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小説界に大谷翔平が現れたら直木賞や芥川賞はどうなるか?『響~小説家になる方法~』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江貴文

カリカリに尖って生きている。

そんな表現がぴったりくる主人公の響。

彼女は若干15歳の典型的文科系メガネ女子のルックスなのだが天才小説家で、筋が通らないことや自分の思い通りに行かないとキレて収拾が付かなくなるという特徴を持っている。

その才能に惚れ込みつつも彼女の特殊になるであろう人生を、できるだけ普通にしたいと思っている文武両道のお奈々馴染みのイケメン男子に慕われているという環境にある。

そんな彼女の高校の部活で著名小説家(まるで村上春樹のような)の娘が部長の文芸部に入り、様々な騒動が起きていくという筋書きである。

この作品の面白さは、これまであったスポ根モノの天才が一気にスターダムにのし上がっていく、まあ実際に野球だったら大谷翔平のような化け物が突如現実に現れてくるんだからスポ根モノも非現実的とは言えないと思うんだけど、まさにそのスポ根モノな設定を小説、それも純文学っぽい世界観の中で成立させつつあるというところなのではないだろうか。

それほど響のキャラクター設定はありえなさそうで今後出てこないとは言い難い魅力を持っているのである。

響の担当編集者は才能のぶっ飛んだ小説家がマイナーな純文学の世界を一変させる可能性があることをよく分かっていて、響をデビューさせる為に四方八方の手を尽くそうとする。

最近芥川賞作家羽田圭介氏の私小説的な小説「成功者K」という露悪的小説を読んだのだが、そこに文学賞受賞者の持つある種のステータス構築のプロセスが描かれている。

IT成金と違って文学賞の受賞者は、それが持つ歴史と伝統から歌舞伎役者などが持つ特別なステータスを与えられる為に、滅茶苦茶モテるという理屈なのであるが、それはある意味正しいと言える。

その才能は時に免罪符として本人のぶっ飛んだ行動様式を赦させてしまう。

響の才能と行動様式は常人のそれとは違う。

どこまでそのギリギリな感じが成立するのか?それをドキドキしながら見守るのもこの作品を読む楽しみなのではないだろうか。


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