満月

この世にある暴力のすべてが憎い。暴力行為が憎いんじゃない。暴力でひっくり返される世界があることが憎いんだ。


5月8日の真夜中、私は家を出て、ひたすら東へ自転車を走らせた。21歳の家出は、周到な計画によって進行された。例えば、2か月前からnote、Twitterを更新していたこと。例えば、友人に「このような場合は、大切な絵を預かってほしい」と話していたこと。例えば、現金数万円をあらかじめ引き出してあったこと。例えば、売却の際には身分証明書が必要であると知っていたこと。

きっかけはまあ些細なことだ。私はロングスリーパーであり、最低でも1日9時間以上の睡眠を取りたい、と常々話していた。家族と生活リズムが合わないことで言い争いになることが以前から多々あった。そんな生活の中で、ついに「出ていけ」という言葉を引き出したのである。

私は天才なので、その言葉を引き出した真夜中にサッサと家を抜け出すことができた。コロナが、緊急事態宣言が、とか言うけど、このまま家にいたら、間接的に「コロナ」っていう概念に殺されちゃうと思ったんだ。


その日は、真夜中なのに月がとてもきれいだった。

足を止めると、「あーー、私ずっとこのままなのかな」って思ってしまうから、ひたすらに自転車を漕ぐ。次第にタイヤの空気が抜けて、無限のスピードが出るようになるのも怖くて、止めようとして派手に転んだ。大丈夫、大切な絵は無事だし、switch(売却用)も無事。でも、両膝がめちゃくちゃ痛い。絶対血が出てる。全身もめちゃくちゃに打った。ていうかiPhoneないから今「迷子」なんだよ。たすけてくれ~~泣。

こんなに真夜中なのに月が見えるってことは、月が満ちているんだ。

昔見た宇宙の本を覚えている。月はこれから西へ沈む。明るいほうが好きで、ずっと月を見るのやめないと、前へ進めない。白い月を振り返らないで、朝の電車に乗って向こうへ行ったとき、私は切ってない手首を切ったんだ。自家製の躁鬱をうまくあやして、自分の機嫌を取りつつ、まず大切な絵を友人に預けに行く。


友人も、ほかの人も、私を金銭的に支援してくれようとしてくれた。気持ちはありがたかったが、すべて断った。お金が絡むと、暴力への道筋になる可能性があったから。

私は人間だから、頭脳で勝負しようと思った。この世界には、人間じゃないみたいな人がたくさんいて、私は「人間じゃないみたいな人」を人間に変える手段をよく知っている。彼らは、会話の手順を知らない。文字を知らないし、見えないものを見るための手段を見ることができない。だから、発達障害とか毒親とかって、文字が読める人のための言葉なの。私のことを言葉で縛らないで。

人間じゃないみたいな人がやる暴力がいちばん憎い。お金を手に入れるための過程で勉強をして、ようやくわかった。なるほど、発達障害者の犯罪を裁けないってわけね! ということが。じゃあ私が今死んだら、メチャクチャ過敏な世間知らずの女の子だといわれて終わっちゃうんだ。

私はそれが許されるならば、人間じゃないみたいな人が暴力をやるのを見つけ次第抹殺したいくらい、その暴力を憎んでいるというのに!

でも私は人間だから、暴力をやってはだめだった。人間だから、頭を使うべきだと思ったんだ。名前のある病気の模倣をして型にはめて判断させて、相手を油断させる。手首を切る気なんてさらさらない、健康じゃなければ外に出れない。学校へ行って勉強する。友達を作る。夢を見る。私は何にもなりたくなかった。普通じゃなくていいから、何にもなりたくなかったよ。それも、人間じゃないみたいな人の暴力が壊した。


いまは、このご時世でもやってるネットカフェで記事を書いてる。始発の電車に乗って、一度家に帰る。暴力じゃないもので話をつける。暴力は憎いけど、それと私が家族を愛してることは一切関係ないんだ。私と家族、どちらか片方だけを肯定/否定する人間のことが、暴力と同じくらいムカつく。多少の荷物を持ったら、昼には今の住処に帰るよ。

私のことをよく見ていてね。私の頭の中は、きっと誰かの役に立つよ。役に立つにきまってるでしょ? 私は私で、あなたとは違うから。明日の夜にまた会いましょう。


(近いうちに「サポート」を受け取れるように手続きします。一定数以上サポートされないと受け取れないんですけどね……)

サポートされると楽しい