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最新情報!安全に向精神薬を減薬するならきっと知っておきたい  具体的な話。いろいろ。 

増田さやか(クリニック花草 院長)
インタビュー


 向精神薬の減薬をサポートする愛知県岡崎市増田さやか医師(クリニック花草)全国からたくさんの相談が来てるそうです。減薬を中心とした治療を続けて10年あまりの増田医師、患者さんと共に作る減薬計画も時を経るごとに進化している様子です。増田医師監修の『ゆっくり減薬のトリセツ』の内容からもさらに進化!
 そこで今回は、向精神薬の減薬についての最新の増田医師の知見をかなり詳細にお聞きしたものをまとめてみました。  
 写真はクリニック花草のサロンです。いろとりどりの椅子が「みんな違ってみんないい!」を表しているようで素敵です。すでにnoteで紹介している薬さじ法(漸減法)7週法(隔日法)という2つの減薬の方法に加え、最新の情報や当事者の皆さんの質問に答えていただく形で構成しました。以前の記事と重複もあります。長いですが、最新事情がわかると思いますので、ぜひ通してお読みください。

https://hanasou.jimdosite.com/ 愛知県岡崎市にあるクリニック花草

⚫️隔日法と漸減法 2つのタイプの減薬方法の使い分け

月崎 先生が実践している減薬の方法には具体的にどんなやり方があるのでしょうか?
増田 大きく分類すると2種類ですね。
飲まない日を作る隔日法と毎日微量ずつ減らす漸減法があります。
月崎 先生は隔日法7週法漸減法薬さじ法と呼んで、患者さんの減薬を支援しているということですが、もう少し詳しく説明してください。

🔹7週法(隔日法)🔹

月崎 薬さじ法(漸減法)と7週法(隔日法)2つの方法をどのように使い分けるいのですか?
 
増田 患者さんの血中濃度の変化に対する反応により方法を決めることも多いですね。

月崎 血中濃度の変化への反応ってなんですか?

増田 服薬した薬は血液を通して脳に運ばれます。減薬をしていく際にこの血液の中にある薬の濃度=血中濃度の波が患者さんの体調に影響を及ぼします。血中濃度は薬によって違いますが、服薬後に上がってから、時間をかけて徐々に下がっていきます。減薬を行う際に、この血中濃度が変化すること敏感で体調に変化が出る場合は、微量ずつ減らす必要があるため毎日一定量を減らす薬さじ法(漸減法)を選んだ方が患者さんの負担が少ないのです。
 
逆に血中濃度の変化がそれほど問題にならないと判断した場合は、飲まない日を作る7週法(隔日法)が向いていると考えています。7週法は、最短で7週間で1剤が断薬できる計算なので、”ミニマム7週法”とも呼んでいますが実際には7週間よりもっと時間をかけてゆっくり減薬していく方が多いです。
月崎 そうなのですね。ではこの原稿の中では、ミニマム7週法を7週法(隔日法)と呼んでいきますね。さて同じ量の薬を減らしていく2つの方法ですが、つまり1週間に何日かまとめてか減らす日を作るか、毎日微量ずつ減らすかということですね。どちらが向いているかということですね。以下のようにどちらの方法でも長期的な視点で見ると同じペースで全体量を減らしていくように計画することができるわけですね。

増田 どちらの方法が向いているかは個人差もありますし、減薬する薬の種類によっても違います。
また服薬している薬がカプセル錠だったり、薬の性質上、粉砕することが禁止されている薬の場合もあります。そういった粉砕ができない薬を減薬する場合は、毎日微量ずつは減らせないので、7週法(隔日法)を使います。

