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#5 怪獣のことば

「ママって、へんだよね」
今年9歳になる娘に言われた。

「え?顔が?失礼だねぇ、あなた」
「いやいや、ちがうって。ってか、そうゆうところだよ」

このやりとりの数分前、娘とこんな会話をした。
「今日さ、社会科見学で機動隊の仕事を見に行ったんよ」
「ふーん、良かったね!で、どうだった?機動隊にイケメンおった?」

この私の質問に対して、娘は冒頭のように「へん」と言ったのだ。

「ママ、ふつうさ、そこは『楽しかった?』とか聞くとこやん?
ママはさ『イケメンおった?』って聞くから、へんでしょ。
ま、イケメンも何人かおったけどね」
そう言ってニヤッと笑う。

私が半分本気の質問をしたことはさておき。

「ふつうさ」と普通のたとえ話まで出来るようになった娘。
うんうん、成長したなぁ。

日々、子どもたちの言葉はアップデートされる。
私はここ最近、その変化を楽しんでいる。

私には3人の子供がいる。
10歳、9歳、7歳…ざっくり言うと年子3人だ。

「3人の子育て、保育園時代とか大変だったでしょ?」とよく人に聞かれるが、その質問にはいつもこう答える。
「覚えていないんです」

おそらく1番キツかったのは、子どもたちが3歳、2歳、0歳の時代である。

じっとしないチョロチョロ怪獣の長男。
私にぴったりくっつきたい甘えん坊怪獣の長女。
首も座っていない新生児怪獣の次女。

ちなみに、私が3人の子供たちを「怪獣」と呼ぶのには理由がある。

3人同時に機嫌が悪い時、我が家は映画『ロスト・ワールド』のクライマックスシーンのようになる。

あっちでガオー、こっちでガオー。
一旦、鳴き声が落ち着いたと思ったら、寝てたはずの新生児怪獣がガオー。

そしてこの赤ちゃん怪獣が、ダントツの声量の持ち主であったため、しっかり映画を盛り上げてくれた。

そんなときの私の心情はたった一つ。

「うっせーわ」

令和代表の歌手・Adoより当時の私のほうが、このワードを唱えていた自信がある。

さらに当時は夫が飲食店オーナーだったので、土日は不在。
完全に1対3のワンオペ育児だった。

3人の幼い子供たちは私のちょっとした不注意で、大けがしたり命を落としたりする危険が常にある。
なぜなら現場監督は私一人。
だから冗談抜きで「今日、どの子も死なせませんように!」と毎日、神様に祈っていた。

というわけで「子どものこんなとこが可愛かった」とか「初めてハイハイしたのはいつだった」…とか自慢じゃないが、まっっったく覚えていない。

そんな我が家も、あれから約4年経ち『ロスト・ワールド』の上映も、いつの間にか終わった。

そのおかげで私も少しずつ余裕がでてきたようで、子どもたちの口から飛び出す言葉に成長を感じる。

とくに最近は、どんな言葉で私にツッコミを入れてくるのか、知りたくなってわざとボケてしまう。
「この子はこう返すかな」と予想まで立てるのがまた面白い。

たとえば「あ、ママ今日パンツはくの忘れた!」と私が言ったとしよう。
すると各々こんな感じの返答だと予想できる。

10歳の長男「あ、マジで?そんなに急いどったん?」
9歳の長女「やだーママ!恥ずかしいよ!あ、パパに言っちゃお♡」
7歳の次女「あー、忘れるよね、あたしもこの前、同じことしたよ」(※事実)

長男は履き忘れてしまった背景を知りたがる。
長女は履き忘れた事実を茶化す。
次女は履き忘れたことに共感する。

この予想の斜め上を行く解答が返ってきたら、「おぉ、成長しておる」とまた嬉しくなるのだ。

Ado化していた私が、まさかこんなふうに子どもとの会話を楽しめるようになるとは。

何はともあれ、母性と理性を失いかけた、あの頃の『ロスト・ワールド』は二度と上映されないでほしい。





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