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人員配置緩和に対する二つのニュース。

今日はじわじわと迫っている人員基準緩和について、ニュースサイトで連日関連記事が掲載されていたので内容を紹介しつつ感想なり書いてみようと思います。

まずは『サービスの質は絶対に落とさない』というタイトルが躍るSOMPOケア社長のインタビュー記事、5/30の記事ですね。

介護施設や介護付きホームなどの人員配置基準を現行の3対1から緩和していく構想について、「チャレンジすることが大事」と表明。

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チャレンジは確かに大事と思いますが、個人的には人員基準の見直しより前にもっと簡単に効率化できる事からチャレンジしていただきたいのですが・・・。

そういう人を減らす前にやれることをやりきってからの話だと思うんです。
このあたり介護報酬カットが予想される中で、人手不足の情勢を逆手にとって安易な費用削減に走っているように見えなくもないんですけど、これだけの大手企業ですから、もっとそういう誰でも思いつきそうな事ではなくて、『そんな方法や工夫があったのか!?』みたいな事をどうしても期待してしまいますし、そういうチャレンジを見せてほしいなぁ、というのが個人的な感想です。

「10年後、15年後、2.5対1など現在の人員配置を本当に維持できるのならそれでいい。回らなくなる状況がじわりじわりと迫ってきている」

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周知の事実ですし、何も介護現場に限った事ではなく、コンビニでもどの業種の店舗にいっても従業員募集のポスターが掲示されています。
この人手不足の予測なんて、僕が介護業界に入った頃(15年以上前)から言われてきてた事です。
わかってた事に対して、何か手を打ってきたとしたのなら、それは全く効果がなかった事ですし、これまでと違うなにかを工夫しないといけない時期であるのは間違いないのですが、それが人員基準の緩和という発想ではあまりに考え方が貧困すぎます。
介護の手は、それがそのまま介護サービスを必要とする利用者さんにとっての可能性の量や幅になります。人手が足りなくなるから基準を減らすなんてのは安直だなぁと思います。

介護保険は弱者の人権と尊厳を守り生活の質(人生の質)を高めないといけないサービスです(憲法と介護保険法に明記)。
これは、人手がないとできない部分であって、効率化できる内容ではないんです。
少なくとも現状の人員基準でさえ質の向上は困難な状況である事は間違いありません。それがなぜかをもっとよく現場の仕事を見て考えないとダメです。

なぜ現場の我々にはPDCAサイクルを厳格に求め、アセスメントや計画や記録や評価をさせているのに、こういう事を進めるにあたって行政が同じ事をやってちゃんと分析しているように見えないのはなぜでしょう。
資料にはいろいろデータは提示されていますが、現場の生のデータや声って見たことがないんですよね。
だって、ルールを作る厚労省の役人が自分たちが作った現場の書類業務や基準ルールの運用について、改善の視点で見に来る事はありませんもの。

実地指導だって、本当はそういう改善の可能性を行政担当者と一緒に検討できる場であればいいのに、ダメ出しや書類が足りませんとかそういう内容ですから、現場ではそういう書類をせっせと用意するのが偉い人ってなっちゃいますよね。(一部の行政では、本当にいろいろと相談させてもらって大いに業務改善できたケースもあるので、すべてとは言えませんが、多くの行政が四角四面な実地指導です。運営指導って名前に変わったんでしたっけ・・・)

「介護サービスの質は絶対に落とさない」と強調。"人間でなくてもできる業務"をテクノロジーで大幅に効率化したり、間接業務を補助的なスタッフに任せたりして現場の負担を減らすとしたうえで、「品質を伴う生産性向上が最も重要」と念を押した。

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個人的な意見ですが、人を減らしたら絶対にサービスの質は落ちます。

介護職の力量によってもいろいろありますが、一人の人間が対応できる限界なんてのは絶対にあるんです。
現場の仕事はそれでも回りますよ、現場の職員だって頑張りますから。
だけどね、質は絶対下がりますよ。
こんなのは考えたらすぐにわかるし、想像もすぐにできます。

人間でなくてもできる業務をテクノロジーで効率化、これはいいと思いますしどんどんやってほしいです。介護の現場で人間でなくともできる業務って記録や計画作成とかくらいでしょうか。
お掃除ロボットでお掃除させましょうか。
配膳下膳をロボットでさせますか?確かにファミレスとかに行けばロボットが配膳してくれます、物珍しくてわくわくして受け取りましたが、介護が必要で入所している利用者さんで、配膳ロボットから自分のお膳を取り出せる方って本当に一握りの方ですよ。
これ以外に人間でなくてもできる業務ってあるのでしょうか。
見守りくらいかなぁ、でも見守りも何かあったりありそうな時は人が対応しなければならないので、単純に効率化できる内容でもないとは思います。

間接業務を補助的なスタッフで・・・。
その補助的なスタッフすら確保できそうにない見込みだと思います。
たしかに用務員という形で介護職以外を雇って、というのは僕も考えて実際に導入した事があります。当時の拠点長権限で介護職ではない用務職として数名を雇いました。事前に介護職と役割が明確に違う、と説明して導入しましたが、デイサービスで導入したのでちょっと難しかったですね。
介護職からはあの人利用者さんとしゃべってばかりとか不満が出たり、用務員同士であの人は仕事しない、という不満も。
その都度、導入の意味を説明したりしてなんとかやってましたが、僕がその拠点を離れる事になってからはもうだめだったようです。引継ぎでもちゃんと意味と役割の違いは説明したのですが、後任の方が理解できてなかったみたいで今では用務で雇った人は全員退職したようです。
中には行政から適応障害の社会復帰プログラムの相談を受けて用務員から慣れて2年後に介護職になってくれた方も居ましたが、その人も残念ながら退職したようです。多くの現場介護職が、全員がオールマイティに仕事ができないとダメだ、という幻想を抱いています。自分ができるできないに関わらずです。チームで助け合わないといけないのにその意識が非常に希薄です。だから離職率が高い業界なんだと思います。

