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さまようモノクローム

 世間では、1週間続いての快晴で、いつもは騒がしい天気予報でおなじみの気象予報士でさえも退屈そうにリポートしている。鈴木卓也は昨日からつけっぱなしにされているテレビを見ていた。
 現実から目を背けるかのように寝返りを打った。そちらの方向にはモノクロで撮られた、仲睦まじい親子3人の写真が立てかけられている。他界した妻と息子のそのときの笑顔は5年の月日が過ぎ去った今でも、変わることなく卓也の記憶の中に色濃く保管されている。
 

最初に卓也の目に映る世界に異変が起きたのは、一昨年の暮れ頃だ。街中が輝きを放つ、クリスマスも終わり、いよいよ年末という雰囲気が高まってきた、そんな日だっただろうか。彼は色を失った。
 視界のすべてが白と黒のみで映し出される。なんとも無機質な日常だ。若干の濃淡はあるのだから、初期のテレビのような風だろうか。彼が色を失った日には、現実にそんな光景が広がっている。つまり彼にとっては1週間曇りが続いたことになるのだ。
 そうは言っても、彼が色を失う日はごく稀で、しかも一晩寝て、朝が来るころには元に戻っている。しかしながら、今回のケースは、1週間も色のない世界が続いているのだ。
 身を起こした。特に何もしないまま過ぎてゆく連休を終え、会社に出勤しなければならない。卓也は脱力感を抱えながら身支度を開始した。

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