月崎 7週法(隔日法)ついてもう少し説明してください。

増田 私のやっている7週法(隔日法)は1週間単位で薬を飲まない曜日や減らして飲む曜日を決めて減薬していく方法です。

1週間に一度ベンゾジアゼピン系の薬を4分の1剤ずつ減らしていく例です

7週法に関する詳細はこちらをご覧ください。↓

【ミニマム7週法体験談1】 .私は子どもの頃から薬を飲んでいまして一度断薬していましたが、負荷が強い仕事を始めた時に抗精神病薬を再開しました。その後23年間経ち、落ち着いてからまた減薬しようと思っていた時に、ミニマム7週法を知り、自分でこの方法で減らしていきました。それで無理なく断薬まで持っていくことができました。私の主治医は、一応お薬が欲しと言えば出してくださるんですけど、飲み方はもう任せてくださってるので自分でやることができました。

 【ミニマム7週法体験談2】
増田先生の記事を見て、ミニマム7週法のことを知りました。まず薬全体の質量を添付文書で調べて例えば154mgの薬ならばその薬に1/8とか1/4とかをかけて計算しています。精密ばかりを購入しまして錠剤をカットするハサミと併用で切りながらですね。測りながら毎日やってますけれども、ミリグラム単位で誤差が出やすいのでとちょっとそこでやっぱり毎日苦労をしてます。

🔷薬さじ法(漸減法)🔷

月崎 次は漸減法について教えてください。
増田 例えば抗不安薬などを1日2回とか3回とか飲んでいた人に対しては、そこで毎日の薬を薬さじを使ってごく微量ずつ減らす方法を取ります。この漸減法を私は「薬さじ法」と呼んでいます。服薬している薬で散剤(粉薬)があれば、粉薬を処方しますし、ない場合は薬局にオーダーして粉砕してもらいます。あまり少量だと減薬することが難しいので、薬の総量を増やすために乳糖というのを混ぜてカサを増やしてもらいます。そこから薬さじで一定量を患者さん自身で減らしてもらうのが 薬さじ法(漸減法)という減薬方法です。

月崎 なるほど、ほんの少しずつ減らすために小さなスプーンのような薬さじを使うということですね。薬さじを使った微量減薬でも反応してしまう人はいるのでしょうか?
 
増田 はいそうですね。薬さじ法(漸減法)でも反応しちゃうという人の場合は、薬を水に溶かして、その水溶液を少しずつ捨ててから服薬する『水溶液減薬』になさる方もちらほらいるかなって思います。

⚫️血中濃度の変化に敏感な人には一部置換法も使う

月崎 血中濃度に反応しやすいさらにとてもデリケートな人に対してできることはありますか?
 増田 そうですね。ベンゾジアゼピン系薬の場合、1種類だとやっぱりすごく反応してしまう人もいます。このため最近は作用時間の長い薬、ジアゼパム(半減期20=100時間)メイラックス(半減期122時間)メレックス(半減期60〜150時間)など、いわゆる作用時間が長時間型のベンゾジアゼピンに一部分だけ置き換えて、それを本当にうっすら少量入れてそれを土台にして減薬する方法も使っています。
リボトリール(半減期18から50時間)とかデパス(半減期6時間)とかそういった薬を減薬する時に長時間型を少量入れてから減薬をするっていう方法です。これはいわゆるジアゼパム置換に近いと思っています。結構最近はやっていますね。本当にうっすらと長時間型を入れるだけでもだいぶ減薬しやすくなる。つまり血中濃度の落差が、長時間型の薬という土台ができた分小さくなるということで、減薬が少しやりやすくなっている人もいるかなっていう気がします。

向精神薬の種類と半減期(作用時間)は『ゆっくり減薬のトリセツ』P12 この表から確認できます。

⚫️減薬の支援に不可欠な薬の粉末化と薬局の協力

月崎 薬の粉末化いついてもう少し教えてください。

増田 お薬を粉にするのは薬局でやってもらいます。精神薬の中には、同じ薬でも錠剤ではなく粉薬(散剤)のタイプを発売している例が結構あります。抗精神病薬の薬もそうですしベンゾジアゼピン系の薬でも全部ではありませんが、メイラックスとかデパスとかジアゼパムなどは、全部薬散剤という形を持っていますので散剤を処方こともあります。薬局に錠剤を潰して粉にすることを依頼することもできます。ただ薬の中には、粉砕することが、薬の性質上できない薬剤がいくつかあります。それは例えば気分の調整のお薬であるリチウムとかそれからデパケンとかその辺はお薬を潰して使うと「血中濃度などが急激に上がると危険」という理由でお薬を潰して使うことを禁じられている薬剤です。

