見出し画像

「下水道の魅力を伝えるZINE完成!東京地下ラボ、フィナーレ」

2019年2月13日、東京地下ラボの集大成である「成果報告会」が東京都庁で開催された。11月にこのプロジェクトがスタートして3ヶ月、遂に「若者による若者のための下水道ZINE」のお披露目である。

東京都下水道局は今年度、都民に下水道の関心を高めてもらうため、「見せる化アクションプラン」を策定した。そして、若い世代をターゲットとした取組の核となるのが、今回の東京地下ラボである。
専攻・学年が異なる大学生が集い、若い世代の代表として新たな視点から下水道の魅力を探り、その魅力をZINE(小冊子)のカタチで同世代に広めることが、今回のプロジェクトの目的であった。

この成果報告会では、各班の学生が制作したZINEをプレゼンテーションした後に、投票を行い賞が決定した。

成果報告会の審査員は3名。
東京都下水道局、「ケトル」編集長 嶋浩一郎さん、NPO法人ウォーターエイドジャパン事務局長 高橋郁さんである。

発表時間は、各チーム3分間。
ZINEに込めた制作者側の想いが、他の人に言葉として直接届けられるのは、この成果報告会だけである。これから先、人の手に渡るときには、手元のZINEしか伝える手段がなくなる。



3ヶ月間、必死で取り組んで制作したものを3分間で余すことなく説明するために、当日の朝まで発表原稿を用意しているチームもあった。各班様々なプレゼン方式で、自分たちのチームのZINEの魅力をプレゼンし、聴衆も驚くようなアイデアなどもあり、どの班も熱が冷めることなくプレゼンが終了した。

プレゼンを終えたらいよいよ、受賞作品の発表!
グランプリが1作品、審査員特別賞が2作品の計3作品が受賞した。

まずはソーシャル賞の発表。

審査員特別賞(ソーシャル賞)
B班【下水道の無い世界】

下水道の無い世界】ZINEをダウンロード

コンセプト:若い人々が下水道事業に興味を持ていない理由はとてもシンプルで、視覚的にも感覚的にも捉えにくいというところにあると考える。
そこで、この課題をクリアするために、「下水道のない世界」という突出した世界をつくることに。
下水道のない世界では、下水道事業が停止すると起こってしまう色々な問題を仮想し、面白く描いている。それとは対照的に、下水道事業がしっかり整備された世界も描いている。面白く描いた世界にまず興味を持ってもらい、その後に下水道の役割を実感してもらうように構成し、ZINEの内容を視覚的、感覚的に捉えられるものを目指して作成。

メンバーからのコメント:「下水道がない世界を、メンバーで作り上げたことが、一番苦労しつつも一番楽しかった。」

審査員からのコメント:「下水道がない国を支えている身としては、とても興味深かった。また『下水道のある世界』と『下水道がない世界』を対比をするにしても、実在する開発途上国ではなく、仮想世界を対象にしたことで、お説教くさくもなく、より一層の不気味さも出ていた。ハッとさせられた作品だった。」

下水道の魅力を伝えるために下水道を無くした仮想世界を作ってしまう。なんとも斬新なアイデアである。知識を羅列するのではなく、興味を引くビジュアルで下水道事業を伝えられている作品でとても面白いものであった。

続いてメディア賞の発表。

審査員特別賞(メディア賞)
C班【SEWER AND FASHION】

【SEWER AND FASHION】ZINEをダウンロード

コンセプト:ターゲットは、若者の中でもファッションの流行りに敏感な人達。テーマは、中世ヨーロッパ。
中世のパリの街中では、下水道が整備されておらず、家の窓から汚物が投げ捨てられるなどしていたため、ペストなどの感染症や悪臭が蔓延し、人々は苦しんでいた。その環境で、苦しみから逃れるために生まれたのが、「ペストマスク」や「ハイヒール」である。
このZINEでは、「ファッション」を切り口として、それらのアイテムを美しいレイアウトで、下水道の知識と結びつけながら紹介している。下水道をファッションと結び付けることで、「汚い、臭い」という下水道のイメージを根本から変える、ということを目指した。

メンバーからのコメント:「ZINEに載せる写真のためにペストマスクを実際に購入したが、プレゼンの時にも使えたので買ってよかった。」

審査員からのコメント:「本当にZINEとして置いてあったら手に取るな、と思うものがメディア賞を受賞している。『ファッション』という切り口から、下水道の魅力を伝えることができるのかと驚いた。下水道事業の本質的なところを、『ファッション』を切り口にして言えたことが素晴らしい。」

下水道の魅力を伝えるために「ファッション」を切り口にしようと考えるというのは、なんとも斬新なアイデアである。他の班の切り口も独特ではありますが、特に個性の強い切り口だと思った。

そして、映えある最優秀賞の発表!

グランプリ
D班【私と川と、サンドイッチ】

【私と川と、サンドイッチ】ZINEをダウンロード

コンセプト:若者の中には、下水道という言葉を聞いた時に「臭い・汚い」といった想像をしてしまう人が多い。こういった下水道への先入観が、興味を持たれない理由なのではないかと考える。この先入観を覆すために「清流復活事業によって綺麗になった川たち」に着目し、「サンドイッチ」というテーマに結びつける。清流復活事業によって綺麗になった川で写真映えするスポットなどを紹介し、そこに思わず持って行きたくなるようなサンドイッチを併せて紹介している。
時間がゆっくりと流れているように感じてもらえるような、ゆとりのあるデザインで統一し、完成品はまさにサンドイッチのような見た目にしてある。
「サンドイッチ」と下水道を結びつけることで、「汚い・臭い」といったイメージを取り払うことを目指した。

