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アーティスト・コレクティブとSDGsな現代アートの祭典ドクメンタ15 訪問記#2

あらゆるフィルターを通して

些かカッセル駅の様子を完全に忘れていた私はこの駅の様子にまず驚く。ドクメンタのイメージでは古い駅舎を使った映像インスタレーションやプラットフォームでの展示を記憶していたからだ。
今年、ドクメンタ15の展示をホームページで調べてみると、まずカッセル中央駅(Kassel Hbf)付近には3つほどあるようで、11時過ぎに駅に到着してすぐに行くことができる展示を見ることにする。
はじめにKAZimKuBAというジミー・ダーラム(Jimmie Durham)のアイデアを出発点としたアーティストコレクティブA Stick in the Forest by the Side of the Roadである。ホームページのテキストから、「ダーラムは1980年代に、石、動物の頭蓋骨や骨、木彫りなどの素材を使ったオブジェや彫刻で国際的に知られるようになり、ヨーロッパ中心主義の「インド美術」に対する皮肉が込められている。1987年、ダーラムはアメリカを離れ、・・・(中略)・・歴史と環境、建築と記念碑の間のつながり、そして政治的な権力構造や国民性に関する物語に対する批判的な考察が、しばしば彼の芸術作品や文学作品の中心をなしているのです。彫刻、映像作品、ドローイング、テキストは、共存のための一般的な行動規範や、異なる文化や社会と自然との関係性を表現している。」と掲載されている。
この展示からは良い意味での初々しさ、悪い意味での展示の未完成さを感じた。私の頭の中がルアンルパに引っ張られ過ぎているのを反省しなくてはいけない。つまりアーティストが何人、どこの国の出身といったことで作品を見ていることである。ここで「欧米人」「アジア人」の様な大きな括りで語るのも甚だ可笑しく思えてくる。自分は中立な立場でなるべく作品を鑑賞しようとしていたが、この展示を鑑賞することで、自分自身の持つ複数のフィルター(あるいは色眼鏡)を知ることになる。

KAZimKuBA
ZINE /  Jimmie Durham & A Stick in the Forest by the Side of the Road 


Jimmie Durham & A Stick in the Forest by the Side of the Road, Jone Kive



ベルリンの思い出、WH22にて

フライドチキンを巡る旅
ここはカッセル、ドクメンタ15。私はこの会場WH22ではベルリンを思い起こした。地下の会場はベルクハイン(Berghain/ベルリンのクラブ)のような作品(Party Office b2b Fadscha)が広がり、上の階にはアラブ系のチキン屋の看板がある(Hamja Ahsanのプロジェクトで、ドクメンタ会場の色々な場所にある)。
このチキンの看板を見ると、ベルリンのハラル印のRISAというファーストフードチキンチェーン店を思い出す。アラブ通りとも言われるゾネンアーレー(Sonnenallee)には多くのアラブ系レストラン、スーパーが存在する。グローバルな昨今、今更「キリスト教の国だと思っていたドイツにこんなにたくさんアラブの店がある!」なんて大きな声では恥ずかしくて言えたものではないが、私は初めて活気あるアラブ通りを目の当たりにした時の驚きを記憶している。
ここの展示を通して、食べ物一つ取っても一筋縄では語れない面白い歴史や悲しい過去があるものだと改めて認識する。やはり、今回のドクメンタはアートを鑑賞しているという感覚より、社会学的フィールドワークの出発点にいるように思える。

Hamja Ahsan

ベトナムガーデン
さらに奥に行くと、そこにはベトナム・ハノイ発Nhà Sàn Collectiveの庭が広がる。ベルリンには多くのベトナムにルーツを持った人たち(Vertragsarbeiter/innenとしてDDRの時代にベトナムから多くの移民がいる)が住んでいる。しかし、この庭はどこか見せかけで、ただのアジア趣味の様にも見える。移民や他宗教への理解はなかなか難しいけれど、理解しようとする姿勢は必要である。そして気をつけなければいけないのは、自分がある文化や人種に対して(物事全般に言える)勝手な想像あるいは妄想に取り憑かれている可能性がある。この庭はその「見せかけ」を作ることで、私たちに妄想フィルターの存在を突きつけているのかもしれない。

Nhà Sàn Collective