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「日本の投資会社化」って騒ぐほどですかね?

円安進行の影響が大きくないですか?

 本日の日経朝刊で興味深い記事が出ていました。日本が海外から稼ぐ配当・利子などが50兆円を超え、日本が投資会社化したというのです。

 ここで紹介されているデータは日本のGDP統計における「海外からの所得の受取」。確かに、2022年7~9月期の季節調整済みの年率換算値は50兆円を超えています。しかし、気を付けなければいけないのはこの金額に昨今の急激な円安ドル高の影響が含まれていることです。「海外からの所得の受取」の2021暦年の実績は38兆円で、2022年1~3月期の季節調整済みの年率換算値は44兆円でした。半年間で1.13倍になっています。一方、2022年1~3月期平均の円ドルレートは1ドル=116.2円に対し、7~9月平均の円ドルレートは138.4円と1.19倍です。円安によるドル換算額の増加で説明できる気がします。
 この海外からの所得の受取の基礎統計は、国際収支統計における第一次所得収支の受取額になります。そこで、IMFの「Balance of Payments and International Investment Position Statistics」による日本の第一次所得収支の受取額の米ドル換算値と、財務省「国際収支統計」による円換算値を比べると下記の図のような姿になります。米ドル換算値は緩やかに増えている一方、円換算値は為替レートの変動によって減ったり増えたりしています。海外からの所得は外貨建てであるから当然ですよね?

受取だけみれば世界第3位、米国の3分の1

 この記事のもう一つの問題点は、国際比較を第一次所得収支、つまり受取から支払いを差し引いたもので行い、日本が第一位であることを示していることにあります。受取額が大きいことは、必ずしも収支額が大きいことには結び付きません。なぜか、この記事はOECDデータを使っているようですが、IMFの「Balance of Payments and International Investment Position Statistics」を用いれば下記の表が簡単に作れます。

 2021年における日本の第一次所得収支の受け取りは世界で第3位ですが、第4位のオランダとは僅差、ドイツや中国との差もわずかです。第1位は多国籍企業の本家本元の米国で、その額は日本の3倍強です。記事では英国の第1次所得収支の赤字が続いていることに関連して、受取減少について触れてますが、日本と英国の受取金額の差は500億USドルに過ぎません。主因は支払の差と考えられます(英国は日本の2倍以上)。
 その一方で、日本の第一所得収支の支払は世界で第14位。第1位の米国の10分の1弱で、ロシアにも下回っています。いかに海外から日本への投資が少ないかがわかりますね(国債を国内で消化している影響もあるのでしょうが)。
 その結果、第一次所得収支では世界第1位だとしても、そんなに胸をはる話じゃないんじゃないでしょうか?

データ報道するならきちんとデータ把握を

 最近の日経は「チャートは語る」というタイトルで、データを踏まえた報道に力を入れています。このことはEBPMが重視される現在、大変すばらしいことと思いますが、データを踏まえるならきちんとやって欲しいですね。私は、IMFの「Balance of Payments and International Investment Position Statistics」を今回初めて使ったのですが、大変使いやすいデータベース(しかも無料!)でした。下記のリンクで、私は「Data Tables」を利用しました。皆様、是非ご活用いただき、中途半端なデータを踏まえた報道に振り回されないようにしましょう!

#日経COMEMO #NIKKEI

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