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『小説』 オートマティック 外伝 1.  🎌


 * 以前オートマティック(Écriture autOmatique)という小説を note に投稿しました。資料も構成も考えずに思いつくままいったりばったりの物語で、最後になるまでどうなるか本人のボクでさえわからないようなものに挑戦しました。書きながら果たしてこれは面白いんだろうか、ただでさえフォロワーが少ないのに読んでくれる人は何人いるんだろうか。

 本当に考えましたね。意外にフォロワー数に関わらず、読んでくれてたことに感謝しました。それでも今回の部分はさすがに誰からも無視され、怒られはしないまでも相手にされないだろう。そう思って、投稿から削除しました。ずうっとオクラ入りにしようと思っていました。

( これは、文学全集はもちろん文学雑誌に載せられるようなたぐいの内容でも設定でもなく、ボクの流れるままの思考を創造しました。お母さんや子どもからソッポむかれるばかりでなく、いい子は読まないでねって感じかな。)


 でも最近投稿したコントやエッセイの中で、これはいいぞと思ったものが人気がなく、これはだめだろうと思ったものが意外に人気がよかったり。あれっ、て感じることがありました。人の思いはいろいろなんだな。

 だからという訳じゃないけど、オクラ入りだった、この文章もせっかく書いたものだし、面白くなかったらスルーすればいいことだし、でもつまらないものだったらこれからは立ち寄ってもくれないだろうな、などと思いながら投稿するにいたりました。10回分にもなっちゃった。

 なおカタカナの題名の語尾をチックにするか、フランス風にティクするか思いあぐねて、オートマティックにしました。



(あらすじ)

 突然、路上に放りだされた主人公の「たもつ」は、身を横たえたままどうしてこういうことになったのかを回顧し始める。なぜか軽い記憶喪失の状態を伴いながら、誰かを追っているのか、誰から追われているのか、わからないままに走っているのに気づいた。
 そしてさまざまな人間と遭遇して、本人のアイデンティティを模索していく「たもつ」だった。今回のウラとシモジモで暗躍する2つの業界の人々には、いろいろな思いと縮図があるのだった。



     ーーーーー



 いかん。
ただ走っているだけだと単純で、
いろんな変な考えがあとからあとから浮かんでくる。
単調すぎる。
両手両足が機械的に動いているから、
頭のなかだけが妄想いちじるしい。
ここら辺で、すこしばかり休憩した方がいいか。

 ちょうど、目のまえに公園がある。
ベンチもある。
あそこでひと休みしよう。

 ベンチは、
木の葉がいっぱい繁っている樹木の下にあった。
ベンチも木製。
あたりには、人はまばらだった。
三人は腰かけられるベンチの真ん中に、どんと腰かけた。
なぜだか靴を脱いでベンチの上に乘って、
うんこ座りをした。
こうすると、とても気持ちがいい。
いい心地がして落ち着いた。
やっぱり、あのシンナー吸いの男と同類の仲間だったのかな。



 おれは、
胸のポケットからタバコを取りだし、火をつけて一服。
マイルド・セブン・ライト、もうとっくにネビウスに名前が変わってる。

 それに空も、
さきほどと違って青く澄みきってみえる。
雲もところどころ、ぽつんぽつん、
あんパンみたいにいくつか点在している。

 ところが、
おれが背伸びしてあくびをしようと思った瞬間、
頭に強い衝撃を受けて気を失ってしまった。
気絶してしまった。
あとで考えると、どうも何者からこん棒みたいなもので殴られたものらしい。



 それからどれくらいたっただろう。
暗闇のなかから人の話す声で、朦朧とした意識がよみあがってきた。

 すこし目を開けてみた。
まわりの景色は薄暗く、よくわからない。
頭をあげようとしたら両腕がとても痛い。
どうも縛られているらしい。
両足もそう。
両手両足、身体ごと、
大きな椅子に縄のロープで、縛られていた。
いったいなぜ、わからない。

「こいつ、とぼけた野郎ですぜ。兄貴」

 すこし離れた前方から、声が聞こえる。

「そうかもしれない」

 兄貴と呼ばれた男が答える。
目を閉じたまま、
おれは気づかないふりして気絶したままの状態を保っていた。
しばらく聞いていると、
どうも仲間は二人きりで、あたりには他にいなかった。



