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映画『愚行録』

 週刊誌の記者が1年前の殺人事件を追う。郊外の住宅地に建つ一軒家で、サラリーマンの夫とその妻と娘が惨殺された事件だ。しかしまだ犯人は捕まっていない。
 上司は今更そんな記事書いてどうすると取り合わないが、意外にも編集長がゴーサインを出す。

 記者の妹が育児放棄の子ども虐待容疑で逮捕されたところだった。編集長はそれを知って、彼の好きなようにさせようとしたのだ。
 この兄妹、父親から虐待を受けた過去があった。

 この世には格差があるんじゃない、階級があるんだよ。

 いみじくも劇中で妹がそう言うように、家柄や育ちといった見えない壁は、人々を分け隔てている。階級の違いはどんなに隠しても分かってしまう。ただし稀にその階級を飛び越えられる人がいる。

 この物語の主人公である記者は、バスで席を譲ってやれと言われて素直には応じられない、そんな人物だ。妊婦が席の横に立てば、何で俺なんだよと思う。それでも表向きは席を譲る。
 正直に言えば、私にもそんな一面が無い訳では無い。その度に自分の浅ましさに嫌悪しつつも、唇を噛んで俯くのだ。

 これみよがしの正義を素直に受け入れられないのは、記者が心底人を信じることができないからだ。
 彼が口にする。平等だなんて思っていないが、この世には希望すら抱かせない様な恐ろしい怪物がいるのだ。それは彼の父親のことであり、彼は人生に希望を抱くことをとうの昔に諦めている。

 哀しく、救いのない物語だ。
 でも、実際そういうものかも知れない。はたから見れば普通の人のように見えて、その心には深い闇を抱えていることだってある。それは悩みとかいう半端なものではなくて、絶望に近い。出口の無い迷路の様に悪意に満ちている。
 お兄ちゃんがいて良かった、のだろうか。

おわり


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