メンバーからのコメント:「ZINEを作るにあたり、下水の夢を見ることもあったが、それが今日、最優秀賞を貰えたことで報われたことが良かった。」

審査員からのコメント:「私たちでは思いつかない下水道の伝え方や発想力に感動した。清流復活事業とサンドイッチをリンクさせた点が面白かった。紙を折るとサンドイッチの形になっているというデザイン性も秀逸だった。」

ビジュアルで一目置いていたD班でしたが、見事グランプリを受賞した。「汚い」「臭い」などといった下水道のイメージとは一転、サンドイッチと結びつけるというアイデア、とても面白かった。

そして受賞作品発表後、審査員の方々から総評をいただいた。

東京都下水道局総務部長 安藤博さん

「薄い」のに「熱い」ZINEを、ありがとうございます!
30名以上の若い方が、下水道に興味を持って東京地下ラボに参加してくれて嬉しいです。
下水道事業に対する関心が低いという問題に対する「見せる化アクションプラン」でしたが、「誰に」「何を」までが決まっても、「どのように」という部分が見えて来ず、この「どのように」下水道事業を若い世代に伝えるか、ということを探るのが、今回の東京地下ラボでした。
長いこと役人をやっていると、「漏れがないか」「これを載せたらクレームが来るんじゃないか」と、どうしても総合的な考え方になってしまい、若い世代向けに冊子を作り直しても、毎回同じようなものになってしまっていました。
しかし、今回皆さんに作ってもらったものはどれも別々の魅力に溢れ、素晴らしいものを作っていただけたと思います。この「薄い」のに「熱い」ZINEを、皆さんの想いを下水道局として、外に発信していきたいと思います。
また、ここにいる皆さんもぜひ、今回の東京地下ラボをきっかけに、他の若い人に下水道の魅力を伝えていって欲しいです。

NPO法人ウォーターエイドジャパン事務局長 高橋郁さん


はじめ、このお話を受けた時に「学級新聞のようなものを作るんですか?」と思ってしまいましたが、皆さんが作られたものは本当に素晴らしいものでした。
事前に事務所に送られてきたZINEをスタッフと見て、「これを学生さんが本当に作ったの?!うちの団体のパンフレットも作って欲しい!」と驚きました!
下水道のような、なかなか興味を持ってもらえないものに対して興味を持ってもらえるように「伝える」ことは本当に難しいと思います。
ついつい熱くなって、くどくど説明したくなり、それがまたお説教臭くなり…、誰にも聞いてもらえないようなことがNGOにはありがちで。
課題を伝えたい、けど、課題の比率が大きすぎると説教くさくなってしまうし、楽しく伝えることだけやればいいかというと、それも違う。
バランスがとにかく大事なんです。
ソーシャルセクターからのリクエストとしては、
自分ゴト化しにくい、興味を持ってもらいにくい、けどみんなで考えていかなければいけない山ほどある課題に対して、
今回の東京地下ラボの活動のように、いかにバランスよく伝えて、興味を持ってもらうかが問題としてあるので、
今回のプロジェクトのような形で、皆さんのような人たちと、これから一緒にそのような問題に取り組んでいけたらと思います!

雑誌「ケトル」編集長 嶋浩一郎さん

下水道の夢を見てしまう人が現れるなんて、すごいことですね!
そもそも、この東京地下ラボという企画自体をやられたことが面白い取り組みだと思います。
前にも言いましたが、編集は情報の整理整頓じゃなくて、人が気づかない価値を見つけるという視点が重要で、

下水道局の人が気づかない魅力をいかに見つけるかが重要です。
これだけチームがあると、視点の付け所が似たり、被ったりするんじゃないかと思ったけれど、

どのチームも異なる下水道の魅力を多面的に切り取ってくれたことが凄いと思いました。また、今回は別の視点と、異なるスキルを持った人たちとチームを作ったことが面白かったんじゃないかと思います。
1人の突出したアイデアを、みんなで突き詰めていくと面白いものができる。
今回、受賞したチームはこれができていたのではないかと思います。
普段、なかなか思いつかない切り口を見つけたことは、学生側も、下水道局側としても学びがあったのではないかと思います。


私たち学生は、さまざまな想いを持って、このプロジェクトに参加していた。インフラ関係の勉強をしていて下水道事業に興味がある、ZINEの制作に興味がある、何をやるのかいまいち分からないけど面白そうだから参加してみるなど、モチベーションのベクトルも十人十色。チームビルディングが中々思うようにいかない、ZINEのアイデアが固まらない、制作の途中でトラブルが生じて制作費が足りない、スケジュール的に間に合わない───、それぞれがそれぞれに、茨の道を歩んでいたと思う。しかし、すべてのチームがそんな紆余曲折を経て、最後には素敵なZINEを完成させた。

本プロジェクトを企画された下水道局の担当者の方から、「東京地下ラボは、若い世代の方に主体的に下水道のことを考えてほしいという想いがあった」とお話をいただいたが、全員が主体的に、下水道に向き合えたと思っている。今回の「東京地下ラボ」は、布石の一つでしかない。

全チームのZINEを通して、下水道の魅力を伝えるための新たな切り口がたくさん見つかったと思う。この切り口を活かした施策を期待するとともに、本プロジェクトをきっかけに、下水道と若者が、行政と若者が関わる機会がさらに増え、より楽しく、快適な日々が過ごせることを願っている。

今回のイベントをもって、プロジェクトとしては一区切りだが、まだまだnoteは続いていく。次回は、今回紹介しきれなかった残りのチームのZINEの紹介。どのチームも、個性豊かなZINEを制作している。お楽しみに!



この記事が参加している募集

イベントレポ