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【9月の本よみ】 東京画

「東京の本よみ」の写真は常に偶然の産物である。たまたま出かけた先に、たまたま本を読んでいる人がいて、その人が撮影を承諾してくださることではじめて一枚の写真になる。そのため時々予想もしない場所で本を読んでいる人に出会うことがあったりして楽しい。

とはいえ撮影を続けていると、薄い欲が出始める。フォトジェニックな場所を見つけると、ここに本を読んでいる人がいて、撮影させてもらえたらな、という想像がその場所に縛られる。だがそう都合よくはいかない。外で本を読んでいる人自体が少ないのだから仕方のないことではある。

しばらくその事を忘れていたある日、ここで撮れたらなぁと想像していた店の、閉店間際のテラス席に、その男性はいた。

外は陽が落ちて暗くなっているが、店内の照明が男性の背後から当たっているので、本を読むことに問題はなさそうだ。この建物は古くからこの場所にある近代建築で、数年前に改修工事が行われた際、通りに面した部分にコーヒーショップが組み入れられている。細やかで実直に、元の意匠を踏襲する形で改修がなされた建物のその店は、数年たった今も客足の途絶えない人気店だ。そしてその歴史ある外観を背景に本を読んでいる姿は、かつて頭の中で勝手に想像していたとおりの画だった。少し離れたところから撮影を申し出ると、男性は爽やかな笑顔で承諾してくださった。

何を読んでいるのですか、尋ねると、最近映像を撮り始めたんですよ、と言って見せてくれたのは、小津安二郎の映像について書かれた古い本だった。その人の姿そのものが映画の中で印象的に映る人物のようだと思いつつ、撮影のお礼を言い、辞した。


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text:Kawana Seiji


「東京の本よみ」とは?
本をよむ人のポートレート。
ストリートスナップさながらに本を読んでいる人に声をかけ、読書姿と読んでいる本の表紙を撮影させてもらっています。
毎月20日にサイトに新しい写真をアップし、末日に撮影後記をnoteにアップしています。



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