ブラオケ的吹奏楽名曲名盤紹介~吹奏楽の散歩道〜 #6「全日本吹奏楽コンクール課題曲の歴史Ⅱ“課題曲マーチ”のルーツとは?!」

前回は戦後のコンクール黎明期から1970年代までの課題曲を見てきた。


戦後の混乱の中「吹奏楽といえばマーチ!」に始まり、海外の巨匠をきっかけに「吹奏楽オリジナル曲」が台頭し、吹奏楽の新しい可能性の模索として「ポップス」が採用され、課題曲もバラエティーに富んだ曲が並んだ1970年代。

1960年代までは部門により演奏できる曲が決まっていたものが、部門の垣根がなくなり、1970年代後半からはどの曲も選択できるようになった。


本当は前回を前編、今回を後編として語ろうと当初考えていたが、前編だけでもあの長さ、今回も描き始めるとそれ以上に長くなることがわかったので、様々な切り口から何回かに分けて書くことに方針展開した。


コンクールと共に戦後から四半世紀の間に大きく変革と発展を遂げた日本の吹奏楽。


今回の第2回目は、1980年代以降の変遷と、課題曲に採用されたマーチ曲について考察していこう。

1. 1980年代以降の課題曲様式の変遷

1980年代に入ると、現代まで続く課題曲の“様式の基礎”が概ね確立されてくることになる。

年により異なる場合もあるが、80年代前半は概ね以下の通り。


A:オリジナル曲

B:オリジナル曲

C:オリジナル曲

D:マーチ


これが、80年代後半になってくると、マーチと半々になり、


A:オリジナル曲

B:オリジナル曲

C:マーチ

D:マーチ


という様式になり、現代まで続く課題曲様式の基礎となっていった。


1990年代に入ると、新しい吹奏楽曲の開発を目指すという目的で課題曲の公募が始まる。“朝日作曲賞”のスタートである。

この朝日作曲賞に選ばれると、翌年の課題曲の筆頭として選出される。

(94年、96年のみ筆頭にはならなかった。)

これも、現代まで続く様式の一つであろう。


1993年には、ここで大きく課題曲に大きなテコ入れが入ることになる。

これまでオリジナル曲とマーチ、いずれかを選ぶ様式から、


奇数年=マーチ

偶数年=オリジナル曲


と、隔年でジャンル固定がされるようになったのだ。

更にこれまで「ABCD」だったのが「Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ」のローマ数字表記になった。

(これは参考音源がカセットテープからCDに移行したからということらしい。)


この様式は2007年まで続き、2008年からはオリジナル曲2曲、マーチ2曲の中から選曲する従来のスタイルへと戻され、現在に至ることになる。

2. これが“課題曲マーチ”の元祖?!

私は今回、課題曲をネタにしようと決めた時、その歴史を振り返るため、過去の課題曲を全部聴いた。

そこで、1980年代以降を聴くと、数ある名曲あれど、やはりここは避けては通れないだろうという一つの結論に至った。


課題曲といえばお馴染みの“あのマーチ”である。

特に近年ではわかりやすいメロディーと、決まった構成での作りやすさも相まってか、この手のマーチを選曲する団体も多く、もはや課題曲の“定番”ともなり、特に2000年代2010年代かけて多くの曲が生み出された。

俗に“課題曲マーチ”とも呼ばれる、ある種決まった様式のマーチは概ね以下のような構成となっている。


イントロ〜第1マーチ〜中低音による展開〜第1マーチの再現〜ブリッジ〜トリオ〜ブリッジ〜トリオの再現〜コーダ


雰囲気も楽器の使い方もほぼ同じなので、頭の中で歌っていると、違う曲が出てきたり、なんなら継ぎ接ぎで演奏しても違和感がなかったりもする。

(私はとある身内イベントで、この特性を活かして課題曲のメドレーを作って演奏したことがあるくらいだ。)


