遊んだものを」とのことだった。


ビジネス書コーナーのリサーチ

僕はやると決めたらフルスウィング。全力でやりきるスタンス。まずは、ビジネス書コーナーのリサーチだ。板垣さんからオーダーのあった「ジャケ買いしたくなる装丁」について考えた。

リサーチした結果、#やりやら の装丁の方向性を決めた。ビジネス書の多くは、著者の顔写真とタイトルがドンと来る。ビジネス書とは、著者の生き方を記す本だからそれが一番伝わるのは間違いない。

しかし、今回僕は板垣さんの顔写真を表紙に使わないと決めた。

理由は2つ。
1つは、板垣さんからの「ジャケ買いしたくなるようなものを」とのオーダー。僕のオンラインサロンで作った雑誌『マエボン』もジャケ買いしたくなる表紙だと思ってくれたらしい。『マエボン』は、本屋さんに並んだ時、いい意味での違和感を狙ってデザインした。顔写真ドンの表紙は、これに該当しないから。

2つめとして、板垣さんはこの本をきっかけにさらに世に出て行く人だ。世に出て行く上で、もちろん板垣さんの顔もセットで認知されたい。だが、それ以上に本のタイトルである『やりたくないことはやらなくていい』の方が知れ渡って欲しいと考えた。「この人は“やりたくない!”の人だ」こんな風に浸透すればいいなと。


装丁ラフを作る

装丁案のラフを作る。タイトルの『やりたくないことはやらなくていい』というのは板垣さんの口癖。編集者の片野さん曰く「取材をした時、何を聞いても“やりやくない”を連呼していたのが印象的だった」とのこと。板垣さんは、豪快でユーモアにあふれた人で、かつカルピスをがぶ飲みするような子どもっぽさもある。でも、仕事の話になるとキリッと真面目に本質的な話をする。そういった板垣さんの人柄が伝わることで、本のセールスにもつながると考えた。だから「やりやらマン」や「やりたくないおじさん」というキャラクターを作って、駄々をこねるように「やりたくない!」を叫んでもらったらどうかと考えた。

1月末に、前田デザイン室と #はあちゅうサロン との合同定例会があった。この時、はあちゅうさんとの対談で装丁について語ることに。ちょうどいい機会だと思い、この案を定例会でも披露した。

すると、定例会に来ていた前田デザイン室メンバーであり、「うさぎ帝国」の作者でもあるendoさんに声をかけられた。「LINEスタンプ作りませんか?」と。なんと、ぼくが話をした直後に「やりたくないおじさん」のLINEスタンプを作ってくれていた。板垣さんにもその場で話をしてLINEスタンプを作ることになった。


理想の紙を選ぶ

大阪にある紙の専門店 竹尾に行く。デザインを膨らませるために、どの紙がイメージにふさわしいかを探りに来た。


とにかく装丁案を考える

ここからはとにかく案を作った。ロゴでもたくさんの案を考えて検証するのだけど、装丁も同じ。初版の部数が決まる部数決定会議、(「部決会議」と呼ぶらしい)までに、とにかく出せるだけ出す。作った装丁案を紹介する。


「書籍のロゴデザインを作る」こんな発想から考えたもの。ロゴデザインは、僕の得意分野。これを装丁に落としこんでみた案。

#やりやら の書体もPOPなものと角を尖らせたもので見え方をテスト。ツイッターでどちらがいいか聞いたら、「左が好きだけど右が現実的でいいかな」という意見が多かった。

これは前田流なんだけど、明らかに「よくないだろうな」と思う案もあえてつくる。「違う」ということに確信が持てるし、たまにボツ案からいいものが生まれることもあるから。


板垣さんの似顔絵を使った案。


タイトルは読みにくいが、こういう尖った案も作った。


表面と裏両方で「OK」と読めるもの。この本が読者の手に渡り、読んでいる姿を想像してデザインした。


『「や」りたくないことは「や」らなくていい』ということで、「や」を強調した案。自分では「これはないな」と思ったが、方向性を探るために作った。


赤バージョン。背景が赤だと、高い熱量を感じさせることができる。MOTHERのパッケージっぽくて好き。


ここである悩みが。
僕のデザインは意識していないのにPOPで可愛らしい印象になるものが多い。するとエッセイのような装丁になってしまう。写真は使わないと決めたしなぁ。と、ツイートしてみたところ…

箕輪さんが反応してくれた。

このやり取りで、もやが晴れた。箕輪さんの本は、自信に満ち溢れ堂々としている。これこそ、ビジネス書において大事なことではないかと気づいたからだ。本の内容に自信があるからこそ、装丁は堂々としたものがいい。

そうと決まったら部決会議に向けて案を絞る。


部決会議に向けて片野さんとやりとり

部決会議に備え、片野さんに装丁案をみてもらう。

片野さんからの感想。

アドバイスももらった。

なるほど、タイトルは1行のほうがいいのか。
この案で、部決会議に挑むことに。


運命の部決会議

2月15日、幻冬舎にて部決会議が行われた。初版部数がここで決まる。初版部数が少ないと、ベストセラーになりにくい。だからこそ大事な会議だ。 #やりやら は、初版1万部を目指していた。
 