 二人はまだ
おれが意識を戻しているのをわかっていない様子だ。
なぜか緊張した雰囲気のなかでも、
二人の会話はのんびりした感じだった。
おれはまだ頭ががんがんする状態で、話を聞く破目になった。
電気がついていないので部屋が暗い、
たぶんどこかのマンションの空き部屋のひとつ。
二人はソファに腰かけて話している。


「しかし兄貴、われわれの業界もだんだん大変になってきましたね。法律や条例なんかで、なんだかんだといって、われわれを締めつけてくるんだから、どうしようもない。そのおかげで、こんなしようもない奴になめられちゃって。お先、まっ暗ですよ」

「うん」

「どうにかなりませんかね。じっさい、お手あげですよ」

「そうだな」

「警察はわれわれを見れば、すぐ、目のかたきみたいに思いやがって。ほんとに。あれもだめ、これもだめ、まるで戦前みたいに取り締まってくる。マスコミも同じで、じぶんたちに降りかかってこなかったら、冷たい視線で見ている始末。

 時代は変わっても、処世術は同じなんですね。もっとも悪いこともしているので、あまり大きなことはいえません。けど、何もしていないのに因縁つけてくる。まるで、あべこべだ。マスコミというか、新聞は組のいざこざや抗争がすこしでもあると、おもしろおかしく騒ぎたてる。

 こんなことがあっていいのでしょうか、社会の敵とか公敵の人たちとかいう。じぶんたちの身辺に関わりなかったら、遠い、よその国の戦争と同じで、眉をひそめながらも大衆にとっては娯楽なんですよね。タレントのスキャンダルみたいな、のぞき趣味。そのくせ身のまわりに、同じマンションにいると、こちらは何もしないで健康的につつましやかに過ごしているのに、ぎゃあぎゃあ、騒ぎやがって。しようもない奴らだぜ。おかげで、マンションにいられなくなってしまった。

 まったく。反社会的の人たちだから、じぶんたちには関係ないから、後ろで賛成しているとあとで、じぶんたちの首をしめていることにまるで気がついてない。戦前の治安維持法のように過激な集団だけが取り締まられると、たかをくくっていれば、いつしかじぶんたちの方に降りかかってくるのをわかっちゃいないんですよね」


「鉄。人は家の外で、犬が交尾しているのを見るといやな感じがする。なぜだか、わかるか」

「うーん。家の外だと、目につきやすい」

「そう。目につきやすい、すぐ目に入ってくる。見たくもないのに、目に入ってくる。おれたち人間と同じことをやっているから、なおさらいやになる。見苦しく、いやなものを見たように感じる。人と同じように、隠れてやれよと思う。じぶんたちと同じことを獣がやっていると、おれたち人間はいやになってしまう。おれたちは獣と違うぞってね。

 でも獣になると気持ちいいな、とも思う。イエス・キリストの末裔はいっている。両親、兄弟、みさかいもなく交尾している羊たちを見ていっている。おれたち人間は獣じゃない、人間だ。だから一夫一婦制にするってね。ロマンティストみたいな、ひとりの男を、ひとりの女を、永遠に愛するんだとさ」

「ほんとうですか、兄貴。羊って、そういう生態なんですか。鬼畜ですね」

「おれもそこまでないと思うだが、あの顔を見るとね。思想は身のまわりの日常から来ているというから。四人ぐらいかな、嫁さん、持てるの。イスラム教ではそうなっているらしい。マホメットの生きている時代、戦争未亡人のために、金に余裕がある人はできるようになったらしい。体力もね。いちがいに嘘ともいえない。だから警察は、体制側の人間は、同じようにおれたち裏社会の人間を見て、じぶんたちを見ているようでむきになって弾圧するんだ」



 なんだか、
話の展開からすると長びきしそうだ。
その証拠に、兄貴も優雅にコーヒーを飲んでいる。
とても、ここから立ち去っていく気配がない。

 二人が会話に夢中になっている間、
体のやわらかさが自慢のおれは、
すこしずつ縛られていた縄をほどくことができる。
そのためにも二人のこれから続いていくであろう、教理問答を聞かなければならなかった。

 極道とは、死すべく運命づけられた人間である、
とでも結論づけるんだろうか。

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