月崎 なるほど、最初から粉末タイプが存在するものもあれば、安全上の理由から粉末にできないものも一部あるということですね

増田 はい。それから例えば1/2とか1/4になった錠剤を粉にすると本当に少量なんですね。量が少なすぎて減らすのが難しいので、多くの場合は乳糖を混ぜることになります。先日は患者さんの中に乳糖不耐性の方がいて乳糖を混ぜてかさ増しして、薬さじで減薬しようとしたのですが、すごい下痢をしてしまい、体調が悪くなりました。その原因が実は乳糖のせいだったっていうのがありました。それから抗精神病薬の中に1日1回で効果が出る徐放性製剤と言って、口の中で溶けるような薬は、薬局で潰すことができないわけです。口の中で溶けるタイプだからすごく水を吸収しやすくて散剤にしてもらうとベトベトになっちゃったり。だから自分で潰すしかないというような薬も中にはあります。

一包化されている向精神薬の中にも、薬によって粉砕できるものとできないものがある。
減薬をスタートするにはまず自分の服薬している薬を把握すること

月崎 整腸剤のビオフェルミンを使ってカサ増しするという話も聞いたことがあります。

増田 はい。そうですね。白いものだとどの程度混ざってるのか、例えば重さが多少違うと粉を均等に混ぜるのも難しいです。アズノールっていう胃薬は青くて混ざり具合が見えやすいんですよ。アズノールの胃薬でやった人が一人だけいましたね。

※かさ増しのことを薬局の用語では賦形(ふけい)といいます。調剤薬局で、錠剤の粉砕や、かさ増しをしもらうのに自家製剤加算あるいは計量混合調剤加算といったお金が少しかかる場合があります。自家製剤加算、計量混合加算など加算についてはまれに地域により加算方法や解釈が異なる場合があり、どの程度変化があるかは地域差があるようです。

【当事者からの質問】
同じ薬でも錠剤と粉薬では効き方が違うということはないですか? 
 はい。まさにその通りです。薬の形状によって血中に吸収されるまでの時間は違いがあります。このためまず錠剤を粉薬に変えて減薬はせずに粉薬になれるということを1ヶ月以上やったりします。もし錠剤を粉にして粉砕にしたものをいきなり始めると感覚が違いすぎて血中濃度の差が出ちゃうこともあるので、まず減らさない状態で粉薬にして飲むっていうのをやります。とっても反応する方もいるんですよ。「粉になっただけでちょっと無理でした」と言ってまた錠剤に戻すという方も少なからずいます。

ミクロスパチュラという薬さじを使って自分で調整

 月崎 先ほどから話に出てきている薬さじですが、どのようなものなのでしょう?
増田 はい。薬局ではスパチュラ(薬さじ)で1杯減らす2杯減らすところまではやってくれませんので、患者さんが自分で、薬さじを使って微量ずつ減らしていくわけです。毎回1錠分とか半錠分の粉薬を受け取り、そこから先は自分でやるという感じです。その方が、自分の感覚に合わせて微調整ができます。薬さじ2杯だとちょっと減らしすぎたって思った時はまた1杯分減らすに戻すとかそういうことができるのでいつも元の量の薬が手元にある安心感もあります。

月崎 自分で耳かきやスパチュラなど小さな匙で減薬する場合、盛りすぎたりなど誤差が出ないでしょうか?

