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【エッセイ】ニコ・ニコルソン先生の「ナガサレールイエタテール」を読む、12年目の「3.11」

☆ニコ・ニコルソン先生の「ナガサレールイエタテール」と出会う

愛娘ちゃん(0歳児)に1冊でも多くの絵本を読み聞かせてあげたいが、絵本ときたら装丁も紙質も加工もゴージャス。

母体が印刷会社の会社で営業職をしていた経験もあるため「そんだけゴージャスにしたらドえらい価格帯になるのも頷けますね!(営業スマイル)」と、その価格の高さについて頭では理解できるのだが、如何せんお財布が理解を示してくれない。

そんなこんなで、何十年かぶりに図書館に通い出した。

絵本を選び終え、自分用の本も何か借りていこうとウロウロ。すると、買わねばと思いながらも、置き場所を考えるとやはり電子書籍か…いやでも、この手の書籍はやっぱり紙ベースで手元に欲しいよなぁと思っていた

「日本怪異妖怪辞典-東北-」を発見してウッキウキで手に取った。

そして、さらに本を探してウロウロ。すると「震災関連」のコーナーがあった。折しも、もうじき12年目の3.11である。私も妻も被災者(幸いなことに津波のエリアではなかったが)、記憶を薄れさせないためにも、改めて何か東日本大震災の書籍を読もうかと思い、棚を探すとポップな表紙の漫画が目に留まった。

これが、私と、ニコ・ニコルソン先生の「ナガサレールイエタテール」との出会いだった。

『ナガサレール イエタテール』は、ニコ・ニコルソンによる日本の漫画。ウェブコミック・小説配信サイトのぽこぽこで、2012年(平成24年)2月から2013年(平成25年)1月まで連載された。全12話。2011年(平成23年)3月の東日本大震災で被災した作者自身の家族の避難生活と生家の再建までの道のりをユーモラスに描いたノンフィクション作品。単行本は2013年3月発売、全1巻。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

宮城県山元町出身のマンガ家/イラストレーターのニコ・ニコルソン先生が経験した、ひとつの復興の物語。

笑って泣いた。最後の方などはユーモラスに描いてくれてはいるものの、笑い1:号泣9ぐらいのレベル。今年は既に発症済の花粉症を上回る大量の鼻水を流しながら読了した。

そして、西原理恵子先生、羽海野チカ先生、安野モヨコ先生、東村アキコ先生など、女性漫画家さんのエッセイ的な漫画が大好きだったのに、知らなかったことを激しく後悔しながら、矢も楯もたまらずこうしてnoteを書いている。日付変わって3.10。3.11前日である。

☆明るくユーモラスにコーティングされた「被災者のリアル」

今こうして文章化するために読み返してみても、ジンワリと涙が滲んでしまう「ナガサレールイエタテール」。何がそんなにココロに刺さったんだろうと考えてみると、要所要所に

被災者のリアル

が垣間見えるからである。

第4話60P。仮設住宅からニコルソン先生が母(劇中表記は母ルソン)に車で駅まで送ってもらっている最中の母のセリフ。仮設住宅に住んでいると支援物資や激励の訪問、手紙などが届くため祖母(劇中表記は婆ルソン)は喜んでいたが、母は…

なんだかどんどん不幸な人扱いされてる気分になってきてさ~
毎日毎日ただ生きてるだけなんだけどなぁ

第4話60Pより

そう。この感覚なのだ。

未曽有の大災害だったが、ありがたいことに命を繋ぐことができた。周囲は北斗の拳を思わせる世紀末的な様相を呈していたけれど、それでも日々は続いていく。

とてもとても言語化できないような欠落感や喪失感を抱えている人も、極限的な状況に人としての善なる/悪なる部分が露出してしまっている人も、私や妻のように軽度の被災でライフラインの断絶に四苦八苦している人も、日々が続くもんだから、とりあえず「生きてる」。

日本全土がお通夜状態。ちょっとでも不謹慎だと思われようものならば有志による不謹慎自警団がバッシングを開始する(往々にして不謹慎自警団は被災地外の方だったように思う)。テレビCMは全て公共広告機構のものにポポポポーンと差し替えられ、日に日に増していく「東北、大丈夫?」のイメージ。

どっこいこちとら極限状況の中、電気ガス水道はストップしているので、食料の確保や携帯の充電を確保することに右往左往。何かが不謹慎かどうかなんて関係ない。その人の人間性の根本というか本質のようなものがむき出しになっているため、温かな想いにも邪悪で冷たい想いにも触れながら、ただ「生きてる」が続いていく。

すごく真っすぐな気持ちで被災地を応援・支援をしてくれているのかもしれないが、何だか被災地以外から無言で「可哀そう…」と言われているような気分になったことを思い出した。

