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源泉回顧録【塩原~南会津② 復活の石湯】

<前回はこちら>

 ※この記事は2020年2月の日記を元に、加筆修正をしたものです。

 塩原温泉郷「古町温泉」を出て、ここからは塩原街道を北上し福島入りを目指す。途中「新湯」「元湯」といった関東屈指の濁り湯名湯に後ろ髪を引かれるが、先を急いだ。

 男鹿川を縫うように北上すると、わさび園や直売所などがぽつぽつと軒を連ねる。春先になると山菜が並ぶが、このころはまだ早かった。直売所には自然薯の一本物が出ていたがなかなかの値段、ここは我慢。

 県境の僅か手前には「百姓家」という商店があり、以前も立ち寄ったことがある。ここでは通年キノコ汁がタダで飲むことが出来る。店頭にも出ている辛味噌が名物で、それを投入すると旨さが倍増。積雪がないとはいえ、底冷えのする寒さ、身も心も暖まる一杯でパワーチャージ。

 山王トンネルを抜けると県境を跨いでおり、赤かぶと蕎麦の町、南会津町に突入した。352号線沿いにポツンと現れる「道の駅 番屋」で朝昼兼用の食事を摂ることに。

 こちらの名物は、そば粉10割使用の「たていわ蕎麦」。
かつてはこの一帯、旧名「舘岩村」と呼ばれた地域。南会津町に吸収合併され消滅したが、そば粉の産地として名を馳せていたという。
 シンプルにざるそばを注文。つなぎを使用せずともブツブツと切れない力強さ、蕎麦粉の香りを存分に堪能、美味しくいただき源泉に備える。

 ここから15分ほど西南へ進むと、「湯ノ花温泉」が現れた。
開発された形跡はなく、小さな旅館と民宿だけが並ぶ温泉街。4つの共同浴場があり、200円の入浴チケットを購入すれば、全てに入湯できるという気風の良さ。鄙び系を好む温泉ファンにとっては古今無双の存在だ。

 狙うのは4つの中でも特に秀でた風情を持ち、先の台風で湯小屋が流されてしまった「石湯」。復活したとの風聞を信じてここまで来たが、果たしてどうか。2年振りの再開、心臓の音が聞こえ始めた。

 共同浴場に入るには周辺の旅館や商店で入浴券をゲットしなければならない。石湯のすぐ隣、「入浴券販売所」の案内が出ている民家にガラガラ入って行く。建物の造りから、昔は旅館だったようだ。

 「すいませーーん」

 玄関から何度か発声したが反応がない。
戸が開いており洗濯物も出ている。3分程待ったが誰も出ないので引き返そうとした。
 その時、5歳児くらいの幼女が私を呼び止めた。

 「お風呂入りたいの?」
 「うん。お母さんはいる?」
 「待ってて」

 暫くするとマジックでこの日の日付が記載されたチケットを持ってきた。200円を渡し、建物裏の石湯へと向かう。しかし5歳児の店番がいるとは。
 湯ノ岐川沿いに近づくと、見えてきた石湯の湯小屋。
 
 「おっ、綺麗になってる」

 まだ青さの残る試割板を張ったような造りだが、間違いなく石湯は復活を遂げていた。一礼し脱衣所へ、板張りが変わっただけで内装も全く変わっていない。
 ほぼ入れ違いで60代くらいの男性と遭遇。近くのたかつえスキー場の帰りだという。今年は雪質が悪いとボヤく。「熱いから気を付けてね」と言い残し出て行った。

 源泉は57度、湯元からも近くほとんど劣化せぬまま湯が浴槽に落ちる。
以前来た時は余りの熱さに10分程加水した記憶があるが、先客が加水してくれていたおかげで適温になっていた。透明でキラキラした湯は見事な入浴感だ。

 
 暫く独泉だったが、あとから缶ビールを片手持った3人組が入ってきた。
こちらもスキーヤーだった。たかつえスキー場の年間パスポートを持っており、滑走後にいつもこの湯を訪れるそうだ。
 やはり暖冬のためか雪質が悪く、年パスの消化試合的に来ている様子だった。この土地に関しては明るかった。色々と情報収集。

 この近くの「滝音」という蕎麦屋は必食だという。
こちらの店主、本業は大工。趣味で昼間の時間だけ蕎麦屋をやっているらしく、完全予約制だそうな。店内に入ると気の利いた酒が出され、注文が入ってから蕎麦を打ち始めるという強烈な拘り。それはそれは美味いそうだ。

 が、今聞かされてもどうすることもできない。

 話し出すとどうしても長湯になる。縁に座ったり湯に浸かったりを繰り返し1時間程。復活した石湯は、見た目は変わったが湯は変わらず素晴らしかった。

 さあ、木賊温泉はここから更に先。どうなっているか。

 
 
                          令和2年2月頃

※画像は観光協会のホームページより

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