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【日本酒記 その六】農口尚彦研究所

 新年一発目の投稿は日本酒記シリーズである。私事であるが、年末年始は数本の日本酒を空けることが恒例となっている。そこでまず今回は、石川県の地酒「農口尚彦研究所」をご紹介したい。

 元日に発生した令和六年能登半島地震のせいもあり、私の心は未だ複雑ではあるが、このタイミングで石川県の地酒を戴けたことに感謝しかない。そして地域を応援する意味も込めて、美味しいお酒が存在することを発信できればと思い、ここに記す。

 小松市にある株式会社農口尚彦研究所が醸す酒は、あまりにも有名だ。日本最高齢の杜氏であり「酒造りの神様」の異名を持つ農口尚彦氏を知る日本酒ファンは多いであろう。杜氏の技術や酒造りに対する精神を継承するという意味でも、二〇一七年に新設されたのだから新しい蔵ではある。しかし、昨日今日に酒造りを始めました、というわけではなく、長年の経験に裏打ちされた技術と感性が一本の瓶に込められていることは農口氏の経歴から感受できる。

 私の居住エリアである関西の一般的な酒屋では、滅多に遭遇する機会がない銘柄であるが、何処か近場で手に入れることはできないかと調べたのが二〇二三年十一月。毎年、私はこの時期になると年末年始用の日本酒を探すことが多い。例によってインターネットで検索をかけていると、自宅から自転車で通える距離のとある酒屋に在庫があることを突き止めた。
 そんな運も味方する出来事もあり、ようやく開栓を迎えたのであった。以下、私が戴いたスペックを記す。

ラベル表面
ラベル裏面

農口尚彦研究所 純米 無濾過生原酒 五百万石 2021

原料米 北陸産五百万石
精米歩合 60%
アルコール度数 19度
火入れ なし

 購入から一カ月半ほど冷蔵庫に寝かせていたが、ようやく取り出して喜びも一入だ。生原酒でアルコール度数が高いことから、心して迎え撃つ。まず見た目はどうかとグラスに注いで観察してみる。

グラス一杯に注いだ

 写真では伝わり辛いかもしれないが、やや黄色に見える。香りは心地良い酒臭さが仄かに漂っている。一口含んでみる。
 うむ・・・。事前に酒屋の男性店主からは「呑んでみると精米歩合がもっと低く感じられるんです。技術が高いからねえ」と伺っていたが、確かに、冷やしていたことも相俟って最初の印象はそのようであり甘さを感じた。しかし、表記の通り度数が高いのでかなりの重量感と辛さがすぐに襲ってきた。味わい深い。全方向から舌へ締め付ける。そうして呑み干すと、切れ味鋭く喉越しも良いのだが、何より歯茎に酸味が残っている存在感があった。
 じっくりとグラスと対峙してみたが、温度帯が下がってきたところで、今度は常温で確かめてみた。温度帯が落ち着いてくると、また違った顔を見せてくれた。日本酒の感想を述べるときにこのような表現をしたことがないが、嘘ではなくそれはまるでウイスキーのような鋭さと心地良さが共存していた。ロックグラスで呑んでも違和感がないようだ。初めての感覚であり、やや締め付けの弱いウイスキーのような燻した味わいが堪らない。

やや黄味掛かっている

 さて、御燗にするとどうなるか。無濾過生原酒ではあるが、温度計で計り、飛び切り燗手前ほどで過熱を止めて呑んでみた。すると、米の風味が出てくる。もともとが濃いめで味わい深いので、特筆すべき印象はないが、辛さが立ち上がってきてチビチビ呑むには適した味に変化した。ゆったりと向き合うには御燗も良い。
 二日目。このタイプの日本酒がどのような変化を見せるのか。年末年始ということもあり少し時間を割けたので、開栓後の経過も記す。一日経ってみると、より一層、男臭く燻製したような味になっていた。冷酒や常温でも鋭さが際立ち、御燗でなくとも食中酒でのんびりと呑み進めることを楽しめそうだ。

 待望の農口尚彦研究所で満足した年末年始。農口杜氏が酒造りの神様と評される所以をひしひしと舌で感じられた。これからも研鑽に努める蔵の姿勢に感服するとともに、もっと皆さんに知って頂きたく、最後に蔵のホームページを掲載しておくので、是非、アクセスしてみては如何だろうか。(農口尚彦研究所 (noguchi-naohiko.co.jp)
 呑む時の注意事項としては、アルコール度数は高めなので、スイスイ呑まずにじっくりと腰を落ち着けて、肴も楽しみながら呑み進めると良いかと思う。

 次回はもう一本、年末年始に呑んだ日本酒をご紹介する。私の一番好きな日本酒が登場します。お楽しみに。

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