増田 はい。山盛りにすると誤差が大きくなりやすいので紙とか厚紙とかで上をこすって、すり切り、平らにすると測りやすいかなと思っています。

月崎 実際に自分でこの道具でやろうと決めて、手が慣れてくれば耳かきでも薬さじでも、自分なりの微量減薬はできそうですね。
増田
 そうです。最後は30杯分とか捨てないといけなくなるわけですが、それだととても大変だから、今度はちょっと大きめのスプーンを買ってきて30杯分はこれの1杯分みたいにして、皆さんすごい工夫してやってらっしゃるみたいです。

月崎 なるほど。工夫といえば、もし患者さんが医師に薬を粉にして欲しいが減薬を言い出しにくい時は、とりあえず飲みづらさや、嚥下のしやすさのことなどを理由にするのもいいかもしれませんね。

 増田 そうですね。

⚫️その人の性格や生活プランにあった減薬方法の決め方

月崎 向精神薬の減薬は慎重に行うことが原則だとは思いますが、「ゆっくり」とひと口に言っても、実際のところそのスピードは人によって随分違うと思います。先生はどんな点から計画を提案していくのでしょうか?
 
増田 例えば、物事をスパッと決めるようなタイプの人で、「過去に何回も減薬に失敗してきた」という方も私のところはまあまあ多かったりするんです。その場合は、元に戻すとかステイする(減薬中にそのままの量でしばらくとどまること)とかそういったことをできるだけしないで、進み方は緩めるとしてもとにかく前を向いて歩くっていうか「とにかく進めていくんです」っていう風にやる場合もあります。それを私はダメダメって言って止めないようにしています。それを止めるということはやっぱりそれだけ時間がかかっちゃうってことだし、その人がこの先描いてる人生の計画にも関わってくるので、「あまり無茶をしないように」とか「これぐらいでも感じちゃうかもよ」とかそういうことは言いますけれども、「先へ進むのをやめたほうがいい」と止めるようなことはしないようにしています。

月崎  なるほど。では逆に慎重にしたい方の場合はどうでしょうか?

増田 はい。一方とっても慎重になる人もいて、例えば週1回だけ減らすっていうのをもう1年以上ぐらいずっとそれだけやってステイしている人もいるんです。「全然減薬が進まない」って言って嘆かれるけれども、以前は毎日同じ量の薬を飲んでいたことと比較すれば、隔日法で週1回減薬しているだけでも、総量は減っているわけです。「お薬はちょっとでも少ない方がいいんだよ」って知っているだけでも私は大きい意味があると思っているので、「またちょっとだけやってみようって思う時が必ず来るので、その時に先進んだらいいよ」っていう風に言っています。

月崎 「減薬をきちんと進め続けないとダメ!」みたいな感覚ではないということですね。

増田 はい。「進み続けないとダメ」とか、あるいは「ゴールまで行かないとダメ」みたいに思うかもしれないけど、もちろん最終的なゴールはね、断薬とか精神科を卒業することかもしれないけれども、そればっかりが目標になってしまわないように。体に入るものが少しでも軽くなり、嫌な思いってのが減るようにということを目指したいなっていうふうに思っています。 

⚫️気候によって変化する体調と離脱症状出現の関係

月崎  今日は1月末で暖冬とはいえ結構寒いのですが、季節的なものも減薬に関係しますか?

 増田 ええ、関係あると思います。特に抗精神病薬やベンゾの離脱症状というのは、気温が低いとやっぱりこうなんか流れが悪くなって体も固まりやすかったりとか、しびれとかそういうのが出やすいものです。ちょっと寒くて体も循環が悪くなるので、この季節はなおさらきついかなっていう気がします。このため冬はあまり無理しないでねっていうことが多いです。

月崎 冬は難しいのですね。では減薬に適した季節はいつなのでしょうかね?

