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20230505往復書簡vol.3


これへのお返事


井上拓己くん

なんか一応女性監督とか呼ばれる人間なので、生活の中で見つけたささやかで素敵なことでも書こうかしらと思ったんだけど、生活の中でささやかで素敵なものを見つける余裕も才能も皆無なのでやめておきます。

前のお手紙を読んだんだけど、あんまり記憶がないので新しいことを書くね。多分だけどこの往復書簡って相手が書いたことに対してリアクションをしてもいいけどガン無視しても大丈夫よね? そういうレギュレーションを全く決めないままに始めてしまったから、私だけが無視した形になったらごめんね。

iPadを買った。だからって特に何が変わるでもない。ただ、映画ドラマ制作業界って今iPad所有率70%ぐらいで割とみーんな持ってるから、もしかしてあるとなんか便利なのかなと思ったし、今日も打ち合わせがあったので持って行ってみたんだけど、いつも打ち合わせでそこまでメモ取ったりしないし、紙資料のほうがやっぱり読みやすい気がしてそわそわしている。「みんな持ってるしなんとなく便利そう」と特に何も考えずに買ったけどもしかしたらあんまり使わないかもしれない。

思い出した話。小学校に上がるタイミングで、母親はファミリア(神戸にある高級子供服ブランド)のフランス風の可愛らしい通学カバンを用意してくれていた。でも、小学校に通い慣れてきた頃、周りの子達はランドセルを背負っているのに自分だけ違うのが嫌で、母親に「ランドセルが欲しい」と言ったら、母は不満げに「ナツキは周りの子達と同じのが良いのね」みたいなことを言った。私は同調圧力みたいなものを敏感に感じ取って信じられないほどすぐに屈すつまんない子供だったので、その点で母の期待には沿えなかったんだろうな、と申し訳なく思う。

小学生のころにランドセルを背負っていた私は、20年の時を経て、同調圧力みたいなものを敏感に感じ取って信じられないほどすぐに屈すつまんない大人(しかも「みんな持ってるから」というぼんやりした理由でiPadを買う)になったのだけど、世間一般からは「クリエイティブ」と称される職業(実態に関してはノーコメントで)に就くことができた(先行きに怪しさしかないけど)ので、母親は喜んでくれているんではなかろうかと思う。だから、周りに流されてiPad買う26歳でもまあいっかと思う。むしろそういうのにいちいち反発する26歳よりはまあマシな気がする。

今日の打ち合わせでは「あいつiPad買ったからって張り切ってメモしてやんの」とか思われてそうだなと思いながらたくさんメモしていた。これは多分ただの被害妄想だし、万が一そう思われていたとしてもただの事実。

短いけど書きたいことは以上です。
あんまり長く書いても続かないからね。

高橋名月より



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