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「事業成長とはなにか」、Tokyo Otaku Mode創業者と議論した3つのステップとアクション

こんにちは。Tokyo Otaku Mode(TOM)でマーケティングやメディアの運営を担当している清水です。

今回はTokyo Otaku Mode共同創業者・安宅と「事業成長」をテーマに議論する機会がありましたので、記事にまとめて備忘録としようと思います。

いまスタートアップで事業に携わっている方、または新規事業に取り組まれている方は、「どうしたら自分たちの事業がもっと早く成長できるのか」を、日々悩みながら取り組まれている方も多いかと思います。

事業を成長させるために、いま自分たちがどのステップにいて、何を行うべきかをクリアにしておくことで、取るべきアクションが明確になり、ブレない数値をもとに事業成長に立ち向かうことができます。ただ、こうした内容の話は、まとまった形であまり体系立てて公開されていないように感じますので、今回すこし長文になりますが、ひとつの事業成長についての考え方を共有したいと思います。

特定の事業の話ではなく、あらゆる事業やサービスへと通ずる汎用的な考えだと思いますので、みなさまの参考になりますと幸いです。

事業成長の3ステップ

のっけから身もふたもない話をすると、急激な事業成長を狙うときに、時間を「お金」で買うという感覚はとても重要です。そして数式や数値でうまくいっているかどうかを評価するのです。ほとんどの事業ではざっくり下記のような式が成り立つと思います。

顧客獲得数=トラフィック × CVR (CVRはConversion Rateの略です)

このうち、トラフィックは広告などで「お金」で買えます。CVRに影響を与えるのは、事業のサービス力となり、例えばネット上のサービスやアプリでは、開発やUI&UXの改善により多くの「お金」を投下して、時間を「お金」で買うのです。

トラフィックとCVRはステップごとにどちらに力を入れるかのセオリーがあります。サービスが完成し粗利を生み出すまではCVR、期待する粗利を生める状態になったあとは、トラフィックに力をかけていいタイミングです。

事業の成長のためには、大きく3つのステップがあると考えています。

ステップ1:PMF(市場に受け入れられている状態)
ステップ2:各流入チャネルLTV黒字(ユニットエコノミクスをあわせる)
ステップ3:CACx X<LTVの範囲でトラフィック購入
※おもに広告、CAC回収Yヵ月以内

最後のステップ3に達することができたとき、「トラフィックをお金で買える」状態になり、「お金を投じれば投じるほど利潤が出る」と、事業は一気にスケールしていきます。

いかに早くステップ3の状態に事業=サービスやプロダクトを近づけていけるかが、その戦略とアクションを決めていくかが、事業責任者の重要な役割となります。

事業のサービス力がステップ1、2まで到達した上で、ステップ3のCAC(Customer Acquisition Cost=顧客獲得単価)がLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の1/Xの範囲で、トラフィックを購入できる状況を作り出すことができたとき、事業を急拡大させることが可能となる、ということです。
※XやYの部分は事業によって変わってくるので、適切な数値を設定します。例えばSaaSだと、X=3、Y=12だと言われているようです。

例えば、特に日本国内だと、toC向け事業でもtoB向け事業でもテレビCMで一気にリーチが取れる環境があります。テレビCM経由でのCACがLTVの1/X未満に達したとき、テレビ広告を投下することで急激に事業を成長させることができます。

以下、それぞれのステップについて解説します。

ステップ1:PMF(市場に受け入れられている状態)

まずは最初のステップで、その事業やサービスが顧客が欲しがり、お金を払ってくれるか=市場に受けいれられる状態=PMFを達成しているかを見ていきます。このステップではとにかくサービスやプロダクトを磨く段階です。「バケツの穴」だらけのサービスの穴をふさいでいくアクションに力点が置かれます。

(人によって定義がばらつくのですが)PMF(Product Market Fit)は、数値で評価できることが望ましいと考えており、以下のように定義し、PMFを達成しているか、定期的に評価を行います。