増田 うーん。それが暑いと大丈夫かっていうとそれもそうでもないんですね。皆さんご存じのように、薬全体は石油とか化学物質でできています。そして薬のコーティング部分や添加物などは、脂肪組織に隠れていると思っています。さらに食べ物とか、あるいは肌から入った洗剤などこれらの石油からできている成分も脂肪組織の中に潜んでいます。
 夏は気温が高く脂肪がわりと溶けるので、蓄積された石油系の物質は、溶けてすごく放出されやすくなるわけです。反対に冬場は脂肪組織が冷えて硬くなりやすいのでデトックスをしにくいです。夏場は汗をかいて過ごすわけですが、そうするとなんかデトックスが進みすぎてしまうこともありますね。

月崎 デトックスはいいことだと思っていたのですが、急激に進みすぎても困るということもあるのですね。

増田 患者さんに1回見せてもらったことがありますが、便の中にもう白いグニグニュした物体、例えば座薬が腸内で溶けたのを見たことある人がいるかわからないけど、溶けた座薬のような白いウニョウニのがいっぱいこう便の中に出てくるんですよね。お腹を温めてデトックスしたり、下剤をかけたりするとお薬のコーティングの成分みたいなのがいっぱい便の中に出てきたりします。それが夏場だと大量に出やすいし、冬だともう全然出てこない。季節によって積極的にデトックスをしないと出てこないという風な感じで、それだけでも結構大きい差がありますね。

月崎 デトックス自体はいいことではないのですか?

増田
 そうなのですが、今現在薬を飲んで減薬してる人は、出過ぎちゃうのも困っちゃう。でも全然出ないのも困っちゃうって感じで、そういうそこら辺にもちょっと気を配らないといけないって感じです

 月崎 では、錠剤をコーティングしてある添加物などが体内から出ていくかどうかも体調にも影響するということでしょうか?

 増田 そういうことです。睡眠導入剤や抗不安薬とかを飲んでる場合は錠剤のコーティングもすごく影響します。例えば1日に飲んでいる薬が20錠、入院中はもう40錠以上ぐらいを年単位で飲んでいる方のお腹を触らせてもらったことあるんだけど、冬はもう本当にねボコボコなのお腹が。それでお腹を温めると、便の中に白いのが出てきたりするわけです。そういうのが体の脂肪組織にいっぱい詰まっちゃってる場合もあります。これはかなり大量に長期間飲んだ人のお話なので、皆さんがそんなでもなければ、それほど大きくは気になさらなくてもいいかもしれないです。

⚫️減薬中の減薬量の戻しを「もったいない」と思わないで!

月崎 ところで微量ずつ減薬している患者さんが、ある時点で離脱症状が出て、薬を戻さなければならないとなると、それまで時間をかけて努力してきたことが無駄になるような気がして、「もったいないので戻したくない」と思う気持ちがあると思いますが、それはどうしたらいいのでしょう?

増田 その場合も「もったいない」と思わないようにしてほしいなって思っています。なぜならそのままにして、もし例えば入院になったりすれば、大量の薬を飲むことになったりするわけです。それよりは一歩、二歩前に戻るという方がずっと良いからです。
 病院に勤務している医師は患者さんが微量の薬で、微妙な変化に反応するんだよっていうことを知らない場合が多いからです。かつての私もそうでした。病院で勤務してると50mgなどという微量に反応しないと思いこんでいることが多いのです。このため入院直前まで微量ずつ調整し、少量飲んでた人にも、いきなり通常の入院患者さんと同じような大量の薬をポーンて処方されてしまうことがあります。例えば興奮しているとか、不安が強い場合は、「これをすぐ鎮静しなければいけない」という感じで、最初から大量に薬を出したりします。
月崎 入院したからには、今すぐ「出ている症状を急激に押さえ込まなければならない」という感じで医師は薬を大量投与することが多いようですね。これによって本当にそれまで丁寧にしてきた「ゆっくり減薬」が本当に台無しになってしまうということですね。

増田 はい。それでその症状は鎮静されるかもしれないですが、でもまたその大量処方のことが響いてくるのはちょうど退院してから3ヶ月後ぐらいに起きるのです。お医者さんたちは“薬の入っていない体にたくさんの薬を入れることのリスク”みたいなのはあまり入院中には感じないのです。だから「なんとなく落ち着いてきた」という判断で退院になったりするわけですけど、退院してお家に帰ってきてから急に体にたくさんの薬が体に入った影響というのが出たりすることがとても多いのです。

月崎 これがまさに入院のリスクということですね。

増田 はい。このような理由から、入院っていうリスクをできるだけ取らずに済むようにしたいわけです。そのためには、クリニックで薬を少しずつ調整している段階で、もし調子が悪くなった時には、薬の量を2~3段階前に戻し、そこからもう1回再びちょっとずつ減らしていきましょうっていうことをした方が安全です。こんな理由から、必要に応じて微量を戻すという選択を「もったいない」と思わないでほしいなっていう風に思います。

 ⚫️離脱症状と原疾患の再燃をどのように見分けるのか?

