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山本泰寛の執念深さを、僕はよく知っている【4/13 対ドラゴンズ戦●】

開幕して間もない頃に起こる「移籍した選手にどういう感情を持てば良いか」問題。戦力外通告かトレードか、はたまたFA権公使なのか。移籍の仕方によって捉え方は変わってくるが、結局は人間関係のようなものだから答えは選手によって違ってくる、ということになるのだろう。
少なくとも僕は、1軍の舞台でドラゴンズの山本泰寛に会えることを楽しみにしていた。

たとえ他球団から来た選手でも、タイガースのユニフォームを着て一緒に戦った選手との間にはいくつもの思い出ができる。在籍していた期間が短くても、そんなことは関係ない。タイガースの選手としてプレーしていた間にたくさん思い出ができれば、自然と思い入れも強くなる。

タイガースの山本との思い出で、僕は2度のサヨナラゲームが強く印象に残っている。タイガースに加入して1年目、ドラゴンズの福敬登からセンターオーバーのサヨナラヒットを放った。ヒーローインタビューは屈託のない笑顔で「タイガースの一員になれた気がして嬉しいです!」とコメントした。彼がタイガースに来てくれて良かったと、心の底から思えた。

もう1つは移籍2年目のこどもの日に行われた試合。満塁一打サヨナラのチャンスで打席が回ってきた山本は、球をじっくり見極め、押し出し四球を選んだ。サヨナラヒットを放てば文句のつけようのないヒーローになれる場面。焦る相手投手に対して、山本は冷静だった。投球が外に外れて、山本は持っているバットを1塁側ベンチに掲げた。ここでも仕草が控えめで、なんとも山本らしかった。

山本は打席でじっくりボールを引きつけて打つことが多い。カットするときもアウトコースはバットの先をボールに届かせ、インコースは体を引いて腕を折りたたみながら何球も粘っていた姿をよく覚えている。少なくともクリーンヒットの長打は期待できない打ち方だ。それでも粘って粘ってなんとかしようとする姿には、山本の「プロ野球の世界でこうやって生きていくんだ」という執念が表れている気がした。
昨シーズン、タマスタ筑後で何度も山本を見た。2軍戦とはいえ、山本の技術力は健在だった。プロの世界でやっていくという彼の執念は、まだ消えていないように感じた。

だからこそドラゴンズで現役を続けられることになったことが、心の底から嬉しかった。

タイガース・大竹耕太郎を攻略する足がかりとなった2本のヒット、そして試合を決定づける終盤のタイムリーヒット。いずれも僕が知っている「山本らしい」ヒットだった。内野手の間を転がっていく1本目のヒット。粘って8球目を外野に運んだ2本目のヒット。外野手の前にポトリと落ちた3本目のヒット。きれいな当たりではなかったかもしれないけれど、山本はこれでプロ野球の世界を渡ってきたのだ。僕には分かる。だって去年までずっと見てきたのだから。

タイガースに移籍してしばらく経った後、当時の古巣ジャイアンツ戦を前にして記者に心境を語っていた記事を思い出す。たしかこう話していた。

「古巣に成長した姿を見せたい」。
このコメントが載った後、山本はタイガースに来て初めてのホームランを放った。
時は経ち、今度はタイガースが古巣になった。そして移籍後初めてのスタメンで3安打を放った。

ちぇっ、今度は成長した姿見せつけられちゃったなあ。
悔しいけど、嫌な気持ちはしなかった。

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