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映画『シェイプ・オブ・ウォーター』

 耳は聞こえているが喋ることが出来ない元孤児の女性が主人公。
 舞台はアメリカ、時代は60年代だろうか。
 映画館の2階にあるアパートに住み、政府系研究機関建物の清掃係をしている。

 ある日、彼女の勤務先研究所に危険な生物が持ち込まれる。それは人間のような形をして二足歩行をすることが出来、しかし全身を鱗で覆われた半魚人のような水生生物だった。時に人間を襲うその生物は機密の研究対象として解剖されようとしていたのだった。。。。

 人の心の機微はもっぱら役者の演技によって表現されるが、映画やドラマでは涙の演出のひとつとして雨を降らせることが多い。この映画では題名にもある通り、雨に加えて水を含めた様々な液体が重要な要素になっている。形があるようで形がなく移ろう様は人の心と似ている。
 水は生命力の象徴でもあり、生命と切り離すことが出来ない性描写にも水が絡む。

 そして、この映画で最も象徴的な表現が色である。
 平々凡々な日常を表す緑によってあらゆるものが彩られ、日常とは異なる夢の世界を描くテレビの中は白黒、映画の中はフルカラーで描かれる。
 一面の緑の世界に突如現れる赤は生々しさや美しさを象徴し、よこしまな世界は黒が支配する。
 ワンポイントカラーが茶色だなんて、オシャレでしかない。

 見た目や外観、障害の有無、就いている職業や住む地域などで差別することが当たり前だった時代を目の当たりにさせることで、その違和感を突きつけるのは今の時代だからこそ意味がある。
 差別が普通にあった時には気が付かなかったことが現在の視点から見ると浮き彫りになるからだ。

 挙げれば切りが無い。
 舞台設定、ストーリー、登場人物、そして結末と、謎だらけのこの映画は観る人を選ぶかも知れない。考えすぎると面白くないし、かと言ってエンターテイメントに振り切っている訳ではなく、ともかく楽しむためには独特の世界観にトリップする必要がある。
 ある種の謎解きとしてみても面白く、例えば主人公の女性がなぜ水生生物に親しみを持つのか、そのヒントもちゃんと提示されている。

 ファンタジーのようでいて皮肉に満ち、そして愛に溢れた大人の映画でもある。

おわり


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