かつて、この手のマーチで大人気となったのがこの曲


1999年(第47回):行進曲「K点を超えて」 髙橋伸哉


“課題曲マーチ”と得意とした“淀工”こと淀川工業高校や伊奈学園総合、名門、愛工大名電も取り上げたこの曲は、その爽やかな雰囲気も相まって、大人気となった曲だ。

その後2000年代に入ると、“中高生が演奏しやすい曲”としても評価されたのか、似たような構成の曲が“量産”されることになっていく。


課題曲のマーチというと、戦後から演奏されてきたはずだが、当然のことながら、その曲調は全く違うもので、現代のような爽やかなコンサートマーチではなく、いわゆる“行進曲”であった。

では、この手のマーチはいつ頃から出てきたのか遡ってみると、ある曲にたどり着いた。


1987年(第35回)E:マーチ「ハローサンシャイン」 松尾善雄


作曲者の松尾善雄氏は1991年にも「そよ風のマーチ」という“課題曲マーチ”を作曲しており、まさに“課題曲マーチの父”と言っても過言ではないだろう。

(氏はその後も全7回も課題曲が採用されているが、全く毛色の違うマーチも作曲してる。)

曲の構成、爽やかな雰囲気と耳に馴染みやすいメロディー。この曲が課題曲マーチの元祖と言ってよさそうだ。


この“課題曲マーチ”。周りの声を聞くと好き嫌いがはっきり分かれるが、この曲から始まるこの手のコンサートマーチの文化が、30年以上経った現代までも脈々と続いているということは、それなりに評価され続けているということでもある。

特に自分が中高生の頃に演奏した、演奏されていた曲は青春の甘酸っぱさを良くも悪くも思い出させてくれる“名曲”なのではないだろうか。


最後に、私が勝手に「これは“課題曲マーチ”だ」思う曲を一気に列挙して終わりにしようと思う。

1987年 E マーチ「ハロー! サンシャイン」 松尾善雄

1990年 D 行進曲「マリーン・シティ」 野村正憲 

(補作:藤田玄播)

1991年 D そよ風のマーチ 松尾善雄

1992年 D ゆかいな仲間の行進曲 坂本智

1993年 IV マーチ・エイプリル・メイ 矢部政男

1995年 II スプリング・マーチ 大石美香

1995年 IV アップル・マーチ 野村正憲

1997年 I マーチ「ライジング・サン」 新井千悦子

1997年 II マーチ「夢と勇気、憧れ、希望」 内藤淳一

1999年 IV 行進曲《K点を越えて》 髙橋伸哉

2001年 III あの丘をこえて 星谷丈生

2003年 IV マーチ「ベスト・フレンド」 松浦伸吾

2005年 II マーチ「春風」 南俊明

2007年 II コンサートマーチ「光と風の通り道」 栗栖健一

2007年 IV マーチ「ブルースカイ」 高木登古

2008年 I ブライアンの休日 内藤淳一

2009年 IV マーチ「青空と太陽」 藤代敏裕

2011年 IV 南風のマーチ 渡口公康

2014年 IV コンサートマーチ「青葉の街で」 小林武夫

2015年 II マーチ「春の道を歩こう」 佐藤邦宏

2016年 I マーチ・スカイブルー・ドリーム 矢藤学

2016年 IV マーチ「クローバーグラウンド」 鹿島康奨

2017年 II マーチ・シャイニング・ロード 木内涼

2017年 IV マーチ「春風の通り道」 西山知宏

2018年 II マーチ・ワンダフル・ヴォヤージュ 一ノ瀬季生

2018年 IV コンサート・マーチ「虹色の未来へ」 郷間幹男

2019年 II マーチ「エイプリル・リーフ」 近藤悠介

2019年 IV 行進曲「道標の先に」 岡田康汰

2021年 IV 吹奏楽のための「エール・マーチ」 宮下秀樹

2022年 II マーチ「ブルー・スプリング」 鈴木雅史


さて、この中にあなたの青春の曲はあっただろうか。。
(文:@G)

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