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【徳島に乾杯 クラフトビール➄】自然をもっと楽しくするビール 「PADDLE BREW」(美馬市)

 「人を自然の中に連れ出すようなビールを造りたい」。徳島県美馬市の山あいにある「PADDLE BREW(パドルブリュー)」の代表、新居拓也さん(37)は、ビールを通して人と自然を近づけることを目指し、日々醸造に取り組む。

ビール瓶に蓋をする新居さん

 森と川に囲まれた自宅の小さな納屋を改装して醸造所を構え、実際に飲み比べて選んだ穴吹川上流の水をビール造りに使用。2022年6月のオープンからこれまでに15種類を販売し、それぞれ自然の中で楽しめるシチュエーションを紹介している。

左から「Porter」「Yoshinogawa Saison」「Hoppy Cedar Wheat」

 現在販売中のビールは3種類。それぞれ川・森・山がモチーフとなっている。「Yoshinogawa Saison」(330ml入り、700円。価格は店舗によって異なる)は、スパイシーでトロピカルな香りが特徴だ。季節によって発酵時の温度を変えており、それぞれ異なる風味がある。河原に出かけ、季節の風を感じながら飲むのがお勧めだという。

 「Hoppy Cedar Wheat」(700円)には、徳島県産の杉をチップとして香り付けに使用。地元の美馬市などで盛んに行われてきた林業へのリスペクトを込めて企画、開発し、山での仕事を終えた夕方をイメージした爽やかな喉ごしとなっている。

「Porter」(1瓶330ml、700円)

 「Porter」(700円)は、山の行動食の定番であるチョコレートの香りに、和菓子のようじにも使われる樹木・クロモジの爽やかな風味を少し加えた黒ビールだ。Porterの意味は「荷物の運び人」。新居さん自身のルーツに山小屋があることから、荷物を運ぶ歩荷(ぼっか)に敬意を表したビールをつくりたいと考えたという。「山小屋や、山のキャンプ地で味わうのがお勧めです」と話す。

 曽祖父の代から「剣山頂上ヒュッテ」を営む家に生まれた新居さん。クラフトビールに出会ったのは14年、米国オレゴン州のポートランドを訪れたときのことだ。米国のクラフトビールの中心的な場所で、「そこで初めてビールにもいろんな種類があるんだということを知り、衝撃を受けました」と語る。徳島新聞社で7年間勤務したのち、山小屋の運営に携わることに。「先祖から受け継ぐ仕事だけではなく、自分でも何かを始めたい」と思ったとき、醸造所をつくるというアイデアが浮かんできたという。

醸造所には小さめのタンクが4つ。「小規模だからこそいろんなビールを挑戦的に造っていける」と新居さん。

 新居さんは幼い頃から自然が身近にあり、国内外の川をカヌーで旅するなど活動的に自然と関わってきた。「まず自分たちが自然の中に出て、ビールを飲んでほしいシチュエーションを探す。そうして着想を得ながら商品開発をしていくのが今後の課題です」

 8月上旬には酸味が強くフルーティーなサワーエールの販売を始め、さらに醸造所の敷地内の庭で育てたホップを一部使用したビールも秋ごろに限定販売する予定だという。商品はECサイトのほか、美馬市脇町の道の駅「藍ランドうだつ」などで購入可能。(2023年7月取材、商品や価格などは取材時点のものです)

栽培中のホップ

〔PADDLE BREW〕
オープン:2022年
住所:徳島県美馬市穴吹町口山宮内51-1
HP:https://paddlebrew-store.myshopify.com/
連絡先:HPの問い合わせフォーム、またはインスタグラム(@paddlebrew)のDMから

 小規模醸造所で素材や製法にこだわって作られる「クラフトビール」。徳島県内でもブリュワリーが相次いで誕生しており、スダチやウメなど地元の素材を使ったものも多く、個性的で多種多様な味わいは初心者にもオススメ。人気を集めている県内のブリュワリーを巡ってみた。