東郷和馬の「怪異を訪ねる。歴史を踏みしめる。」 ~オカルトのち酒と肴~

怪異を訪ねる人。仕事を忘れて非日常を楽しみたい怪異伝承人。怪談、風習、民話など不思議を…

東郷和馬の「怪異を訪ねる。歴史を踏みしめる。」 ~オカルトのち酒と肴~

怪異を訪ねる人。仕事を忘れて非日常を楽しみたい怪異伝承人。怪談、風習、民話など不思議を集める。又、居酒屋探訪人。東北応援隊。怪談や不思議体験をお持ちの方はこちらまで→kztogo1994@gmail.com

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怪異を訪ねる【遠野 早池峯神社】その四

 神社の聖域は想像以上に広かった。前回の投稿で紹介した以外にも、駒形社、金勢社、稲荷社、黒門などがあり、散策スペースは確保されており、神社仏閣に惹かれる方は楽しめるだろう。  途中、用を足そうと思い、境内を探していると、それらしき場所から参拝者や神社関係者が出てきたので、一人の男性に声を掛けてみる。 「あのう、すいません。御手洗いはあちらですか」 「おーう、そうだよ」  私が声を掛けたのは、濃いめの緑色の法被を着た如何にも祭りに携わって長年経験を積んでいそうな七十代ぐ

    • 歴史を踏みしめる【ムカサリ絵馬】その四 若松寺

       昼食では私にとっての旅の定番メニューであるラーメンを啜り、午後からは天童市にある「若松寺」へと向かう。時刻は正午を過ぎている。事前に若松寺へはメールで連絡をさせて頂いており、一時頃にお話を伺うと約束していた。  さて、東根駅から電車で移動すること凡そ三〇分。天童駅に着いた。天童市は将棋の駒の製造、生産で有名であり、温泉の評判も良い。改札を出ると、「『歓迎』湯のまち天童 あなたの度に、王手」と書かれた横断幕に目を惹かれる。巧い事、言ってみたキャッチコピーだ。駅の一階には「天童

      • 歴史を踏みしめる【ムカサリ絵馬】その三 黒鳥観音堂

         正門に正対する。天井がやや低い木造の仁王門が私を迎え入れてくれた。一礼して潜る。仁王門とはいっても左右に仏像が立って睨みを利かせているわけではない。そこは蛻の殻であり、唯一、不定期で出入りしているかもしれない関係者が、きっと使用しているであろう作業道具が置いてあるだけだった。  境内に戻ると、目の前に御堂が待ち構えている。右手には、先程、下りてきた階段と水子地蔵があるという構図だ。改めて見る御堂は、大きくはないが慈悲深さからくるものなのか温かさがある。壁には巡行者が貼り付

        • 歴史を踏みしめる【ムカサリ絵馬】その二 黒鳥観音堂

          「黒鳥さんねえ。あそこ何にもないですよ」  地域に精通したドライバーさんでもそう思うらしい。ムカサリ絵馬について調べてみると、見学可能な場所はいくつか候補が浮かび上がる。列挙してみよう。まず、これから向かう黒鳥観音堂。そして、天童市の若松寺。「山寺」の愛称で有名な山形市にある立石寺の奥の院。他にもあるが、以上の三箇所が、調べれば見つけやすい場所だろう。  実は、訪問前の五月と六月半ばに、取材が可能かどうかの確認をしようと思った私は、黒鳥観音堂に電話を掛けた。しかしながら、五

          歴史を踏みしめる【ムカサリ絵馬】その一

           皆様、お変わりございませんでしょうか。二月に入り旧暦の正月を迎えた頃合いですが、関東では積雪の影響で交通機関が乱れたりしていると、七日の天気予報で知りました。今後も充分にお気をつけください。  noteを始めて一年が経過したが、昨年は「怪異を訪ねる」と「日本酒記」の二大シリーズを更新し続けた年であった。どちらも想像以上に読者の皆様に読んで頂けているようで、改めて、感謝申し上げます。  「怪異を訪ねる。歴史を踏みしめる。」  当noteのタイトルの前半の趣旨は、ある程度

          【日本酒記 その七】一白水成

           前回にご紹介した「農口尚彦研究所」に続いて、年末年始にはもう一本、開栓した酒があった。秋田県の福禄寿酒造様が醸す「一白水成」である。  これまでそれなりの数の日本酒を戴いてきたと自覚しているが、一白水成は私にとって、現時点で一番好きな銘柄である。まず、出逢いから振り返りたい。  私が日本酒を購入するにあたって、選ぶ時の基準は四つある。「名称の響き」、「話題性」、「気になっている地域」、そして「見た目」である。一白水成に関しては、ズバリ、見た目に惚れ込んだ所謂「ジャケ買い」

          【日本酒記 その六】農口尚彦研究所

           新年一発目の投稿は日本酒記シリーズである。私事であるが、年末年始は数本の日本酒を空けることが恒例となっている。そこでまず今回は、石川県の地酒「農口尚彦研究所」をご紹介したい。  元日に発生した令和六年能登半島地震のせいもあり、私の心は未だ複雑ではあるが、このタイミングで石川県の地酒を戴けたことに感謝しかない。そして地域を応援する意味も込めて、美味しいお酒が存在することを発信できればと思い、ここに記す。  小松市にある株式会社農口尚彦研究所が醸す酒は、あまりにも有名だ。日

