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こぐま座アルファ星

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カクヨムで連載中の長編小説『こぐま座アルファ星』のまとめ
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#連載長編小説

終章 きみがきみの行きつく場所へ - こぐま座アルファ星

「優都?」
 旅館の入り口に据えられた低い階段に腰掛けてどこか遠くを眺めている後ろ姿の名前を呼ぶと、優都はいきなり明るくなった視界に目を細めたまま振り返り、「あ、千尋か」と呟いたあとに安堵の笑みを浮かべた。比較的標高の高い長野の山の中では、真夏とはいえ夜は長袖がほしいくらいには肌寒い。周りに民家もない、電灯もない、月明かりだけに支えられた暗闇が、千尋のかざしたライトで一気に開けていく。「眩しい」と

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第六章 - こぐま座アルファ星

 一月の騒動の直後、三日ほど学校に出て来なかった潮がやっと部活に顔を出したとき、まっさきに頭を下げたのは千尋だった。「ごめん、一方的に言いすぎた」と膝を折って潮の前で手をついた千尋に、潮は立ち呆けたまま目を丸くして、なんと返事をしようか迷ったように何度か言葉を飲み込んだ挙句、「千尋先輩のガチ土下座初めて見たんですけど」と言って笑った。
「一昨日集まったとき、森田と京に、さすがにあの言い方はないって

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第五章 - こぐま座アルファ星

 合宿後すぐに開催された八月末の都個人大会で納得のいく成績が残せなかった優都は、櫻林での合同練習を経たその一ヶ月後、ぎりぎりで選抜資格を得た九月末の関東大会個人戦ではそれに輪をかけて調子が悪く、予選からほとんど中らずに準決勝に進出することすらできない状態だった。昨年、自身が都個人の優勝者として出場した同じ大会では彼は入賞こそ逃したものの決勝までは順当に勝ち上がっていたし、今年こそはという思いもあっ

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