エヴゲーニイ・ザミャーチン「フィータについてのお話」
「フィータについての一つ目のお話」フィータは警察署の地下室でひとりでに生まれた。地下室には過去の処理済の事件の書類が積み上げられているが、分署長のウリヤン・ペトロヴィチの耳に、誰かが何かを引っ掻き、コツコツと音を立てるのが聞こえてきた。
ウリヤン・ペトロヴィチがドアを開けた。埃が舞っている――くしゃみが止まらない。すると埃まみれで灰色のフィータが出てくる。性別は主として男で、数字が刻印された赤い封蝋が細紐にぶら下がって揺れている。赤ん坊のように小さいのに、威厳のある外見をし