          新年のご挨拶

          読者の皆様。旧年中は大変お世話になりました。成り行きで始めたnoteですが、一年間継続することができて、それなりの自信が持てたと同時に、更新のパターンを確立することができました。今年も宜しくお願い申し上げます。 また、元旦に発生した「令和六年能登半島地震」により被害に遭われた皆様には、お悔やみとお見舞い申し上げます。そして、二日に羽田空港で発生した衝突事故で殉職された乗組員の皆様にお悔やみ申し上げます。  正直に言いますと、このような言葉を記すべきかどうか迷いました。特に

          怪異を訪ねる【遠野 早池峯神社】その五 完結編

           場所を移動したり、建物から出たりして執拗にタクシー会社に電話を掛けてみる。しかし、繋がらない。さて、どうするべきか・・・。そうだ、先程、受付で少しお話をさせて頂いた女性の係員さん、「ヘルプ!」との思いでその姿を探してみた。すると、校舎の入り口すぐ左手にある事務室にいらっしゃったので、すぐさま声を掛ける。 「すいません。見学させて頂きましたが、懐かしく思えて、楽しかったです。ところで、今、帰りのタクシーを予約しようと思ったのですが・・・」  斯々然々、私は事情を説明してみ

          怪異を訪ねる【遠野 早池峯神社】その三

           四月二十八日。いよいよ座敷わらし祈願祭を見学する為に、私は遠野駅に降り立った。遠野へは実に二年半ぶりの訪問である。 (そういえば、こんなにも高いところにある線路を走って、山に囲まれた景色を見ながら、前もここに来たんだっけ)  そんなことを思いながら、緑一面の山を切り開く線路を、列車がゴトゴトと音を打ち鳴らして進んで行き、徐々に町らしき景色が車窓に浮かび、辿り着いた。  過去の記憶が懐かしく、すぐに思い出す景色も見受けられた。今回の滞在日程は僅か一泊二日である。前日に現

          怪異を訪ねる【遠野 早池峯神社】その二

           座敷わらし祈願祭への現地取材と見学への予定が固まった私は、二〇二三年三月上旬、早池峯神社へ電話を掛けた。見学だけではわからなかったり気が付かない点もあるはずだと思い、祭りの前後の日程でお話を伺えないかどうか、取材の依頼の為であった。  早池峯神社には宮司さんや職員の方が常駐しているわけではない。電話を掛けたからといって、応答があるかは掛けてみないとわからない。よって、私は複数回、電話を掛けた。 プルルルルル・・・。ガチャ。 「はい・・・」  何度目かのあるとき、応答が

          怪異を訪ねる【遠野 早池峯神社】その一

           季節は師走を迎えて寒さは増している。そうかと思えば、また気温が上がったりする日もあり、可笑しな気候で日々を過ごしている。  さて、今年の投稿を振り返る時季になってきたが、成り行きで書いてきたこれまでの記事では、ザシキワラシについての投稿が多くを占めた。ザシキワラシの存在そのものについての考察からはじまり、緑風荘と菅原別館での体験を基に記した記事など、記憶を辿りながらではあったが、我ながら皆さんの関心を少しは惹ける記事が書けたと思っている。  そこで、今回からは岩手県遠野市

          【日本酒記 その五】鳩政宗 八甲田 ばんや にて

           前回の日本酒記では、「田酒」についての記録とレビューを記した。今回は同じ青森県の地酒「鳩政宗 八甲田」について振り返りたい。  最初の一杯目の注文でじっくりと向き合えた田酒に比べれば、良い雰囲気でほろ酔いになってから注文した八甲田についての感想は、記録をつけるにはやや情報量が薄いかと思い、日本酒記でご紹介するかどうか躊躇っていた。しかしながら、ラベルの写真をお店の方に撮らせて頂いたので、フォルダに眠らせておくよりも記事を投稿したほうが日本酒ファンのみなさんと共有できるかと判

          【日本酒記 その四】田酒 ばんや にて

           今回の投稿は、久々の日本酒記シリーズである。先日、怪異を訪ねて青森県に足を運んだ。去年の十月以来の訪問であり、意図せずまたしても同月の訪問となった。  今回の遠出は、あるお寺にお邪魔してお話を伺うことが主な目的であったのだが、そちらでのお話はいずれ報告するときがくるかもしれない。今回はその前日の夜に訪れた居酒屋での日本酒についてのレビューを記したい。  青森県内で私が過去に訪れたことがある場所は、青森市、弘前市、五所川原市である。今回は初めて八戸市で宿泊することになった。

          怪異を訪ねる【菅原別館】番外編 その後

           菅原別館での夢のような時間から自宅へと戻り、また日々の生活がスタートした。次は何処へ行こうか。この世界は不思議で満ちている。構想は膨らむばかりだ。  ザシキワラシが出るとされる旅館では、気に入った宿泊客に付いて帰ることがあるという噂はつきものだ。今回、菅原別館に宿泊後、身の回りで何か怪異が起きないか、注意深くというほどではないが、僅かに期待を込めて生活をしていた。  結論から言うと、宿泊から半年後に不思議なご縁を授かった。それは、自宅でオーブを写真に収めたとか、子供の声を

          怪異を訪ねる【菅原別館】その五 完結編

           しばらく眼を閉じては、ふと眼を開く。その度に、部屋中に隈無く眼を向ける。此処は縫いぐるみや玩具に囲まれた異世界だ。これでは眠れるはずもない。心の中で、「わらしさーん」と呼んでみる。七割ほど開いた障子の向こうに、誰か居ないか意識してみる。しかし、気配は感じない。  ゴトゴト・・・。  廊下から音が鳴ったような気がした。廊下には共同トイレと洗面台がある。誰かが居てもおかしくはないが、深夜に耳にすると、そんな音すらも座敷わらしによる物音かと思ってしまう。宿泊者が少ないとはいえ