【当事者からの質問】 これまで何度か減薬にトライして失敗しているのですが、離脱症状というより抑うつがひどくなり減薬を続けられなくなったという感覚です。状態がよくなくなった時、それを離脱症状と捉えるか症状の悪化と考えるのかがよくわかりません。違いをどこで判断するのかわかれば教えてください。

⚫️増田 そうですよね。皆さんがおっしゃるものの多くは、というか半分ぐらいは元からある、つまり薬を飲み出した時の症状ですよね。例えば最初ベンゾジアゼピン服薬が始まったのは、めまいや耳鳴りがひどくて夜も寝れないぐらいひどかったからお薬を飲み出したということですよね。それを飲んでる間は良かったけど、いろいろなことがあってお薬を減らすことにしたけれど、そのめまいと耳鳴りがもうちょっとこれ以上は耐えられないっていうところに来て、「減薬のスピードがちょっとこのままじゃ無理のようだ」となったとかですね。だからうつの状態や、幻聴とか妄想とかなどが、自分でコントロールができない状態になっている。例えばどうしても幻聴の声に従って行動してしまうというようなことがあると思います。そのような元々お薬を飲むに至った症状と言いますかね、それが強くなって進めないっていう人が結構多い気がします。

月崎 その現象を先生は原疾患の再発とは言わないのですか?
増田 私はその現象のことを原疾患とは思っていないんです。症状は気がつくために出てくるものであって、うつ症状が出たからうつ病とか、幻覚妄想が出るから統合失調症であるという発想はないのです。このため元の症状が悪くなったっていう理解ではないのですけれども、でもやっぱりそれまで薬で抑えていたものの圧が減るわけですから、お薬を減らすってことは元の症状がやっぱり出てきやすいというのはとてもあると思います。

 ⚫️断薬後の再服薬と再減薬に適した減薬しやすい薬とは?

【当事者からの質問 】 断薬した時に離脱症状がきつくて耐えられず、再服薬を考えた時に、再び減薬する場合にやめやすい薬というのはありますか?
増田 それは、その薬が、抗うつ薬なのか抗精神病薬なのかベンゾジアゼピンなのか、薬の種類によっても違うと思います。お薬の力価というのは皆さん分かりますか?力価というのは、お薬の強さのことです。一般的にはミリ数の多い薬、例えばセロクエルのように100mg、200mgっていうようなお薬は力価が低いと言われており、リスパダールのように1mg、2mgみたいな数字の少ない使い方をするものは力価が高いと呼ばれています。これは絶対そうとも言い切れないのですが力価の低い薬(つまり通常使うミリ数の大きいお薬)の方が比較的やめやすいという風に言われます。これはレセプターに結合する力がまあそっちの方が緩いということです。もちろん薬によって違うんですけどね。じゃあレボトミンは緩いかというとそうではないので、ちょっとイメージ的なものかもしれませんけれども。まあ一つは力価が低いものの方がやめやすいかなといえそうです。
 それから私の中では薬のサイズをたくさん持ってるもの、例えば睡眠薬で言えばサイレースという薬は1mgと2mgしかありません。けれどもベンザリンは10mg、5mg、2mgと3種類あるわけです。そういう風にサイズをたくさん持っているものの方が調整しやすいというイメージがあります。またやはり癖になりやすい薬、依存性、耐性がよりつきやすいもの、例えば、ハルシオンの方がつきやすい、レンドルミンの方がつきにくいなど、まあ本当にあのどんぐりの背比べぐらいのものなんですが、でも私の中ではちょっとだけこっちのほうがよいかなというのがありまして、再服薬をする時には少しだけそれを意識してやったりもします。でも今まで全く飲んだことのない薬にチャレンジするというのは、それはそれでまたリスクもあるので、再服薬の場合は今まで飲んだ薬の中で比較的緩やかな効果だったものを使うことが多いかもしれません。
ベンゾジアゼピンに関する力価の説明はこちらから ↓

