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【10月の本よみ】 公園の一角でタイムスリップ

真夏が終わり、べたつく湿度はなくなって、でも半袖で過ごせるとても気候のいい時期だった。

芝生のある公園内にテーブルと長いすが置かれたフリースペースがあり、「あそこで本を読んだら気持ちがよさそうだな(誰か読んでいないかな)」と思って歩いていくと、実際に読書をしている人の姿がみえた。

綺麗な白髪。
姿勢よく本と対峙する大きな背中。
顔は見ずとも、貫禄が感じられた。

かがんで顔の高さを合わせ、「読書をしている後ろ姿を撮らせてもらえませんか?」とそっと声をかけると、

「後ろ姿ならいいですよ」

と承諾してくださった。


「東京の本よみ」は、
読書を啓蒙したいわけでも推奨したいわけでもなく、ただただ、 "読書姿というものが好きだから" という気持ちで始めたところが大きい。

素敵な写真を見たときに、
いい絵画を見たときに、

「 ああ、いい絵だなぁ 」

という感情が無条件に出てくるのととてもよく似ていると思う。

言葉で説明できるものではなく、
とても感覚的かつ直感的なものだ。


なぜ自分の中にそういう感情が湧くのか考えてみると、そこには " 優雅さ " というものが関係しているように思う。


その人がどんな年齢、どんな身なり、どんな外見で、しかもそこがどんな場所だとしても、読書姿には多かれ少なかれ、優雅さを感じる。

モノや情報が溢れ、急を要さないものも含めて、スマホからなにかしらの通知が飛んでくる忙しない毎日の中で、優雅な時間を持つのは昔以上に難しくなっているように思う。

そんな中で、読書は、現実世界で共有されている(時に縛られたり追われたりする)時間という概念からすこし離れたときの中にいるように私の目には写り、

目に見えない本の中の世界に入り込んでいる人の姿は、言葉を発さずとも、豊かなものを静かに放っているようで、惹かれてしまうのだと思う。


この日、この方が読んでいた本は、時代小説だった。


気持ちのいい公園の一角で、いつの時代かにタイプスリップして物語に入り込んでいる姿を撮らせてもらうことができた。


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text:Tamura Mayo




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