農業✕マインドフルネス┃サステナブルマインドを育む場としての農園作り
お題企画「#かなえたい夢」に参加します。
私は現在、熊本県は南阿蘇村にて、新規就農を目指して地域おこし協力隊員として活動しています。
新規就農とは文字通り、新たに農家として就業することで、平たく言えば農家になることです。なので私のかなえたい夢は、農家になるということです。
しかしただ単に農業を始めたい訳ではなくて、農業を通じてやってみたいことがあります。
それを端的に表すと「農業✕マインドフルネス」。農業を媒介にしてマインドフルネス的な実践を行いたい。あるいはそれを人と共有する場を作ってみたい、というものです。
マインドフルネスとは
仏教、特に禅宗に端を発した実践的瞑想法のことで、科学的な裏付けを持ったものとして一般的に広く普及しています。
「今」に意識を集中させることから生まれる心の安定によってより良く生きる、ウェルネスを高めようというもの。マインドフルネスを始めとしたウェルネス産業は近年急速に市場規模を拡大させて、一説によると既に4兆ドルを超えているとか━━。
世界中に広がっていく過程で様々なスタイルが産まれており、仏教色を排した比較的カジュアルなプラクティスとして日本国内でも認知されています。
マインドフルネスが世界的に広まっていくきっかけともなった、ティック・ナット・ハンという方がいます。
ベトナム出身の禅僧で、ベトナム戦争の際に南北のどちらにも加担せずに平和活動を行っていた事が咎められて国外へ追放されフランスへ亡命、以降欧米社会を中心に禅に基づく瞑想の実践を伝えたマインドフルネスの先駆者として知られています。
長きに渡った亡命生活から、2018年ベトナムへの帰国を果たした後、2022年に亡くなっていますが、師が遺された僧院プラムヴィレッジは仏教思想に色濃く紐づいたマインドフルネスの一派として今も多くの支持を集めています。
サステナブルマインド
プラムヴィレッジによるSDGsに関する言説として”サステナブルマインド”という概念があります。
私たちの社会がサステナビリティ、持続性を獲得するために必要なのは、直面している個々の問題に対する解決方法を追い続けることだけではなくて、今ここにある幸福を見出す精神性を世代を越えて繋いでいくことだ、というものです。
恐怖や絶望に基づいた行動は持続可能なものにはなり得ず、いつかは燃え尽きてしまったり、更に複雑な問題を引き起こす暴挙に繋がってしまいます。
持続可能な社会を形成するために本当に必要なのは、今ここにあるものから幸福を見出すこと、幸せのために本当に必要なものを知る智恵、持続可能な精神性だというのです。
そのためにこそ仏法が説かれ、マインドフルネスが必要とされているのだという、確固たる信念が表れていて、私はこの思想に打ちのめされました。
というのも、私自身がとある信仰に携わる宗教家だったからです。
日本における宗教界は現在、多くの課題を突きつけられています。特に新興宗教と分類される諸団体は、次世代への信仰の継承に社会的な理解を得られず、存亡が危ぶまれています。これまでに日本で引き起こされた社会問題を鑑みれば無理からぬことですが、信仰に携わるものとしては忸怩たる思いでした。
信仰の存続が危ぶまれる日本社会の中にあってプラムヴィレッジで説かれているサステナブルマインドの言説は眩しすぎるものでした。
「自分の信仰を繋げていくことさえままならずに、どうして持続可能な社会のために貢献できるだろうか?」
「逆に言えば、自身の信仰を持続可能なものにしたいのであれば、SDGsの実現にコミットできるような働きを信仰の裏打ちでもって果たすほか無い。」
そんな風に考えた私は、意を決して宗教家の職を辞することにしました。
矛盾するようですが、現状に甘んじて宗教家であり続けるよりも、自分の持つ信仰を何か全く新しい形に変えてマインドフルネスとサステナビリティの文脈に結びつけるべきだと考えたのです。そのために団体に属する一宗教家の立場を離れて、個人に立ち返ることを選択しました。
と言っても宗旨替えをするわけでも無ければ、そもそも妻子ある身ですので、プラムヴィレッジで出家したりする訳にはいかない。何をすべきか…考えた上で選んだのが、農家になることでした。
ハッピーファーム
プラムヴィレッジでは様々な形でマインドフルネスの実践としての瞑想を行います。
オーソドックスに座禅を組んで行うものから、横になるもの、歩く瞑想、歌う瞑想、etc。中でも特徴的なのが食べる瞑想です。
食べることそのものをプラクティスと捉えて、一口一口に心を傾けて味わうことに集中します。味わいの変化を感じ取り、口にしている食材がどんな過程を経て今ここにあるのかを想像しながら、感謝と共にいただきます。
日本の仏教においても精進料理として伝わるものですね。プラムヴィレッジでも食事が重視されていて、僧院で提供されるのは全てヴィーガン料理、なまぐさはご法度です。