【当事者からの質問】 祖母がマイスリーを一気断薬してしまいました。まだ断薬後しばらくしか経ってないみたいなんですけれども、もし再服薬するとしたらどうしたらいいですか?
 おばあ様の年齢にもよるかもしれませんがマイスリーを非ベンゾだと言う先生もいますが、もう限りなくベンゾジアゼピンですね。再服薬が必要なら非ベンゾのものを使うという手があるかもしれません。非ベンゾジアゼピンの睡眠改善薬ですと、ベルソムラデエビゴがあります。でもあまり高齢の人にデエビゴのような長時間のものは使いにくいし、ベルソムラも悪夢とか希死念慮といった副作用もあるので使いやすいわけでは決してないけれども、どうしても睡眠導入剤を使わないといけないというような生活でなければ、例えば私のところだとグリシンとかテアニンとかナイアシンとかそういったビタミンとかリラックスアミノ酸なんかで整えるっていう事をしたりもしています。ふわっとしか寝れないんだけれども、でもふわっと寝れたらいいんですよっていう感じで、睡眠導入剤に戻らないという方法もあったりします。
月崎 その場合漢方薬はどうでしょう?
増田 
漢方ですね。高齢の女性だと漢方は非常に良かったりします。酸棗仁湯(サンソウニントウ)っていうのをよく私は使います。本当に睡眠導入剤よりずっとこっちの方がいいわと言って、酸棗仁湯をお気に入りの睡眠薬にしている方も結構いらっしゃいます。

【当事者からの質問】今まで全く減薬はしていなくて、そんなに多剤多量処方にもなってなくて向精神薬を飲んでいる方が、先生に減薬をお任せしたいんですって言われた場合には数%から始めると聞くことが多いんですけれども、実際にはどんな風にするのでしょう?

増田 お薬によっての目安があるわけでもなく、何種類飲んでるからっていう目安はちょっとあるかな。例えばベンゾの場合2種類、3種類飲んでいる方の場合、最後の1剤の断薬がとてもきついということはあります。例えば抗不安薬を2種類ぐらいと睡眠薬を1種類とかって飲んでる場合にその3種類目のベンゾジアゼピン系薬をやめるのはもちろん薬剤にもよるんですけれども、思ったほどしんどくないことも結構あるんですね。私のイメージでは全体の血中濃度のこと、先ほど話したメイラックスとかメレックスみたいな長時間型の薬を入れることで、きついはずの例えばデパスリボトリールの減薬がなぜか楽になるということもあると思います。それはベンゾ全体の血中濃度が影響するからっていう風に私はちょっと思っていて、それゆえに一番最後のベンゾはブレやすいけれども他にベンゾが2種類ぐらい入ってる時の1種類を減らす時にはそこまで大変ではないということもあると思います。だから順番としてまずは副作用が出てるものとか、患者さんにとってしんどそうなものを先に減らして、盾になるようなものを後に残してっていうやり方をするわけです。このためすごく急ぐことはもちろんないですけれども最初の1剤、2剤に関してはそこまで慎重にやらないこともあります。

※薬の種類ごとの減薬の順番などについてはこちらをご覧ください ↓

⚫️最後まで残った薬が出現した離脱症状の原因薬とは限らない理由

月崎 減薬体験者の取材をしていると、長時間型であるメイラックスの離脱症状がきついという話をよく耳にしますが、それはどうなのでしょう?

