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【10月の本よみ】 消えゆきはしない

とある町の路地、玄関先で本を読んでいる女性がいたので撮影を申し出ると、快く承諾してくださった。2台の大型バイクに守られるような位置で本を読んでいる。聞けば自身も運転されるという。かっこいい女性である。


撮影した写真を見てもらうと、バイクが写りこんでいたこともあり、家の中にいたバイクのオーナーの男性を呼んでくださったので、HPなどに掲載する承諾を得てお礼を言い、その場を後にした。大きな台風が去った後で、バイクのメンテナンスをしていたのだろう、足元にはキャブレターやエンジンオイルが無造作に置かれている。バイクを大切にしていることがうかがえる、とても感じのいい2人だった。


郵便配達や出前などに使われるような小型のビジネスバイクやスクーターと違い、写真のような大型バイクは趣味性の高いものだ。大型バイクは1970年代には一般に流通しているので、かれこれ50年近く嗜好品として楽しまれている。そして読書はもっと古くから楽しまれている。年月が経つにつれ新しい娯楽が生まれ、一昔前よりも多くの選択肢が用意されるようになった中、バイク、本の市場は共に20年くらい前からゆるやかに規模が小さくなっている。それでもそういった趣味が、一定の人たちにとって他に代替のきかないものである以上、それが無くなることはないだろう、そう思える一枚になった。


何より趣味がどんなものにせよ、自分が使える限られた時間を、特定のことに集中して割ける人は楽しそうに見えるものだ。晴れて、この時期にしては気温も高い中、しばらく路地を進んでいくと、後ろから乾いたエンジン音が聞こえてきた。振り向くと先ほどの男性がバイクで手前の角を颯爽と曲がっていった。姿が見えないまま音だけが徐々に遠のいていくのを、心地よく感じた。

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text : Kawana Seiji




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