タカハシメイゲツ

月に一回ぐらい無駄に手の込んだ料理をつくりますが本業は監督とか脚本です。 TX『メンタ…

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月に一回ぐらい無駄に手の込んだ料理をつくりますが本業は監督とか脚本です。 TX『メンタル強め美女白川さん』4,5話 監督 映画『正しいバスの見分けかた』監督、脚本 お仕事はこちらから→ takahashi.meigetsu@gmail.com 基本的になんでもやります。

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最近の記事

駐車場の端っこで抱き合う恋人たち_往復書簡vol.5

これへのお返事 井上拓己くんへ ずいぶんとご無沙汰してしまいました。とは言っても間に会ったり電話したりはしているんだけど。私が吐いたちょっとした弱音と他者への恐怖に対するカウンセリングみたいな返答にあえてカウンターくらわそうと思っていたのだけど当てはまる事象が多すぎて普通に何も言い返せませんでした。 さて、時は流れて年末です。私がクリスマスソングのプレイリストを延々と聞き続け、やたらめったらクリスマスらしいことをしたがり、やたらめったら好んでいる季節です。たくみん相手に

    • 20230505往復書簡vol.3

      これへのお返事 井上拓己くん なんか一応女性監督とか呼ばれる人間なので、生活の中で見つけたささやかで素敵なことでも書こうかしらと思ったんだけど、生活の中でささやかで素敵なものを見つける余裕も才能も皆無なのでやめておきます。 前のお手紙を読んだんだけど、あんまり記憶がないので新しいことを書くね。多分だけどこの往復書簡って相手が書いたことに対してリアクションをしてもいいけどガン無視しても大丈夫よね? そういうレギュレーションを全く決めないままに始めてしまったから、私だけが無

      • 往復書簡vol.1

        井上拓己(たくみん)くんへ 往復書簡をやろうと私の方から持ち掛けたくせに、すっかり遅くなってしまってごめんなさい。対馬は寒いですか? 東京は割と寒いです。 どういう風に書き始めるのが正しいのかよくわからないので少し迷ったのだけど、格式ばった書き方だとしっくりこない感じがするので天気の話題でぬるりと始めてみました。 さて、ご存知の通り私は部屋の整理整頓が本当に苦手中の苦手なので、家の中が空き巣に入られた家のビフォー・アフターでいうところのアフターの方みたいな状態であいも変わ

        • 【ネタバレ有】映画『左様なら今晩は』公開初週を迎えた監督のお気持ち

          このnoteは趣味で書いている小説などを主に載せている場所なのですが他に良い場所がないためこちらで映画『左様なら今晩は』の公開初週を迎えた高橋名月の個人的な気持ちを書かせていただきます。 内容としては見て頂いた皆さまに対するお礼と𝓛𝓸𝓿𝓮です。 オフィシャルな表明というよりも本当にしょうもない感じです。今の高橋のお気持ち覗いてやんよって感じであんまり突っ込まずに読んで頂けるとうれしいです。 ※ほとんどTwitterのALTツイートに書かせて頂いたことと同じですが、アレはだ

        駐車場の端っこで抱き合う恋人たち_往復書簡vol.5

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        • おはなし
          11本

        記事

          佐々木くんと玄武、そして飯田くん

          朱莉の働いている花屋には気さくなゴールデンレトリバーがいる。彼の名前は「玄武」なのだが、愛想が良くて柔和なゴールデンレトリバーの名前としてはあまりにも渋過ぎるので常連の奥様たちからは「ゲンちゃん」だとか「ゲン」だとか少しぼやかして呼ばれている。かくいう朱莉も「玄武」と呼ぶのはちょっと気恥ずかしくて叱る時以外は「ゲン」だとか「ゲンタロウ」だとか呼んでいる。しかし飼い主である店主だけはいたって真面目に彼を「玄武」と呼ぶのだ。朱莉は店主が彼の名前を呼ぶ時、その真摯さにささやかな感動

          佐々木くんと玄武、そして飯田くん

          裸足で歩く世田谷通り

           黒田くんは三軒茶屋に住んでいる。三軒茶屋とは言っても、三軒茶屋駅からは20分くらい歩かないといけないし、最寄り駅は東急世田谷線の若林だ。それでも黒田くんは「どこに住んでるの?」と訊かれると必ず「三軒茶屋」と答えるので、美織も黒田くんの家は三軒茶屋にあると思うようにしている。  千駄ヶ谷にある美織の家から黒田くんの家に向かうには、少なくとも2回は電車を乗り換えなければいけない。だから、黒田くんの家に着く頃には美織はいつもぐったりしている。  ソファに沈んで「ぐったり」を体

          裸足で歩く世田谷通り

          金曜日の由花さん

           レジカウンターの裏に隠れてペットボトルの水を飲んでいると、フロアから戻ってきた由花さんに見つかった。水を飲むことを禁止されているわけではないのが、見つかってしまうとなんとなくばつが悪い。由花さんはすこし意地悪な感じに口の端をゆがめてニヤリと笑った。 「可菜子ちゃん、よくそんなに水飲めるよね」  由花さんは可菜子が持っている二リットルのペットボトルを指して言う。そういえば、可菜子は由花さんが水を飲んでいるところを見たことがないような気がする。実際には見たことがあるのかもし

