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映画レビュー:居眠り磐音(2019)〜友・許嫁の兄を斬った絶望の剣とのほほんと生きる姿のコントラストをもっと見たかった

ストーリー

 坂崎磐音(松坂桃李)、小林琴平(柄本佑)、河出慎之輔(杉野遥亮)は豊後関前藩の藩士で幼馴染、しかも琴平の妹、舞は慎之輔の嫁に、そしてもう一人の妹奈緒(芳根京子)も磐音の許嫁となっていた。3人は江戸勤番を終え国元へ帰るが、そこで事件が起きる。舞の不貞の噂から、この3人が斬り合うことになってしまったのだ。最後は磐音が琴平を討ち取ることとなり、絶望した磐音は許嫁を残したまま行方をくらましてしまった。半年後、長屋の家賃も払えぬ磐音の困窮を見た大家の娘、おこん(木村文乃)は彼に用心棒の仕事を紹介するが…

レビュー

 50巻を超えるという人気シリーズの原作は知らないまま、松坂桃李の演じる時代劇が見たくて視聴。役者として幅を広げつつある桃李の人気シリーズにしていきたいところなのか、という思惑も感じつつ、全体としてはやや物足りなさを感じる作品という印象を残した。
 もっとも魅力を感じるのは、タイトルにもある「居眠り」という言葉。主人公・坂崎磐音が編み出した独特の剣術のスタイルなのだから、その居眠り剣法の凄さ、すさまじさを、特撮物の必殺技はだしの演出で見せてほしいわけなのだ。「年寄り猫が縁側で居眠りするような」と「強い剣士」とのギャップをまざまざと見せつけてこその、爽快感ではないだろうか。

 そしてそれは、本作の根幹となる磐音自身のドラマとも重なってくる。昼間は子供たちにからかわれながらの鰻屋修行、そして夜は剣の腕をいかした用心棒、昼行灯で夜は剣の達人という、そのギャップに萌えるというのが彼のキャラクターであると同時に、呑気で気のいい浪人に見えて、頭は切れる、腕は立つ、そしてその影に凄惨とも言える過去がある、そのギャップがキャラクターに奥行きを与えているのだから、その彼の緩急をこそ丁寧に描くべきではなかっただろうか。

 その意味でいうと、冒頭、磐音が脱藩するきっかけとなった事件をがっつり描いてしまうよりも、江戸でのほほんと暮らす浪人が、実は居眠り剣法を使う凄腕の剣士で、どうやら何か過去に暗い出来事があったらしいとほのめかす程度にしながら、江戸で生きる「居眠り磐音」の姿をメインに描いた方が、磐音という人間に、より求心力を持たせることができたのではないだろうか。

 キャスティングでいうと、琴平の柄本佑は殺陣もバタバタした感じだし、狂気にふれるような役柄が多いので、出てきただけで「こいつが犯人です」と思ってしまう役者になってしまっていて、案の定そうだったので興を削がれてしまう。磐音と親しくなる町娘のおこんを演じる木村文乃がとても良く、一方許嫁の奈緒の印象が薄いので、いや、別に奈緒を取り戻さなくても、おこんでええやん、と思ってしまうのも作劇の方向性としてはあまりよくないだろう。

 全体として、一番の見どころとなる殺陣に見応えんがなく、時代劇に慣れた大物が誰か一人でもいればよかったのにと感じた。磐音の人物像に面白さを感じただけに、もう少し完成度の高いものを見たいなと思った。豊後関前藩の城下町のロケ地となった大分杵築市の城間勝の風景はとても美しく、今度大分に行く時にはぜひとも訪れたいと思った。

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