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中国語の底力を垣間見た話

「マックで今日こそは月見バーガーを食べよう」と通勤電車で心に誓ったのに、マックを通り過ぎていつのまにかベトナム料理屋の前にいた。
グーグルマップでも評判のベトナム料理屋で、なんでも「ローカル」を味わえるらしい。「マックか、ベトナムか」じっと眺めていた私に店員さんが気づく。高らかな「いらっしゃいませー!」 もう選択肢はない。

ベトナムには行ったことがないが、それはもうローカルぷんぷんの店内だった。開けっ放しのドア、どこか家庭のにおいがする店内。キッチンに立つ男性がきっとベトナムの方かな。常連客に愛されるお店なんだろうと一目でわかる。

ベトナムといえばの「フォーガー(鶏のフォー)」を注文しようとして、なぜか「卵チャーハン」を頼んでしまった。今日は身体がいうことを聞いてくれないみたい。なんとなく納得できなくて追加で生春巻きを注文する。いずれにせよ米ばっかりだな。

「果たしてこの注文でよかったのか」と自問自答していたところ、キッチンから店員さん同士の会話が聞こえた。ベトナム語か、全くわからないなあ。どんな言語なんだろうと耳をそばだてる。

…あれ?今の中国語っぽくね?
内容は理解できなかったが、聞き覚えのある言語だったことは確かだ。そういえば女性の店員さん、完全に日本人と思ったけど、もしかして。

外国語学習者は貪欲だ。話せる機会があるなら絶対に逃さないぞ、とばかり。外国語で話す恥ずかしさや、失敗する恐怖は、スペイン留学の初日に捨ててきた。つまり、こういうときの自分は最強なのである。

「生春巻きお待たせしましたー」超流暢な日本語に一瞬ひるむ。これで日本人だったらちょっと恥ずかしいなあ、なんて前言撤回、やっぱり人間失敗したらいくつになっても恥ずかしいものだ。

「(中国語)すみません、中国の方ですか?」
意を決し聞いてみる。じっとこちらを見てくる店員さん。
そうか、やっちまったなと頭をよぎった瞬間、
「(中国語)そうだよ!何人?日本人?」

女性の店員さんはハルビン(中国北部)の方だそうだ。
まだまだ中国語で会話が流暢にできないので、2~3言返すしかできない。が、すでに心は満足。少しでも中国語で会話ができたのだから。
そうだよな、華僑というように世界中で中国人が活躍してるんだよな、中華料理店以外にもいるよな、と一人納得していたところ。

「(女性の店員さん)あの子、中国語勉強中だって!」
「(男性の店員さん)本当!?どのくらい勉強してんのよ?」

寝耳に水、青天の霹靂、まあとりあえずびっくり。ベトナム人のキッチンの男性も中国語バッチグーなのである。

お二人は中国人の奥さんと、ベトナム人の旦那さんのご夫婦で、奥さんから中国語を習っているんだとか。
まさか今日、ベトナム料理屋でベトナム人と中国語で話すことになろうと思ってもみなかった。中国語話者人口13億は伊達じゃないってわけね。「話者数が多い」言語であることを身をもって実感した瞬間だ。ふんふん。

「はい、卵チャーハン!」
湯気立つチャーハンがおかれる。優しい味とパラパラ具合が美味しくて、
少ない中国語のボキャブラリーで何とか伝える。

「(中国語)このチャーハンおいしいね!」

へへっとベトナム人の旦那さんが笑う反対から、
「チャーハン作るの超簡単だから!」と奥さんの声。

なんだか二人の関係性も垣間見えちゃった、そんな素敵な夕飯。

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