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プライベートな映画空間を作りたい

 先日、昼食に寄った飲食店で隣のテーブルからこんな会話が聞こえてきた。
「それで、1本だいたい幾らなの?」
「400円です。新作とか旧作とかによって違いますけど、だいたいそんなもんです」
 上司らしき年配の人の質問にやや若そうな人が答えている(声だけの判断です)。
 それを聞きながらビデオレンタル店にまだ需要があることを知った。

 NetflixやAmazon Primeビデオなど、サブスクで簡単に映像作品を楽しめるいい時代になった。だから、レンタルビデオ店で借りなくても家にいながらにして見放題という環境が比較的簡単に作れるし、映画をよく見る人にとってはその方が安上がりだろう。それでもレンタル店に行くとしたら、きっとその人にとっては、お店に行って並んでいるパッケージの中から面白そうなものや今の自分が見たいと思うものを選ぶという一連の行為がセットで映画を見るという楽しい体験になっているのだろう。

 そう言えば私の息子たちだって、時折友達と一緒に映画館に行って映画を見ている。最新映画を映画館で見たいというこだわりというよりも、誰かと一緒に映画館という場所を体験することが全体で映画を見るという楽しみだからだろう。それは私も良く分かる。そして、仮に誰かと一緒に行くのではなく独りで行くとしても、映画館で見る映画は独特なものがある。
 映画館で見る映画の独特さはなんだろうか。
 テレビで見る映画との違いはなんだろうか。
 誰でも想像がつくことに、画面の大きさと音響の違いがあると思うが、これを差し置いても映画館で見る映画は家で見る映画とは違う気がする。
 今回はこの違いを考えてみたい。

 何でこんなことを考えてみたいかというと、それが分かれば自分だけのプライベートな映画空間を作れると思ったからだ。
 テレビより映画っぽくて、ホームシアターほど大袈裟ではなくて、集中して映画を映画館的に鑑賞出来る空間(環境)をつくって映画を楽しみたいと思いついたからだ。

 画面の大きさと音響の凄さ、売っている飲み物や食べ物といったことを除くと、映画館で見る映画と家での鑑賞の違いは次のようなことが考えられる。
 ひとつ目の大きな違いは、場所を移動するということ。
 家から出掛けて映画館まで移動するということ。移動を伴っているかどうかというのは、体験という観点では重要だと思う。わたしはこれから映画を見に行くんだという結構な意気込みが必要になる。映画を見るという行為のために移動という別の行為が強いられるから、記憶に残りやすいかもしれない。
 2つ目の大きな違いは、映画を見る空間に他人がいるということ。
 別に他人と会話をしたり感想を述べ合ったりする訳ではないが、同じ体験を共有している人がいるというのは影響が大きいのではないかと思う。
 3つ目の違いは、本編の前に予告があるということ。
 個人的にはこの予告が好き。小気味よいテンポで畳み掛けるように音とナレーションで展開する予告編は映画館には欠かせない存在で、これから映画を見るという気分を盛り上げてくれる。
 4つ目の違いは、暗い密閉空間だということ。
 これは最初に挙げるべき違いかもしれないが最初に思いつかなかった。遮光と遮音により画面だけに集中出来るような環境構築に映画館では多大なコストが投じられている。
 5つ目は、上映スケジュールが決められているということ。
 あくまでも映画館側が主体で、見る人はその上映時間に合わせなければならない。家で見る場合の自由さとは違って不自由だけれど、だからこそ特別な行為であるという感覚が演出される。

 う~ん。
 挙げだすと切が無さそうなのはもちろん、どれも簡単には真似できそうにない違いだ。
 家でNetflixで映画を見ようと思った時、予め密閉空間を作っておいて、上映時間を例えば14:00にしようと決め、予告に使う映像を用意し、一緒に見る他人を用意しておいて、一旦出掛けて14時に間に合うように戻ってくる。こんなのは無理だ。これが実現出来たとしても映画館で見る映画とは絶対に違いそうだ。というか何かバカみたいだ。
 プライベートな映画空間をつくるという目標が間違っているかもしれない。

 と、ここでうちにはVRがあることを思い出した。
 なぜここまで思い出さなかったかと言えば、VRで映画をまるまる1本見たことが無かったから。うちにあるOculus Quest2(今ではMeta Quest2か)を使えば結構近い環境がシミュレート出来そう。
 でもVRの映像鑑賞用アプリは、空間としては映画館のような見かけになるが、客はいないし、映画館までの移動もない。上映時間も決まっていない。
 だから、もし映画館をシミュレートしたアプリが出来れば面白そうだ。
 媒体はNetflixを使うとしてもアプリ内で上映時間が決められていて、アプリ内で自宅から出て移動することも含めVRで再現し、アプリ内の映画館では同じアプリの利用者がリアルタイムでそこにいるようにすれば、かなり実際の映画館環境に近くなるのではないか。

 待てよ。
 サブスクで見れる映画は、その手軽さが売りだったのではないか。
 何で私はこんな面倒くさくなるような手法を求めようとしているのか。
 だったら映画館に行ったほうが早いじゃないか。でも、そうだとすれば映画館の料金がもっとずっと安くならなければならない。堂々巡りだ。

 引き続き自分なりのプライベート映画空間を模索したいとは思うが、人間は結構面倒くさいことをするのが実は好きというか、価値ある体験はいろいろな手順を踏むことが必須なのかもしれない。
 結局のところ人が好む特別な体験って、気分が高揚したりすることがセットになっていて、その結果良い記憶が残るからこそまた体験したくなる。つまり日常の近くには転がって無いということか。
 そう考えると充実したプライベート映画空間の構築はそれほど簡単ではないかもしれない。

おわり
 

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