食べる瞑想の実践のため、オーガニックな食材を供給するために自前の農園が作られているという徹底ぶり。ハッピーファームといって、環境に負荷をかけない自然栽培的な手法で、様々な野菜が栽培されています。農園で自然に触れながら野菜を育てることも瞑想の一環です。
この一連の営みのことを知って直感的に思いました。━━これをやってみよう、と。
ハッピーファームの野菜作りはそのまま瞑想的実践に直結していて、持続可能なコミュニティ形成の基盤ともなり得るものです。
プラムヴィレッジの在り方に感銘を受けて、私もまた私なりのやり方で持続可能な営みを形作ってみたいと考えるようになりました。
農業を通して
実際に私が農業にマインドフルネス的な意味合いを持たせていくのは簡単なことではないというか、始めはそれどころではないというのが現実かとは思います。
まずは堅実に独立した農家となることからのスタートですが、考えてもみればそれだけでSDGsの実現に向かう一つのアクションにはなっているはずです。
私が住んでいる阿蘇に限らず、日本全国で農業従事者の高齢化が大きな問題となっています。新たに農業に参画することは、社会を存続させるための直接的な貢献です。
とりわけ阿蘇においては農地の存続が景観の保持にも繋がって、風光明媚な観光地としての魅力を保つものとして重視されています。
さらに、阿蘇の水田は多くの水を湛えることで大地に水を浸透させる働きを担っています。阿蘇の大地に染み込んだ水は長い時間を掛けて湧水となり、熊本が誇る豊富な水資源をもたらします。
まずはこの阿蘇の地で営まれてきた農業についての学びを深めて、次の世代を担う農業従事者となる。そうすることが阿蘇の景観と水資源を守ることにも繋がります。
こうしてサステナブルな社会作りに直接的に関わっていくことを、私自身がマインドフルネスを実践する意味合いを兼ねたものに位置づけることはできそうです。専ら私の個人的な営みとしてのスタートですが、少しずつでもそれを人と共有できるようなものにしていきたいと考えています。
農業を営みながら地域資源の有効活用による持続可能な循環を具体的な形にしていきます。
阿蘇には農業を営む上での豊富な資源があります。1000年以上古くから続く野焼きによって育まれる広大な草原地は農業においても有効な資材となり得ます。
豊富な牧草地によって育まれる牛や馬の糞。火山特有のミネラルを含む豊かな湧水。南阿蘇名物である蕎麦の収穫の際に出る大量の残渣。村の景観を守る水田からはたくさんの稲藁や籾殻、米糠が利用できます。
こうした資材を活用した堆肥作りを実践しつつ、得られた知識と技術を共有する場作りをしていきたいと考えています。
家庭ごみからコンポストを作るワークショップなどから始めて、地域資源の循環の中で作られる農園を育て、人が常に訪れるようなものにしていきたい。誰でも自由に出入りができて、地域循環そのものを体感できるような場所です。
単に技術としての地域循環を伝えることに留まらず、あるいはレジャーや観光としての土いじり体験的な娯楽を越えて、循環の中で生きることの喜びそのものを実感できるような場にしていきます。
目指すところはつまり、サステナブルマインドの共有です。
基本的には農業を通じて得られる学びを深める場、ということで良いのですが、マインドフルネスに特化したイベントも時折開いたり━━畑で瞑想会とか、焚き火を囲んでシェアリングとか、歌でも歌いながら収穫体験とか、あるいは一緒にタマネギの皮でも剥きながら身の上話でも聴かせてもらったりとか、農業をフィルターにして色んな交流が生まれる場所になったら良いと思っています。
終わりに
お題企画「#かなえたい夢」をきっかけに私がこれからやってみたい農業について、綴ってみました。
どんな形になっていくのかは分かりませんが、今は手探りで進む毎日が楽しくて、それだけでマインドフルな体験の連続です。
私がこんな風に夢を抱いたのは、少しでも良いからこの社会に対して「信仰をもって生きることもそんなに悪いものじゃない」ということをメッセージとして伝えたかったからです。
”サステナブルマインド”とは欧米に伝わったブッディズムから出た言葉ですが、世代を越えて繋げていくべき精神性を育むことこそが元来信仰が果たしてきた役割であるし、私も、私の持つ信仰をそういうものとして捉えていたいのです。その為の具体的な実践として、これから農業に従事していきたい。
これが私のかなえたい夢です。
長文となってしまいましたが、ご一読くださった皆さま、ありがとうございました。
少しでも共感してくださった方があれば嬉しいです。
いつの日か、阿蘇に拓かれた農園でお目にかかれますことを楽しみにしています!
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