「そのサービスが顧客に受け入れられているか」と「そのサービスの市場規模が十分か」の2つを達成していること

そもそも事業を「顧客にサービスを提供して、その価値に応じて対価を得るもの」とすると、サービスの満足度がその事業の価値の大きさとなります。

また、どんな顧客にどんなサービスを提供するか、でターゲットとする市場が定まります。

例えば、TOMであれば、英語圏(特に北米)向けに、日本発のオタク文化(アニメ・マンガ・ゲーム)のオタクグッズを販売する、というセグメントを追求してきました。

PMFに達しているかを調べるには、例えば以下3つの分析方法があります。

例:
1. Product/Market Fit Survey
顧客にアンケートをとり、「あなたは、このプロダクトが使えなくなったらどう感じますか?」という質問に対して、「とても残念に思う」「すこし残念に思う」「残念に思わない」「使わなくなった」の4つから回答を求めます。サービス利用者の40%以上の人が「とても残念に思う」と回答した場合に、PMFを達成したとみなします。
※統計的に信頼区間95%とする場合、400以上のサンプルが必要となります。

2. NPS(Net Promoter Score)でスコア40以上
顧客へのアンケートで、「あなたはこのプロダクトを友人に薦めますか?」という質問に対して0から10の値で回答を求め、その数値によって顧客のロイヤルティを測ります。9や10と回答した人が推奨者、7や8と回答した人が中立者、0から6と回答した人が批判者となり、推奨者の割合ー批判者の割合≧40となった時、PMFを達成したとみなします。
※こちらも統計的に信頼区間95%とする場合、400以上のサンプルが必要となります。

3. 生存曲線を作成/コホートで調査:(参考)スタートアップなら必須のコホート分析を、サバイバル分析でより簡単かつ正確に
生存曲線とは、X軸に時間、Y軸に生存率(リテンション率)を設定した曲線のことです。生存率とは、ある一定期間を経過した後にどれだけの割合のユーザーがそのサービスを使ったり再訪しているか、を表す指標です。

生存曲線が画像のようにどこかでフラットとなった場合、「ある特定のマーケットにおいて」PMFを達成したと言えます。

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コホートとは、簡単に言えばセグメントされた集団のことで、例えば月ごとに初購入したユーザーをそれぞれセグメント化するようなイメージです。セグメントの切り口は国や年齢など様々なものがありますが、セグメント間で重複するような切り口は避けるようにします。

つまり、セグメント化したあるユーザー群において生存曲線がフラットになるか?(一定のユーザーに長く使ってもらえる市場はあるか?)を確認できれば、PMFを達成したとみなします。

ステップ2:各チャネルでLTV黒字(ユニットエコノミクスをあわせる)

PMFを達成したら、次は事業として粗利や利益が出ているかを測っていきます。たいていは、粗利や販管費や営業利益は最適化されていないため、このステップでは、顧客獲得コストを最適化したり、運用を効率化したりして、しっかり利益が出る事業にしあげていくアクションに力点が置かれます

例えば、顧客獲得コストをほぼゼロ円とみなして、オーガニックチャネル(Google検索、SNS、口コミなど)でLTVが黒字になっていることが最初の段階です。

具体的には、ユニットエコノミクス = LTV(顧客生涯価値)÷ CAC(顧客獲得コスト)で、CACが仮に1円だとして、LTVがプラスになっていない事業は顧客を獲得し続けても赤字なので、まだスケールさせてはいけないこととなります。

すこし話が脱線しますが、スタートアップあるあるで、突き抜けた良質のサービスを提供するためにコストをかけすぎて、獲得コスト0円だとしても、LTVでマイナスということは往々にしてあります。ただ、こうした良質のサービスありきの進め方は、いままで世の中になかった価値を生むためには大切なマインドだと考えます。

現実的な考えとして、事業開始時からLTVをしっかり見ていき、原価、粗利、粗利の中の販管費などの配分の中で、予算/コストなどを導いて、予算の範囲内で施策を行っていくというやり方もありだと思います。ただ、この進め方は、粗利の上限から、できることを決めていくことで、本来世の中に実現させたいサービスのポテンシャルが失われることもあります。

事業の心は、顧客がサービスに満足することにあります。そこに対して事業側の「コスト」を考慮すると「現実的」なサービスに狭まり、満足度は頭打ちになりがちです。予算やリソースであらゆる制約がある中で、その事業を通じて世の中にどんな価値を提供し、顧客に圧倒的な満足を与えるのか、は事業責任者は徹底的に考え抜いていくことで、「これまで世の中になかった価値」を提供できるようになります。

