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ゴジラ-1.0(ネタバレ感想)

私の祖父は、どちらも戦争経験者で。
そのうちひとりが、特攻隊でした。
指令が降る前に戦争が終わり、祖父は生きていた訳ですが。
ある時、何かの時に戦争の時の話をし出した祖父は、私にこう言ったのです。

「俺はな、いけなかったんだ」


祖父はその数年後、あまりに早く亡くなりました。
親族の通夜の現場で「次は俺かもなあ」と呑気に言ったその翌日、本当に倒れそのまま。
あまりにあっけなくあっさりしたその様は、祖父そのものとも言えました。
後でわかったことですが、戦争の時の話を偶然とは言え詳しく聞けたのは、偶然にも孫の中では私だけだったそうです。

そして、全く前情報を入れずに見に来たゴジラ-1.0祖父のその言葉が、見ている間何度も何度も脳裏に浮かんでは消えました。
以下、ネタバレを含む感想となります。


敷島はあの時代に、あの状況下に特攻隊でありながら飛ばないことを、いかないことを選んだそのこととゴジラの襲来が重なり、恐怖の余りに引けなかったトリガーの重さと共に多重の怨と念を吐き出す事なく抱えてもがき続けた。
死にたくはない、それは誰しも抱える本能だろう。それは戦争という狂気の中では紙屑のように脆く、何故死ななかった、と怒りの矛先にすら成り果てる。
そして、誰かの命の上にある己の命は余りにも重すぎた。
押し付けられたあの地で死んだ整備兵達の遺品を抱え、偶然にも懐に転がり込んだ戦争の被害者である典子、明子の命も抱え、敷島はそれでももがいて足掻いて、あの時見たゴジラを迎撃(とは言えない結果ではあるが)し、ようやっと胸に抱えたものを典子へ吐き出して「もう、良いでしょう?」とようやく前を向こうとしたのだろう。
仲間というものが出来て、多少なりとも過去を話せる相手が出来て、でも、それでも話せないことはまだあるけれど、それでも、と。

そこに、ゴジラが三度、現れた。

己の中に積もりに積もった澱のような恐怖と怨念と秘匿を聞いて、それでも生きていくべき、と言ってくれた人を失ったと思った敷島。
彼が選んだ道は自分の命を返す事だった。
「戦争は終わってない」
あの言葉が、祖父の言葉に重なってどうしようもなかった。
「いかなかった」ではなく「いけなかった」
そう言った祖父に、もっと話を聞いておけばよかったと、何度も何度も思う。これまでも、何度も、そう思ってはもう叶う事ないそれに歯噛みするのだ。

様々な思いと、そこに集まった戦争経験者、そして戦争を知らない世代とが力を集め、知恵を集めて形ばかりではあるがゴジラは撃退された。
敷島の乗った戦闘機「震電」はその最大の功労とも言える働きをしたのだけれど。
あの時橘が、あの島でただ二人生き残った、敷島を呪い恨んだであろう橘が敷島の命を擲とうとしていたそれに気付いてそうではないのだ、と手を尽くしてくれた事。同じ事を繰り返してもそれは負の円環でしかなく、そこから抜け出すことこそ終わらせる事なのだと「生きろ」と送り出す様は、なんとも言い難いものがある。
彼も、ここまで生きた上で様々に言われ続けたのだろうし、あの時敷島に罪悪を押し付けなければ動けなかったのだろう。責任は己にはないと言った事もあったのかもしれない。実際に敷島を責める時、己に責があるとは一言も言わず、ただただ責任を押し付けて去っていく。(それを敷島は受け止め飲み込み苦悩するのだがそれは別の話だ)
描かれない部分ではあるからこそ、彼がああして現れ、しかして己が呪いを押し付けた相手が絶望と怨念の淵にある事を認めたからそこ、戦闘機に脱出装置を勝手に付け、それを示して「生きろ」と言い渡す、この先を生きることこそが全ての贖罪になるのだという判断ができたのだろう。

そして、最後にどんでん返しとも言える結末へと結ばれていくのだが。
その何もかもが、縁なのだ。
復員した時に「よくものうのうと」と罵った隣人、澄子は敷島の為に手を差し伸べてくれた。
その怨みは本来向けられる場所が違うものだ。それでも目の前にその怒りを向けられるものがあれば人はそれに怨を向けてしまう。
その感情を噛み締め、それでも見捨てず手を差し伸べる事。
それは、生きていなければ為されない事だ。
何もかもが、生きるというその事実上にこそ、ある。
何も無くなった、焼け野原の場所にも草木が茂るように。
キャッチコピーである「生きて、抗え」がこんなに映える作品があるだろうか。



まあそんなこと言っても結局ゴジラ死んでねえんだよなあ!!!という終わりでこれどこに繋がるんだ…いや繋がらないな…でもなんか繋がってくの見てえな…となったのでした。
ものすごいカタルシスがあるけどドラマ面もしっかりしててすげーなーってなったし何よりゴジラの鰭のギミックに興奮しましたわーー光線が充填されてくーーすげーー!!(パンフ読んでそこかよーーー!!となりました見た人は早くパンフ読め)
あとやっぱりそこにうまく結ぶ訳ですねビキニ湾のあれ…
始まりがそこだからなそもそも…


そんなわけで今回も楽しませていただきました。
号泣してて声はあげてなかったけど周りに申し訳なかったなと思ったら隣のお兄さんも最後に目を押さえてたのでだよね、と思ったりしました。

今回もありがとうシネマシティ
ありがとう極上爆音上映

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