【起業戦略】第15講 大企業の参入
ここ数回は、特に2Cにおける競合と差別化について話してきた。
今回はその流れでもうひとつ。
「大企業が後発で参入してきたらどうなるの?」
っていう、新規事業を投資家に説明すると、必ず訊かれる質問について話そうと思う。
まあ、聞かれるとドキッとするよね。マイクロソフトやGoogleやトヨタが自分の考えてる製品やサービスを打ち出してきたらどうしよう?とか考えると、とても太刀打ち出来そうもない。
「どうやって大企業の参入を防ぐの?」
とか、問い詰められると、答えがなくて震えるよね。
「ピボット(事業転換)しなきゃ!」
って思うかもしれない。
でもさ、この「どうやって参入を防ぐの?」っていうのは、本当に実務感がない質問だと思う。
大企業側の立場に立って、想像してみよう。まずは、ベンチャーと直接競合する製品を持たない場合。
あなたは大企業に勤める一社員だ。自分の担当する製品と比較的近い領域のベンチャー企業製品をネットの記事で見つけたとする。近い領域というだけで、直接的に競合するわけでもない。
気にする?
しないよね。
まあ「注目ベンチャー」みたいな扱いになってたとして、「ふーん」で終わるだけだ。
その後、数年経って「注目ベンチャー」「前年比売上10倍」「売上3億円!」みたいな記事を見たとしよう。気になる?
「小さけりゃ、10倍くらいになるよ」
くらいしか、思わないよね。自分の担当製品の売り上げが数百億なんてあったら、さらにもう全く気にならないんじゃない?
ちなみに、マイクロソフトの売上は30兆円で、Googleの売上は10兆円。普通に考えて3億円の売り上げ(あなたにとっては、大ごとだが)のために、動かないでしょ。
今度は、あなたがその大企業である程度の金額が動かせたり、経営的な意思決定ができる立場だったとしよう。
あなたの戦略は、①無視/手なり、②資本業務提携、③買収、④後発として製品開発&営業力で駆逐の四択が考えられる。
どれを取るか。
この中だと①無視/手なりが、一番ありえる。現場と一緒だ。
有望なベンチャーだとして、たとえば社長がその領域に進出しろ!みたいな号令をかけていたら、②はいくかもね。資本業務提携ってやつ。少しお金を入れて、連携を強めつつ、自分の競合にこのベンチャーを取られないようにする的な動き。
場合によっては③まであるかもしれない。
②、③はベンチャー(つまり、本来のあなただ)との交渉になるからうまくいくかもしれないし、うまくいかないかもしれない。いずれにせよ「相手がある話」になる。
ベンチャー側が一番恐れる「④後発として製品開発&営業力で駆逐」は、ありえるのか。
①、②、③をすっとばして、④なんて、自分の周りで聞いたことある?
まずない。だって、一番面倒くさいよね。これ。しかも必ずうまくいくかどうかも分からないのに、自社の経営陣に「製品開発するので投資してください!」なんていうの、正直、しんどいもん。
大企業の参入なんて、そんなもんだよ。
じゃあ、大企業側に競合する既存製品があったらどうだろう。
既存製品があれば、そこに新機能を追加するくらいで、ベンチャー側のすべての機能を凌駕してしまうなんてことはあるかもしれない。理屈の上では。
でもね、実際には大企業側には大企業側で、プロダクトロードマップ(開発計画)が存在していて、そのための開発リソースや予算が12~18ヶ月先まで割り当てられているから、そんな簡単にベンチャーの製品をベンチマークした新機能を開発するなんて出来ない。
新機能を追加するとして、ソフトウェアの場合は既存のUIとの相性も気になるところ。機能を実現できても、その既存製品のUIでは、その機能の使い勝手はめちゃくちゃ機能かもしれない。(そういった意味ではUIが、実は参入障壁になるってこともあるだろう)
売り物が、モノにしても同じだ。たとえば金型ひとつとっても作り直すのは大ごとだろう。
要するに、大企業側にもろに競合する既存製品であっても、多くの場合、そんなに短期の間にマネする(決断をする)のは容易ではないんだ。
機械翻訳で世界に衝撃を与えたDeepLは、ドイツのベンチャーだ。Google翻訳の遥かに上を行くDeepLを前に、企業としては、数百倍~数千倍の事業規模を持つGoogleが、追いつけない。経営資源を集中投下すれば、もちろん追いつくことは出来るだろう。でもね、Googleは翻訳ばっかりやってる訳じゃない。他にも「こっちに金を回せ!」と言っているプロジェクトが世界中に何百とあることだろう。
似たようなことは、そこかしこで起きている。
OpenAIに、Googleが遅れを取っている。
トヨタが、テスラの電気自動車に遅れをとっている。
SlackやNotion、Lark、Zoom、Canvaが出てくる中で、大手は常に遅れを取っている。
ね。
「大企業が参入してきたら?」
という質問は、よくある質問だけど、そんな状況って実はそんなに多くないんだ。
という訳で、ベンチャー、スタートアップは過度に大企業を恐れずに!。そして、VC、新規事業企画部門においては「大企業参入の可能性」を理由に投資をためらわないで下さい。
さて、次回は「営業力でなんとかなるか?」について、話してみようと思います!
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