品質を伴う生産性向上が最も重要なのは僕も大いに賛成ですが、それはICT化やロボット導入では達成できない課題ではないかと思います。
品質の向上は、介護を提供する人間性の向上と密接な関係があると思っています。思いやりや優しさといった、本来あるべき人間性です。
ここを伸ばしてあげる教育であったり指導であったりが、この部分では必要なのではないかと思っています。当然、基本的な学習も必要です。
品質を伴う生産性向上を本気でやるなら、提供したサービスの質に応じた評価システムが不可欠ですし、そのシステムと連動した処遇改善が必要です。
まずはここからやらないと問題の根本的な解決にはならないと思いますし、これができてないから現状の介護職不足に至っている側面もあると考えています。

国はSOMPOケアらとともに、モデル事業を通じた実現可能性の検証などを進めていく方針。鷲見新社長はこの検証について、「我々はデータをしっかり出すだけ。それを客観的に判断してもらえれば」と述べた。

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実証実験ですけど、システムを売りたいSOMPOケアがモデル事業で実証実験してもよくないと思うんですよね。
システムを外部に貸し出すなりして、複数の法人に委託して広くデータを集めないと意味がないと思います。客観的に判断するのであれば。

そして本日の記事が以下のタイトルです。
『職員減らしなら強く反対』という事で、利用者団体からの意見ですね。

センサーなどのテクノロジーをフル活用して業務を効率化すれば、サービスの質を落とさずに一律の体制を見直せるのではないかという考えがある。

会合でこれに異を唱えたのが、「認知症の人と家族の会」だ。

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こういう会議でちゃんと反対意見を出せる団体があるのはいいですね。

「われわれ家族は面会の度に忙しい介護職を見ている。人数が足りないのではないか、といつも感じている。『柔軟化』が介護職を減らすということであれば、特例的であろうと大変心配」と問題を提起。「職員を減らすということであれば強く反対」と強調した。

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僕の意見も代弁してもらえましたね。
そうなんですよ、今の現状でも人手不足感があります。
職員を減らすという事が、どういう事なのかをちゃんと理解して発言されているんだな、とよくわかる内容でした。

「介護職にゆとりがなければ虐待の防止につながらないことは明らか。心身ともに疲弊している状態で、他者に優しくすることは難しい。想像力を働かせて実態を知る、というのはそういうことではないか」と語った。

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こちらもおっしゃる通りの内容です。
新しいルールや基準を作ったり変えたりするのであれば、ちゃんと現場を見てほしいです。
そこで制度に翻弄されながら一生懸命働いている介護職をちゃんと見てほしいです。
ですので、やるのであれば人を減らすよりも書類作業を減らしてください。
何をするにしてもまずはそこからです。
全事業所に最新の記録システムと端末を配布してください。
なんなら動画撮影による記録を認めてもらえれば、介護職が実際のケアを提供している状態を目線のカメラなどで常時撮影しておけば、虐待防止やケアの質の向上や、ケアの振り返りにも活用できます。
そういうのを全事業所に無償で配布するくらいの事をしないと全体の質の向上や効率化にはつながらないと思います。

基準緩和に前向きなスタンスの業界関係者もおり、2024年度の制度改正・報酬改定をめぐる大きな争点となる見通しだ。

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はてさて、どうなるんでしょうか。
実際、決まったらそのルールの元で運営しないといけませんが、おそらくですよ、勝手な想像ですけど、基準が緩和されても、緩和された基準で運営する事業者は少ないのではないかと思います。基準は最低限の基準であって、それ以上の配置をする事自体は経営努力なので問題ではありませんので。
ただ、基準という最低限のハードルを下げる事で予測されるのは、上記でも出ましたが、虐待や身体拘束といった一部の悪質な業者や職員による悲惨なニュースが増えそうだなぁ、という事です。
介護保険の導入で、介護を社会で、という方針だったころは虐待や介護殺人のニュースも減りましたが、介護予防や自立支援などの方向に舵を切って自助互助といった地域包括ケアシステムが叫ばれるようになってからですよね、介護殺人や虐待のニュースが多くなったように感じています。
要は国がどこを向いて方向性を示すかだと思います。

まずは導入するICT等の機材の購入で相当なハードルがある事と、そうは言ってもそれで現場が回るとは思えないので、無理な導入をすればそれこそ介護職員の退職につながる可能性もあります。
非常にデリケートな問題ですし、実際に利用者側の団体からは懸念の声も上がっているので、もっと慎重に検討していただきたいな、と思います。

しかし実際に目の前に迫っている人手不足問題ですが、在宅サービスも在宅サービスでいろいろと大変です。

ヘルパーは人員基準の常勤換算2.5を確保する事すら困難な事業所だってありますし、デイサービスは看護師や機能訓練指導員の確保が難しくなりつつありますし、介護職だって集まらないので人員基準ギリギリの日だってあります。

基準を守れないと運営できないのでどうしても採用に費用がかかるのですが、これも人材紹介会社を経由すると介護報酬の一部を現場で頑張っている職員の処遇改善ではなく、紹介会社の報酬として支払うという事になるので、これもどうだかなぁ、と思います。

介護サービスの求人は、すべてハローワークのみにしてもらえませんでしょうかねぇ・・・。
関係ない業者に謝礼を払うくらいなら、現場で頑張っている職員にお金を払いたいんですよ。

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