          金曜日の由花さん

          悲しいオムレツ

           昔は、と利恵は思う。昔は、男に振られたくらいでここまで動揺するようなことはなかったのに。はちきれんばかりに食材が詰めこまれたスーパーのポリ袋を下ろして、小さくため息を吐く。ポリ袋を覗き込むと、紙でできたパックに包まれた10個入りの卵が目に入った。利恵は卵料理を好まないので極力買わないようにしているのに、たまたま安売りされているのが目に付いて深く考えないままに買ってしまったのだ。今日の夕飯はオムレツにしよう。具がたっぷり入っていて、バターを薄く敷いた鉄のフライパンで軽く優しく

          悲しいオムレツ

          しゃわしゃわのジュース

           今時こんなの流行らないよ、と誰かに笑い飛ばされそうなくらいくたびれたアパートの一室で、詩織は考え事をしていた。窓から差し込んでくる街灯の光が妙に湿っぽく感じて慌ててカーテンを閉めると、思ったよりも濃度の高い暗闇に覆われた。詩織は急いで部屋中の電気(といっても1Kのアパートなのでせいぜい廊下とリビングくらいのものだ)を点ける。  この部屋の家主は、きっと詩織より早く目を覚まして、コンビニにお茶でも買いに行っているのだろう。もしかしたら、コンビニで近所に住んでいる友達と会って

          しゃわしゃわのジュース

          1000字小説 少し濃い夜

           彼は地元の電鉄会社に就職してしまった。大都市トウキョウからは遠く離れた地元の、ほとんどが不採算路線ではないかと思われる、電鉄会社。そこの社員として今頃研修でいろいろな部署を回っているであろう彼を想像すると、目の前にある安っぽい発泡酒の缶の輪郭が少しぼやけた。  とるに足らないひとだった。そう思いなして、空になった発泡酒の缶をペコリと潰した。その間抜けな音に無性に腹が立ったので、ビーチサンダルを引っ掛けて玄関のドアを開けると、外は思いのほか明るくて、今何時だっけ、と部屋の中

          1000字小説 少し濃い夜

          小説 世界で一番不幸だった少女

           ときどき、高校生の頃の自分を羨ましく思う。なぜそんなことを思うのか、自分でもよくわからない。自慢ではないがわたしの高校時代は最悪だった。過剰な自意識を持て余していて、どこへ行っても自分の居場所なんてない気がしていた。だからと言って非行に走るような度胸もなくて、いつもイライラしながら甘ったるいカフェオレを飲んでいた。  それから10年経って、わたしはシュウと出会った。シュウはわたしの激しい気性もいたって平凡な容貌も、かわいいと褒めてくれるようなひとだ。シュウはとても美しい見

          小説 世界で一番不幸だった少女

          小説 マイという女

           その日、マイちゃんと私は一緒に渋谷で浴衣を物色した後、神南のあたりにあるパンケーキと紅茶が評判のカフェでお茶をしていた。マイちゃんは体力がない上に究極のめんどくさがり屋なので「わざわざ神南まで行かんでもドトールでええやん。暑いし」とごねたが、なんとか言いくるめてそのカフェまで連れてきたのだった。マイちゃんはさっきまでドトールでいいだとか、なんならファミレスのほうがいいだとか言っていた癖に、早々にリコッタチーズとラズベリーソースのパンケーキとアイスのフレーバーティーを注文し、

          小説 マイという女

          小説 カナという女

           カナちゃんは、ダサい。たぶん自分では洗練されたコンサバ系のつもりで生きているのだろうが、なんとなく野暮ったいし安っぽい。言動もつまらないし、きっとセックスの時もマグロだ。何よりも腹が立つのは、わたしのオカザキを取ったことだ。わたしはカナちゃんがオカザキと出会う前からずっとオカザキのことが好きだったのだ。オカザキとわたしはバイト先の居酒屋でよくシフトが被っていて、二人ともスポーツ観戦が趣味だったことからすぐに意気投合した。わたしは当たり前のようにオカザキを好きになり、オカザキ

          小説 カナという女

          小説 雨の日のこと

           その日は雨が降っていた。わたしはココアをつくるためにミルクパンで牛乳を温めながら洗い物を片付けていて、これが「ながら族」ってやつか、なんてくだらないことを考えていた。はるちゃんから電話がかかってきたのは、そんな時だった。  はるちゃんはわたしより2つ年下、つまり高校3年生、の女の子で、わたしの母方のいとこだ。中学生のときはちんちくりんだったのに、高校に進んでから見た目も性格もぐんと大人びた。わたしとはるちゃんで買い物に出かけると、はるちゃんのほうが「お姉さんですか?」と声

          小説 雨の日のこと

          高校生の時に書いた小説

           オリヴィエの恋人の名前はマリーというらしい。いつだったかセリーヌが彼とそのマリーという恋人のデートについて冷やかしていたのを耳にしたことがある。  ここでひとつの問題が発生する。わたしはオリヴィエのことが好きなのだろうか。  たしかに彼はハンサムで紳士的で、センスも良い。わたしの好きな作家を彼も好きだと言ったし、彼がわたしの淹れたコーヒーを「世界一美味しい」と評したとき、嬉しくてそれ以来コーヒーに凝っている。彼のコロンの香りを嫌味でないと感じるのはいわゆる恋なのだろうか

          高校生の時に書いた小説