他にも、婆ルソンが最近は5分前のことも忘れるのに、川崎に住めばいいじゃないかと言われ、ハッキリと

「お母さんは生まれ育った場所に戻ります」

と言い返すシーン。

そして母ルソンがガンになったエピソードなど、生まれ育った土地を愛する気持ち、極限状態だったとしてもおかまいなしにガンはやってくるという事実など、被災者のリアルがこれでもかという程詰まった作品なのだ。

だからこそ、最終話の

朝起きて ごはんを食べて 庭に生ごみを埋めて 庭いじりをしてお昼を食べたら また日が暮れるまで庭いじり 夕飯を食べ おふろに入って ほかほかのうちにお布団でおやすみ そして おはようの朝がくる

最終話135~136Pより

この言葉に涙が止まらないのだ。

12年目の「3.11」。この作品を未読の方がいらっしゃったら、是非ともご一読いただきたい、と薄っすら涙目で記す。

☆オマケ:私の「3.11」

その日、私は仙台市太白区の手抜き工事で名を馳せた、壁の薄い薄い家具家伝付きの〇オパレスにいた。地元山形市では仕事がみつからないため、仙台市に居を構え、求職活動をしていたためである。

午前中に求職活動を終えた私は、〇オパレス唯一の良かった点「CS放送が観られる」をゴロゴロしながら満喫していた。AXNチャンネルが海外ドラマ「CSI:科学捜査班」シリーズを延々放送してくれていたのだ。

今日のホレイショもカッコいいねぇ(CSI:マイアミの主人公)なんて思いながら、ハードボイルドな気分で煙草をふかし、ちょっと仮眠したら買い物にでも行こうかな…と目を閉じてウトウトしだしたところで

被 災 。

今思えば、手抜き工事で話題になっていたアパートが、よくあの大震災の揺れで倒壊しなかったなと思う。徐々に強くなり経験したことのないレベルにまで達した揺れ、それでも止まらない揺れ、上下なのか左右なのかわからないほどに揺れに揺れた。

幸いなことに倒れてくるような大きな家具はなかったため、携帯と財布、そして車のカギを握りしめ、ジッとしてみる。しかし、あまりにもアパートがミシミシいうものだから、もういっそこれは外に避難した方がいいんじゃないかと、四つん這いで玄関まで這いだしたところで、揺れが止まった。

こ、これは尋常じゃないぞ…と情報を得るため、床に倒れ落ちて弾んでいたテレビを接続しようと思っていると「バツンッ!」と大きな音がした。

停電の音だった。

こりゃどうにもならんぞ、とアパートの外へ飛び出してみると、在宅していた同じアパートの住民数名が外の駐車場に集まっていた(今思うと、あのオジサン達は真昼間に在宅。仕事はしていなかったのだろうか…)

皆驚いたようなテンパったような表情で立ち尽くしていたことを思い出す。「凄い揺れでしたねぇ」「電気止まったね」「水道もダメみたいだよ」輪に入り、そんな会話を交わしたが、まだこの時は東日本大震災の酷さを理解できていなかった。

その後、とりあえず山形の家族とも連絡がついた。安心はできたが、ライフラインが停止しているのは困るので、自家用車に乗った。何を思ったのかライフラインが生きているエリアまで移動しようと思ったのだ。

現在地は仙台市の南側太白区、バイパスで真っすぐ南下すれば福島である。

ほとほと自分の判断力のなさ、タイミングの悪さに呆れる。パニック映画やホラー映画なら真っ先に死ぬタイプである。3.11当日、さすがに福島県まで行けばライフラインが生きているのではないかと思ったのだ。

移動を開始してみると、自身の判断の甘さを痛感することの連続だった。

信号機も止まっている。こんな様子は人類滅亡後を描いた映画でしか見たことがない。交差点ともなれば徐行運転でお互いに譲り合いながら、ノロノロ走行。

これも都道府県を跨げば改善するだろう、とポジティブに捉えながら運転していると、AMラジオから流れてくる深刻な状況の数々。津波という単語も聞こえてきた。

薄々「あ、これ、ダメなヤツかもしれない」と思い始める。どうしよう。ガソリンも心もとないし、とりあえず車を給油しておくか…と思ってもガソリンスタンドも開いていない。進む愛車のスバルR-2。徐々に減っていくガソリンの目盛り。

よし。アパートまで戻れなくなっては大変だから、とりあえず片道分で行けるところまで行こうとガソリンの目盛りとにらめっこしながら、福島市に到着した頃、沿岸部のとんでもない津波被害がラジオから流れていた。違う県まで来てみたが、相変わらずの停電・ゴーストタウン状態だった。

…。うん。…よし、アパートに帰ろう。

すごすごと来た道を引き返し、無事にアパートまで到着できたワタクシ。

翌日に津波や福島第一原発がヤバい状態だったことを知り、沿岸部の道路を通らなくて良かったと胸を撫でおろしたのだった。

自家用車のガソリンはすっからかん。ワタクシの被災者生活の幕開けであった…。

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