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【徳島に乾杯 クラフトビール➁】神山の薬草でビール造りに挑戦中!「KAMIYAMA BEER」(神山町)

 「自分たちの周りにある植物をビールに活用することに、今は熱中しています」。徳島県神山町神領で醸造所「KAMIYAMA BEER」を営むスウィーニー・マヌスさん(43)=アイルランド出身=と、あべさやかさん(43)=三重県出身=夫妻はビール造りへの熱意を語る。薬草・香草や梅、桜…。標高1000メートルの山々に囲まれた中で、神山を感じる食材を使い、さまざまなビールを生み出している。

マヌスさん(左)とさやかさん

 2人が出会ったのはオランダの首都・アムステルダム。それぞれ移住して、マヌスさんは映像制作会社を設立し、さやかさんは空間芸術での表現に携わっていた。2013年、神山町に国内外の芸術家を招き、滞在中に創作してもらう「神山アーティスト・イン・レジデンス」に参加。地元住民や移住者、同じ参加者たちと交流する中で豊かな自然や開かれた環境に魅了され、その後もオランダと神山を行き来するようになり、16年2月に移住した。

 醸造所の立ち上げを決心したのは、黒ビールとパブ文化が根付くアイルランドで生まれ育ったマヌスさんだ。オランダにいた頃から自家醸造を楽しんでいたマヌスさんは、「神山の素材を使ったおいしいビールが飲みたい」との思いから18年7月に開業した。「土地の整備をして、電気や水道を通し、醸造に必要なタンクを置き、山のような書類と格闘して…。周囲の人々が助けてくれたおかげで形になりました」と2人は感謝を口にする。

左から定番商品の「SHIWASHIWA ALE」、期間限定商品の「HO-HO KE KYO」、シリーズ第一弾の「KAMIYAMA GRUIT -01」

 神山産小麦を使った「SHIWASHIWA ALE」(730円。価格は販売店によって異なる)など定番の5種類に加え、季節限定の商品を醸造している。これからの時季(夏)に2人が薦めるのは「YAMAYAMA KURUKURU」(730円)。神山産の完熟梅と赤シソ、塩を使用し、塩味と酸味の程よいバランスを味わえる。「好き嫌いは分かれますが、私たちは好きですね」とさやかさんは笑う。梅干しから着想を得て開発しており、時折ピンクがかった色合いにもなるという。7月以降の販売を予定している。

「SHIWASHIWA ALE」(730円。価格は販売店によって異なる)

 現在力を入れているのは、ホップの代わりにハーブを使用した「Gruit(グルート)」と呼ばれるビールの開発だ。販売中の「KAMIYAMA GRUIT -01」(730円)には、神山で採取した野生のヨモギとカキドオシ、桜の葉などが用いられている。グラスに注げば自然を感じる香味が鼻をくすぐる。酸味とキレのあるパワフルな味わいにほのかな甘さが加わり、桜の葉の爽やかな後味が広がる。「実際にどんな味や香りがするのかは、飲んでみてのお楽しみということで」

「KAMIYAMA GRUIT -01」。主に桜の葉、ヨモギ、カキドオシが使用されている(提供写真)

 「KAMIYAMA GRUIT -01」のラベルは、ヨモギ、カキドオシ、桜の葉の色素で彩る。「植物が持つ特徴的な色や香りを楽しむこともできる」と、デザインを手がけるさやかさん。基本的に冷蔵で保管するクラフトビールは、日光に当たると退色するといった植物インクの短所を補える。8月末までの販売を予定しており、今後もシリーズとして順次開発していくという。

 「普段意識していなかっただけで、そこら中に魅力的な食材がある。童心に返るようなつもりで神山の自然を味わってほしい」。2人の探究心は尽きない。

日差しを取り込むタップルーム兼販売所

 醸造所は木のぬくもりや明るい日差しを感じられるタップルームを有し、2階席や屋外のベンチなどでビールを飲みながら軽食を楽しむこともできる。商品は醸造所併設の販売所やECサイトのほか、神山町の神山温泉やスーパー、徳島市の酒販店6店などで購入可能。(2023年6月取材、商品や価格などは取材時点のものです)

KAMIYAMA BEERの外観。壁画のデザインはさやかさんが担った

〔KAMIYAMA BEER〕
オープン:2018年
住所:徳島県名西郡神山町神領字西上角280-1
営業時間:午後0時~6時(土日祝のみ開店、季節によって変更がある)
駐車場:あり
HP:https://kamiyamabeer.com
連絡先:info@kamiyamabeer.com

 小規模醸造所で素材や製法にこだわって作られる「クラフトビール」。徳島県内でもブリュワリーが相次いで誕生しており、スダチやウメなど地元なの素材を使ったものも多く、個性的で多種多様な味わいは初心者にもオススメ。人気を集めている県内のブリュワリーを巡ってみた。