【3月の本よみ】 子リスみたいな、野うさぎみたいな
わたしはその日、とある読みものを買いに、普段いかない街に出かけた。
駅に着いたもののあまりに風が強く寒かったので、お目当てのものを購入してすぐ、12時を待たずにお昼をたべようと入ったカフェでのことだった。
一人だった私は、全部で10人近く座れる大きなダイニングテーブルのような席に案内され、一番奥の端に腰を下ろした。
まだ午前中だったこともあり、広い店内には数える程しか人がいなかった。
ごはんを食べおえ、買ったばかりの冊子を読みふけっていたら、気づくと店内はランチのお客さんで賑わい始めていて、顔をあげたら向かいの席の女の子も熱心に文庫本を読んでいた。
鮮やかな緑のセーターがよく似合う、とてもかわいい女の子だった。
しばらく私たちは机の向こう側とこちら側で、それぞれの時間を過ごしていた。
店を出る支度を整え、そっと声をかけると、撮影を承諾してくれた。
(このアングルで撮影ができるのは初めてだ..)
静かに興奮しながら、長くなりすぎないよう、手短に撮影を終えた。
子リスみたいな、野うさぎみたいな、綺麗でつぶらな瞳をしていて、
ほんとうはもう少しお喋りしたかったけど、
私はまるでクラスの気になる女の子とゆっくり話ができない少年のように
お礼だけ告げて、すぐにその場を去った。
text:Tamura Mayo
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