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ブラオケ的名曲名盤紹介コラム〜映画音楽編〜#2『Le petit poucet』

 フランスの詩人、シャルル・ペローの童話集に、Le petit poucetという童話がある。日本語に翻訳すると「親指小僧」だ。あらすじをざっくり説明すると、生まれたときは親指ほどの大きさしかなかった少年が、ある日、財政難の理由から兄弟共に両親に捨てられる。自力で戻ろうとするも、迷子になり人食い鬼の家に辿り着いてしまう。当然ながら、危ない場面に遭遇してしまうが、機転を利かせながら人食い鬼から上手く逃げ出し、且つ、大きな財産をも獲得して帰宅する…というストーリーだ。この「Le petit poucet」は2001年に実写映画化され、「プセの大冒険 真紅の魔法靴」という邦名で、フランスで公開された。勿論、フランス語で「Le petit poucet」という題名であるが、驚くことに、実はこの映画の音楽を担当したのが、ジブリで有名な久石譲氏なのだ。恐らく、多くの人が本作品の存在すら知らないと思われるため、今回はこの「Le petit poucet」に焦点を当てていきたい。

さて、「Le petit poucet」について、久石氏は次のように語っている。

「全体のサウンドの設計からいうと、〈日本〉をすごく出しました。和太鼓だったり尺八だったり……宮崎監督をはじめ、日本の監督は尺八を使うとすごく嫌がるんですよね。『尺八の音』とイメージを限定してしまうから、と。でも、フランス人には全然関係ないことなので、逆に前面に出したんですよ。そのほうが自分にとってリアリティがあるということもありますが、もうひとつはドメスティックなほうがかえってインターナショナルに通用する。要するに日本やアジアの風土に根ざした音楽を掘り下げた状態で提示すれば、それは世界中で通用するはずなんです」

実際に聴いてみると、確かに日本らしさが感じられるサウンド作りであり、何も知らずに「フランス映画の音楽」として聴くと、あれ?と思ってしまうが、久石氏が音楽を担当したということを知れば、とても納得感がある。その中でも、メインテーマは大変美しい作品であり、是非とも一度は聴いて頂きたい楽曲である。オリジナル・サウンド・トラックを始め、幾つかの音源が存在するので、それぞれの音源について一言触れたい。

  • オリジナル・サウンド・トラック

パリ・フィルハーモニー管弦楽団によって録音されたサウンドトラックである。国内での販売は無いため、入手するのであれば輸入せざるを得ない。メインテーマの旋律が盛り込まれた楽曲は下記の通り複数あり、ヴァネッサ・パラディがボーカルとして歌うバージョンもあるが、やはりサウンドトラックであれば、ヴァネッサ・パラディが歌っているメインテーマが必聴だろう。

  1. La lune brille pour toi (Version Edit) (vocal:Vanessa Paradis)

  1. La lune brille pour toi (Générique de fin) (vocal:Vanessa Paradis)

共にフランス出身の歌手・女優、ヴァネッサ・パラディが歌っている録音である。かつてのジョニー・デップとの事実婚の妻としても有名だろう。ロリータ的要素を持つ蠱惑的な歌声は、当時は女性やメディアからバッシングを受けたようだが、悲しくも美しい雰囲気を醸し出す歌声は、本作品の旋律線にとてもマッチしていると思う。是非聴いて頂きたい録音だ。

  1. Le Petit Poucet (Main theme)

 静かな始まりから、突然Le petit poucetの世界へと引き込まれるようなオーケストレーションであり、駆け抜けるようなtuttiでの主題の提示は圧巻である。本作品の旋律を聴いたことが無い人が最初にこの録音を聴いたら、インパクトは大きいだろう。但し、勢いのある主題の提示は最初の約1分半のみであり、その後は静かな情景が描かれる。


  • AMERICAN IN PARIS

 2005年に発売されたCDであり、Le petit poucet以外の作品も多く収録されている。演奏は新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラだ。本CDに収録されているLe petite poucetは、サウンドトラックには無いアレンジであり、非常に美しい。ピアノによる前奏のあと、ヴァイオリンによる主題の提示、そして、ちょっとした間奏を経て、改めてホルンにより主題が提示される。このホルンソロが非常に美しく、オーボエとの絡みも最高だ。やがて、ヴァイオリンに続きの旋律が引き継がれ、暫くするとオーボエやピアノにより主題が再現され、盛り上がりを見せながら最後はピアノで静かに終わる。素晴らしいオーケストレーションであり、個人的には非常にオススメしたい音源のひとつである。


 Le petit poucetの映画もさることながら、メインテーマの美しさは、さすが久石氏と言わざるを得ないほどの素晴らしい作品である。もし、聴いたことのない美しい旋律で浄化されたいという方が居たら、本作品を是非聴いてみて頂きたい。

文)マエストロ

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