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【読後想】『人新世の「資本論」』★★★★☆

 夏休みの宿題で読書感想文が苦手だったけれど、感想でも書評でもなく、想ったことを勝手に書き留めるだけなら出来そうだということで記録する読後想。

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 資本主義の限界というような事を耳にすることがある。私達がどっぷり浸かっている資本主義はベストではないがベターなんだと言われてきた。
 普通に考えて、無限に成長し続けることは不可能であるが、あなたの売上ノルマが毎年アップされていくように、企業や国は成長し続ける事を求められるのが資本主義である。
 資本主義における成長は、ゼロ・サムゲームだ。極部的にクローズアップしてみればゼロ・サムに見えないものも、俯瞰して見れば何処かでプラスになっていたとすると、どこかではマイナスになっている。

 どこで頭打ちになるかはその時が来るまで誰にも分からない。だからだろうか、いつの世でも資本主義限界論が出るたびに、結果そんなことはない、という歴史を繰り返して来たのではないか。

 そんな中、今回私が選んだのはこちら。

斎藤 幸平(著)、『人新世の「資本論」』 (集英社新書)

 この本、新書なのに分厚い。
 そしてこの本、売れているという。
 この種の本が売れるとはにわかに信じ難い。マーケティングが上手いのか、読み手が求めているのか、ある種のブームなのか。ともかく、普通は売れるような種類の本では無い。
 ミステリーでもファンタジーでもなく、何かの実用になるのでもない。むしろとてもお固い本だ。

 経済を学んでいる人を除けば、マルクスという名前を知らないという人もかなりいるだろう。運が良ければ高校の教科書に乗っていた写真を覚えているかも知れない。落書きの記憶として。

 この本ではそのマルクスが準主役だ。
 けれどこの本でマルクスの資本論を1から学ぼうとするなら裏切られることになる。なぜならこれまでのマルクスのイメージを払拭することがこの本の目的の一つだからだ。
 そんな新たなマルクス像に基づく現代版新解釈の資本論を著者は人新世の資本論として紹介する。

 話は資本論に留まらない。なぜなら、資本論を語るのはそれが目的というよりも現代の問題を解決するための一つの手段としてだからだ。
 この本の中で現代の抱える問題として一貫して横たわるのは、気候変動の問題だ。そして、気候変動の問題に内在するグローバルな格差の問題だ。そして地球環境をここまで悪化させ人類を滅ばさんとするに至った原因は資本主義にあるということだ。

 上から目線で恐縮だが、この本を読んで内容を理解できる人はそうはいないはずだ。かくいう私も十分に理解したとはとても言えない。
 この本を読み終えて、ここに書かれた方策に沿って行動できる人はなお少ないはずだ。
 書いてあることが十分に理解出来たとしても、こんなのは理想論だと思う人が大半ではないだろうか。現在の仕組みを変えるには時間が掛かるし、現在の資本主義の効率性があるからこそ維持できているこの世界に背を向けることは、後退どころか生きることすらままならない世界になってしまうではないか、と思うかもしれない。
 だから、敢えていま唱えるのは余程の確信と余程の勇気が必要だったに違いない。

 という訳で私の評は★★★★☆。
 星4つだ。

 内容的には面白い。面白いけれども空想の世界にも思える。そうでいながら、ネットで世界が繋がれる今の時代ならありえなくもないかもと思わせる。
 星ひとつ欠ける理由は、引っ込み思案の私には荷が重いと思ってしまった点にある。もちろんそれは筆者の問題ではなく、私の側の問題だ。ズルいことだと自認するが、私はまだAmazonで買い物をしたいという気持ちに勝てるほどには、本書の想いや志が刺さって来なかった。いや、痛いほど刺さってはいるのだが、資本主義の毒牙に掛かって久しい私の脳や身体は完全に麻痺してしまって思うようには動かなくなっていて、この本を一度読んだ位では今すぐ行動を起こそうと思えない。何とも情けないことだが、事実そうなのだから仕方がない。

 ひとつ言えるのは、資本主義とか社会主義とか、そういった言葉での思い込みを捨てて、人類に取って何が重要で、どういう解決策がありえるのかをオープンな気持ちで考え直す必要があるということだ。
 筆者の言う取り組みは、ソフトウェア開発で言えば、オープンソースという形で実現されていることに近い気がした。

 この手の本は、じっくりと読むに尽きる。一度目は分からなくても、スムーズに頭に入ってこなかった箇所のフレーズを繰り返し繰り返し読むことでやっと身に入るようになる。一度自分の中に取り込んでからよく咀嚼をして、受け付けなければその時吐き出せば良い。だから、食わず嫌いにならずに一度手にしてみる価値はあると思う。

おわり
 

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