部決会議には、社長の見城さん、編集局幹部(取締役専務局長部長)、制作局、営業局、編集局、部決で担当作ある人などが参加するらしい。遠く離れた大阪より祈るような気持ちで待っていた。

結果は無事初版1万部が決定。装丁も提案したもので進めることになった。あの見城さんも「売れるかもな」と言ってくれたそうだ。


まさかの表紙変更

3月入ってすぐの頃、入稿日が近くなってきた。
片野さんから連絡があり「視認性が弱いので表紙を変更したい」とのこと。片野さんが編集長と相談した結果、ドット絵の装丁案で行くことが決まった。以前作ってた案を元に急遽再考する。

最終的にこの案に決まる。

551の豚まんという商品で「(豚まんが)あるとき」でにっこり笑い、「ないとき」で悲しい表情をする関西ローカルの名物CMがある。こんな風にビフォーアフターで「やりたくないことは」「やらなくていい」を表現した。
タイトルが長い分、絵でわかりやすく表現できているので、結果的にこの案がベストだった。


上の写真をよく見てもらうと、この用紙は手触りがざらっとした質感になっている。シンプルなデザインゆえ、深みと温かみを持たせたかった。

いろんな人から「いいね」の感想をもらえた。すべてがうれしいのだけど、特にうれしかったのはNewsPicks Bookの装丁家であり、尊敬する戸倉さんからの言葉。

戸倉さんはカバーをとったデザインのツイートをした時も声をかけてくれた。

お墨付きをいただけた気分でうれしかった。

実は用紙選びの際、戸倉さんがデザインした「モチベーション革命」の用紙の質感に影響を受けている。


色校正

片野さんが、装丁の色校正を東京からはるばる大阪まで持って来てくれた。

今回の装丁は特色印刷を使っている。黄色とマゼンダを100ずつまぜて赤を表現してもよかったのだが、特色も試してみたかった。なぜなら帯は特色を使うことが決まっており、表紙も同じ方がいいと考えたから。それをうけて片野さんは色校正2パターンを出してくれた。色校正したものを見せてもらったら、やっぱり特色の方がいい。

最終的に特色でOKをいただくことに。こだわりを貫かせてくれた幻冬舎さんに感謝している。

左が特色(写真だとわかりにくいけど)


こだわりポイント

ほかにも、こだわりはたくさんあるから紹介させてほしい。


表紙
カバーと取り外すと黒い用紙に銀1色刷り。ブックカバーの様なデザインにした。


目次
目次だから「目」を入れてみた。

この本は板垣さんの型破りな人生について書かれているのだけど、「お菓子タイム」という謎のコーナーが随所に挟まれている。板垣さんの会社がiPhone修理事業を営んでいて、そこでのノウハウ、スマホのTIPが書かれている。そんな「お菓子タイム」のノリを汲み取って遊び心を入れてみた。

目次の書体もかなり悩んだ。片野さんとやりとりしながら決めていった。


別丁のデザイン
別丁(べっちょう)のデザインもした。別丁とは、表紙、見返しの次に来る、タイトルページの前に存在するページのこと。別丁の存在を今回初めて知った。

「効果的な使い方はないかな」とつぶやいたら、ここでも戸倉さんが反応してくれてアドバイスまで!ありがたい。

別丁は最終こんな感じに。


プロフィール写真

板垣さんのプロフィール写真。この写真自体は幻冬舎さんで撮影したものなんだけど、片野さんからレタッチ依頼がきた。おでこのテカリと顔を少しシュッとさせる。「板垣さん、意外と気にするんだ!」と思ったがこれは板垣さんの会社の経理担当からの指示だった。



長くなったけど、念願だったはじめての装丁。そのすべてを書いてみた。

ちなみに、この本の最後になぜか僕の文章も掲載してもらっている。これは早い段階で決まっていた。この本は板垣さんの著書だけど、編集者の片野さん、装丁の僕 チーム #やりやら で共に作り上げた。最初の打ち合わせの時に板垣さんが「装丁はCDのジャケットのようなものだ。本も一人で作るものではないから、バンドのようなイメージ」と言ってくれて感激した。

そりゃあ、装丁の仕事は熱望していたし、本が好きだ。自分の書いたものを掲載してもらえるなんてうれしいに決まっている。だけど装丁した人の文章が本に載るなんて普通はないことだから。

板垣さんは型破りで豪快かつノリがいい。意外だったのは片野さんもこの件に関して、かなりノリノリだった。僕の目から見て、片野さんはこのプロジェクトを通して板垣さんのノリが移っているように感じた。著者と寄り添い続けたからこそなのかもしれない。


幻冬舎さんから本日発売『やりたくないことはやらなくていい』。
僕の初装丁作品でもあります。
ストレートに言います。

買ってください。

ぜひ手にとってみてください。



僕は今年から漫画家に転身した。デザインの仕事は4月に入社してくれる新入社員に任せるつもり。だけど…。

やっぱり装丁は大好きだから、またやりたい。
早くもそんな気持ちになっている。




構成・編集:浜田 綾(コトバノ)

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まえだたかし

アートディレクター、新人漫画家。ドラゴンボール以前の少年ジャンプ「少年ジャキーン」を作りたい。2016年任天堂(株)退社。2018年3月前田デザイン室(https://camp-fire.jp/projects/view/66627)をスタート。同年6月株式会社NASUを設立。

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