増田 それはメイラックスが「単剤で処方されていたのか」というのが私は少し疑問だなと思っています。ブログなどを書いてる方で最後がメイラックスだったために、「メイラックスで激しい離脱症状が出た」という情報を発信している例がありますが、最後に残った薬がメイラックスだったとしてもその前に抗うつ薬パキシルの断薬を先行していたりすることもあります。つまり最後にやめた薬が離脱症状の原因だという風に思いがちなわけですが、必ずしもそうでない場合もあります。というのも抗うつ薬や抗精神病薬の離脱症状はかなり時間が経ってから出現する場合もあるからです。飲んできたヒストリー全体を見ないと、一つの薬剤の難しさということにはできない可能性があると思っています。

  

当事者からの質問】 減薬中に、途中で離脱症状が出て、お薬を戻したりすることは結構あるのことなですか?
増田 もちろんあります。でも、最近は、例えば抗うつ薬とかはほとんど戻さないですね。どうするかって言うと例えばセントジョーンズワートとかですね。そういうハーブを使ってうつ症状が改善するのにちょっと時間かかるんですけどでも1瓶買うとして瓶の底が見えるぐらいになると結構うつ症状が緩和されていることが多く、こういったハーブで代用することが多いです。注意書きには、セントジョーンズワートと抗うつ剤などを一緒に使うのはダメって書いてありますが、これまで、抗うつ薬を大量に使ってきたことを考えると優しいハーブをダメって言ってるのはおかしいと思うので、私は全く気にしないで抗うつ薬の減薬中の人にセントジョーンズワートを使っていいと言ってます。

⚫️減薬中の体調の悪さを薬の離脱症状と考えるか、別の要因と解釈するかは、自分の楽な解釈を選べばよい

当事者からの質問】 離脱症状はいつ出るかわからないということなのでしょうか?
増田 そうですね。いつ出るかわからないけど、それが離脱症状であるかどうかもわからないです。例えば不安になるとか、幻聴が聞こえるとか、人目が気になるとか、そういう症状があるとして、それは例えば不安な時でも出てくるし緊張してる時でも出てくるし、疲れてる時や不眠の時とかそういう時も出てくるわけです。それをと考えるほうが楽な人は離脱って思ったらいいと思うんです。だって答えはないんですよ。どこからどこまでが離脱で、どこからどこまでが更年期で、どこからどこまでが気象病ということについてね。だから「あーこれ薬減らしてるからだ」と思って楽になる人は薬の離脱のせいだと思えばいい。でも「離脱じゃない」って思う方が楽な人は「だってこんな季節だもの。寝れないこともあるし、体がしびれるのはこんなに寒いんだもん」とかそういうののせいにすれば良いのです。離脱であるかないかっていうのはその人が楽なほうの考え方をすればいいって思ってます。
月崎 本当に減薬方法の選び方でも離脱症状にしても、その考え方についても個人差が大きいですね。
増田 大変デリケートなかたがいらっしゃる一方で4分の1ずつ減らしていってそれでなんとかなってるっていう方も、もちろんいらっしゃるわけですね。これは、半分は安心感の問題もあるかもしれません。

月崎 お話を伺っているとこれが絶対の1つの正解というのはないような気がしてきます。

増田 でも減薬を自分の手でこうやっていくというところに安心感とか達成感とかですね。「前に進んでいる」っていう実感が皆さんの中にあるのかなっていう気がしています。自分に合った方法を自分で決めて毎日それを実行するっていうことも「自分のことができている」という自信にもつながっていくのかなという印象を受けています

月崎 そうですね。皆さんで思いを共有しながら頑張って元気になっていきたいですね。先生 皆様、今日はありがとうございました。

 2024年1月28日 「あいのり心察室」にて まとめ・文責 ジャーナリスト 月崎時央
参考資料 『ゆっくり減薬のトリセツ』
月崎時央著 増田さやか監修

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向精神薬の減薬に関して各地の医師の取材を行っています。減薬をサポートする医師に共通するのは治療方針決定に関して患者さんと医療者が共に参加する共同意思決定(SSDM(Shared Decision Making)だと思います。


 




 

 

 

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