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「変わる組織」はどこが違うのか? 17

リアリティ・チェック

 トップが自分が目指すビジョンを造れないからといって、美しいビジョンをスタッフやコンサルタントに造らせても意味がありません。むしろ社員に造らせましょう。そうすれば、自分たちの造ったものは実現したいという自作実現力や同調圧力が生まれてビジョン実現へのエネルギーが生まれます。そういう話を前回書きました。
 今回は、その造り方です。ただ社員を集めて造らせてもうまくいきませんからね。失敗を学習するだけです。
 私は、ビジョン作成のファシリテーションを依頼されることがあるのですが、そういうときに使う定番のフレームワークが2つあります。ひとつは、「増えるもの(more of)」「減るもの(less of)」、もう一つは「現状(as is)」「ありたい姿(to be)」です。
 たとえば2030年時点でありたい姿、「2030年ビジョン」を造るとしましょう。6年後です。その間に何が変わるか。組織を取り巻く環境の変化についてまず考えます。そのために役立つのが「増えるもの」「減るもの」です。「変わるものは何?」という問いだと意味が漠然としていますが、何が増え、何が減るのかという少し手触り感のある問いになります。
 その結果を踏まえて、自分たちの「現状」と「ありたい姿」を描きだしてもらいます。これも、この問いだけでは広がり過ぎるので、組織によって少し条件を付けます。たとえば企業なら、売上、利益、社員数、成長率といった数字で表せるものと、経営のあり方、働き方、顧客満足、社員満足といった数字になりにくいものを組み合わせます。すると下図のようなフレームワークになります。

横軸はAs Is To Be、縦軸に何を取るのかが知恵の絞りどころ

 うまくやれば2時間ぐらいでこの2つのワークを終えて、現状とありたい姿が描けるはずです。
 しかし、問題はここからです。日本のほとんどの組織がこういうワークショップに慣れていませんから、主催者が期待するようなものは出てきません。6年間ではとても達成できない突拍子のないもの、逆にほとんど現状と変わらないもの、意味のないもの、色とりどりです。
 そこで、この2つのワークを終えた後にリアリティ・チェックを行います。たとえば売上が2倍になるというビジョンを描いていたら、それを6年で達成するシナリオを考えてもらう。経営のあり方がタコ壺型からインタラクティブなものになるというビジョンを描いていたら、そう変わっていくシナリオを考えてもらう。これがリアリティ・チェックというプロセスです。以前紹介したGEのCAP(変革加速プログラム)では、議論が荒唐無稽にならないように経理の人をワークショップに参加させて、でてきた数字の実現性をチェックさせていました。
 この夢を描く時間と実現性をチェックする時間を分けるところは重要です。普段の会議では、この2つを同時に行ってしまうので、何を言っても否定される会議になって、社員がやる気を失うことになってしまいます。
 よく「発散はできるのですが、収束ができない」という相談があります。それは、話しやすい、安心安全な場を意識しすぎて、リアリティ・チェックというプロセスを忘れていることからくることがほとんどです。
 そして、このリアリティ・チェックを経ると、ビジョンが描けなかったという結論になります。がっかりですが、これ、当然です。ビジョンってそんなに簡単には描けるわけがありません。みなさん、一週間絵画教室に通ったら、突然絵が上手くなるとは思いませんよね。それと同じです。
 一度目は失敗するのです。それを踏まえて何度かワークショップを繰り返すと参加者の意識が高まります。現場や客先に足を運んで調査し、思考が深まっていきます。こうして頭と足を使って、ようやく夢と実現性のバランスのいいアイデアが出始めるのです。
 同時にこの繰り返しによって、心理学者が言う単純接触効果が生まれます。繰り返し見たり、会ったり、接触する回数が増えるほど、親近感を感じるという効果です。これが、前回お話しした同調圧力の源泉にもなるのです。こうなると最終的に出てきたビジョンに、実現するぞ!という迫力が宿ることになります。

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