ステップ1のPFMを達成した後に、顧客の満足度を維持もしくは高めつつ、顧客獲得・運用コストの効率化/最適化を図っていくことで、ユニットエコノミクスをあわせていくのが、このステップ2になります

閑話休題。オーガニックチャネル以外で、顧客獲得コストが一定あるチャネルのLTVでも黒字になっていることが確認できると、いよいよ急激な事業成長を目指すステップ3へ進むことができます

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ステップ3:CACx X<LTVの範囲でトラフィック購入

このステップまで来ると、事業=サービスやプロダクトは顧客の満足度が高い状態を維持しつつ、オーガニックでも事業が成長していっているはずですが、冒頭に書いたように、ここで「お金」で時間を買う一手がトラフィック購入です。具体的なアクションとしては広告出稿をイメージしてみてください。

LTVの1/X未満でユーザーの獲得を狙っていきます。
※先述の通り、XやYは事業によって変わってくるので、適切な数値を設定してください。

一定の利益が担保される範囲内でトラフィックを「買う」ことで、広告を打てば打つほど事業はグロースしていきます。今までのステップで、利益が出せるプロダクト/サービスに仕上げた上で、各チャネルごとに「投資回収の健全な範囲で広告を深く打てるか」を上記のような計算式でギリギリのラインまで「トラフィック購入」をしていきます。

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チャネルによっては採算があわず、「トラフィック購入」をできなさそうなときは、以下を実施するのがよいでしょう。

①顧客をセグメントで分け、例えば、高単価商材だけのLTVで見た時にCAC1/Xで採算があうところがあるか確認

②トラフィック側をあげるのではなく、CVR側をあげる。一番端的なのは、ディスカウント施策

テレビやWeb広告をイメージしてもらえれば分かるように、基本的に広告は労働集約型にならないレバレッジが効く箇所なので、人件費を大きくあげないで打てる手としても有効となります。

LTVが大きければ大きいほど、広告費用の額が高まるため、ダイナミックな「トラフィック購入」で大きな事業成長を達成できます。LTVを大きくするためには、営業利益率を高め、サービス力を高め、解約者/離脱者をへらすことが大事=「事業全体の総合力」が求められます。

LTVの最大化=事業全体の総合力の最大化

「事業全体の総合力」は、言い換えると、”そのサービスの価値の合計”で、価格変化によって生まれる「粗利合計最適化」ではなく、『サービスの本質的価値の向上』によって唯一獲得できるものです。

例えば、TOMの越境EC事業で言うサービスの価値は、以下の要素に分解できると思います。

・商品力
・商品品揃え
・お買い物時のユーザー体験(UI&UX)
・カスタマーサポート満足度
・キャンペーン企画
・配送満足度
・有料月額会員サービスの強化

ECショップとして魅力/顧客満足度をあげうるすべての要素をイメージします。

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サービスの価値を向上させるのは、そのサービスに関わるあらゆる機能の品質を向上させて、顧客満足度を高めることであり、コストや努力が必要なので目を背けがちです。事業/サービスの価値を向上させるには生産性を高める創意工夫/リソース確保/予算取りなどが重要となります。

余談ですが、EC事業におけるLTVの最大化の視点だと、当然ながら上代(ユーザーが購入する際に支払う額)の設定も重要となってきます。上代が安すぎると、沢山売れるものの1決済あたりの粗利が少ない状態となり、粗利合計額が低くなります。一方で上代が高すぎると1決済あたりの粗利額は高くなりますが、顧客の数が少なくなり、こちらも粗利の少ない状態となりがちです。上代を随時調整し、粗利の最適化ポイントを探っていくこと必要となります。

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上代の最適化ポイントを見つけた後は、やはりサービスそのものの価値を向上させないと、粗利の合計額は増えていかないので、与する要素に分解し、それぞれ強化していく必要があります。

終わりに

今回は「事業成長はなにか」というテーマについて、ステップごとにまとめてみましたがいかがでしたでしょうか。重要な要素に絞って分解していくと思ったより単純な構造になっていることを理解していただけたのではないかと思います。

みなさんが新規事業の立ち上げに関わる機会が出てきたときに、この記事が事業の成長に寄与することができたら幸いです!

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