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ベーグルを恨んでも仕方ない


 今回のテーマ:歯
 
by 萩原久代
 
今年4月のある週末のお昼、もちもちしたベーグルにクリームチーズとスモークサーモンをのせて食べていたら、ガリっという音がした。あれ、何?と思いながらも食べ進み、食後のコーヒーを飲んでいたら、なんか奥歯がスカスカした感じ。恐る恐る、鏡を出して口の中を見ると、下の奥歯の金の詰め物がなくなっていた。もっちりしたベーグルに詰め物がくっついて外れたのだ。
 
歯医者に行かねば。。。と思って、はっと気づいた。私は歯科保険をかけてないから自費治療になる。米国では健康保険に歯科治療が含まれない。別途、歯科保険オプションをつけねばならないのだ。額に冷や汗がでてきた。でも、この奥歯の穴、そのままにしておけない。
 
友人に聞いた二人の歯医者に月曜朝イチに電話する。どちらもアポはすぐ入りそうだった。自費での治療費はどのくらいか聞いた所、両者ともほぼ同じ答えだった。銀の詰め物だけで済めば500ドル〜800ドルくらいと言われた。詰め物の下がたぶん虫歯だから、その治療をして新規詰め物を入れる場合だ。やはり高い!あ〜、ベーグルを恨む。
 
その月曜の午後にすぐに診てくれるというデンタルクリニックに行った。
先生:「とれた金の詰め物はどうしたの?」
私:「ベーグルと一緒に食べてしまいました。」
先生:「あら〜、美味しかった?」
私: 「味はなかったですよ。」
と脳天気な会話を楽しみ、いよいよ治療開始。
 
やはり詰め物の下が虫歯になっており、神経近くまで広がっていた。先生は、虫歯部分をきれいに削った後に消毒してセメント入れて、神経に影響がないかを確かめるため5日ほど様子をみようと判断。5日間に、温かいものを食べて奥歯がピリピリ、ジーンと何か感じたら、すぐに来いと言う。神経がやられている可能性があるから、神経を抜くことになるかもしれないと警告された。冷たいものでピリピリした場合なら、神経は大丈夫だという。
 
その後の5日間、ヒヤヒヤして過ごした。神経を抜きたくな〜い。
 
神経を抜くと、その歯は弱くなってヒビが入るためクラウン(差し歯)にするのが米国の主流治療パターンなのだ。つまり、神経抜いてクラウンにする治療が必要になる。これって自費だとどのくらいかかるのか。なんと、3,000〜4,000ドルの世界と言われた。
 
運命の5日間。結果として熱いもので何も感じなかった。冷たい水でも特に刺激はなかった。ということで、先生は再度レントゲンを撮って、虫歯の深さ状態を確認してから詰め物を入れる運びとなった。ところが、詰め物の話になって問題が浮上した。
 
米国では今でもアマルガムが使われており、私の奥歯には耐久性のあるアマルガムがベスト!と先生は主張した。銀の詰め物ってアマルガムのことだったのか。
奥歯に合成レジンを入れると摩耗早くて耐久期間が短いという。
 
日本では水銀含有のアマルガムはもう使われないのに、先進国(のはず)の米国では今も使われるわけ? すぐにFDA(米国食品医薬品局)やADA(アメリカ歯科医師会)のサイトを見ると、安全性は極めて高いというポジションペーパーが公表されていた。ただ妊婦や金属アレルギー症の人は別の選択肢を推奨すると書かれていた。
 
今更、アマルガムか。使用に関して賛否両論が昔からあるのでかなり迷った。しかし、直径5ミリにも満たない小さな詰め物たったひとつで、体調に大きな問題がでてくる可能性は極めて低いだろう。私はアレルギーもない。ひとまず、今回はこれでいこう。いざとなったらアマルガム除去をする手もある。私は腹をくくった。ほぼ2ヶ月以上経つが何も問題なく奥歯で噛んで、体調に変化はない。
 
もともと詰め物には寿命があり、素材によって異なるがレジンや銀は3〜5年、金やアマルガムなら10年程度と知った。どれも、そんなに短かったのか。私の詰め物はウン十年も頑張ってきた。ただし外れた詰め物は今回が2回目で、他の数ヶ所も怪しい状況になっている。ベーグルのせいではなく、やはりウン十年の流れには勝てないのが現実と悟った。
 
 
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萩原久代
ニューヨーク市で1990年から2年間大学院に通い、1995年からマンハッタンに住む。長いサラリーマン生活を経て、調査や翻訳分野の仕事を中心にのんびりと自由業を続けている。2010年からニューヨークを本拠にしながらも、冬は暖かい香港、夏は涼しい欧州で過ごす渡り鳥の生活をしている。
 

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