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「伝えたいこと」で溢れる施設は良い施設。グローバルゲートウェイが目指す、次世代のMICEとはなにか

JR東日本がすすめる高輪ゲートウェイ駅周辺一帯を対象とした「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」(以下、高輪ゲートウェイシティ)のまちづくりの一環である「TokyoYard PROJECT」では、開発の背景やプロセス、まちづくりにおける理念を発信しています。

今回は、高輪ゲートウェイシティの4街区・複合棟Ⅰに完成予定の「コンベンション・カンファレンス」施設について。国際会議など大規模なコンベンションをはじめ、様々なニーズに対応する多機能ホールと会議室、高速大容量通信環境を完備し、リアルでもバーチャルでも最先端の情報交流を実現する「次世代型MICE施設」となる予定の同施設。

現代のMICE(※1)に何が求められ、それにどのようなかたちで応えることで「次世代」の価値を提供できるのか。G7サミットをはじめ数々の国際会議を成功に導き、「コンベンション・カンファレンス」において、国際会議誘致・施設運営パートナーとして参画している株式会社コングレ・西村郁子さんをゲストに、JR東日本・天内義也との対談形式でお届けします。

※1 MICE:企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市・イベント(Exhibition/Event)を指す、ビジネスイベントの総称

もう、パンデミック以前の姿には戻らない

天内:
「Global Gateway」を開発コンセプトに掲げる高輪ゲートウェイシティが、エクスパッツをふくめた働く人、住む人にとってオフィスの環境や住環境、教育環境を整えていくだけでなく、全国・世界中から情報や人、情報、文化、ビジネスが行き交う新しい国際交流拠点となるためのひとつの手段として、世界中から様々なコンベンションやカンファレンスを誘致可能なMICE施設の導入はかねてより検討していました。

天内義也
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット マネージャー 入社後、アトレ等の商業施設の運営やマーケティング、リニューアル業務を経て、米国へ2年間留学。帰国後、2010年より首都圏の駅周辺開発業務を担当。高輪ゲートウェイ駅のコンセプト、プランニングを含め、品川開発プロジェクトには構想策定段階からこれまで10年以上携わる。

とはいえ、JR東日本はオフィスや商業、ホテルなどで長年積み重ねてきたノウハウがあるものの、大型の国際会議施設の運営や誘致の実績がありませんでしたから、国際会議の誘致や会議施設運営に数多く携わっているコングレさんに、設計の初期段階からパートナー企業として参画いただきました。

高輪ゲートウェイシティのMICE施設は「次世代型MICE施設」を目指していますが、「次世代型」とは、なぜ、どのようなかたちで実現される必要があると考えていますか?

西村:
国際会議の開催とその施設にまつわる主要な考え方として、まずオフラインとオンラインを組み合わせてハイブリッドなコンベンションを設計し、いかにそれに耐えうる施設であるかという点があります。

それはやはりパンデミックによって加速したものですが、オンラインにシフトすることのメリットとデメリットがある程度出揃い、さらに日本も含めた各国の入国制限の緩和も進むなかで、今年に入ってからは特に、現地開催に戻りたいという主催者は非常に多いと感じます。

西村 郁子
株式会社コングレ 東京MICEビジネス事業部長 入社以来、大阪、九州、東京の各拠点で、主に政府系会議や国際機関主催の大規模会議を担当。2021年10月、世界最大のMICE産業団体 Events Industry Councilが認証するミーティングプランナーの国際資格「CMP(Certified Meeting Professional)」取得。

天内:
ただ、それが完全にオフラインに戻っていくかというとそうではないですよね。

西村:
その通りだと思います。当然ながら移動時間がかかりませんし、海外の著名なスピーカーやオーディエンスが参加しやすいなど、オンラインでの利便性はみんなが経験しているので、イベントによってどちらに比重を置くかの違いはあっても、オンラインの会議形態はこれからも続いていくと思います。

オンラインとオフラインのハイブリッド型開催が主流になるなかで、施設側としてもそれぞれの価値を両立することが求められていると思います。

天内:
オンライン配信が会議のデフォルトのオプションになっていくなかで、オンラインの価値を損なわないために、高速かつ大容量のネットワークインフラ完備は高輪ゲートウェイシティのMICE施設には必須だと考えています。毎回仮設の高速ネットワークを構築する大型カンファレンスも多いという実情もありますから、まずハード面でそうしたインフラ機能を持たせる必要があります。

西村:
細かいところなのですが、参加者ひとりが使うデータサイズが劇的に増えている点は大きいですよね。以前は参加者がメールチェックやネット検索するくらいを想定していればよかったのですが、いまは「紙の資料は使わない」というのが国際会議の趨勢でもありますから、ウェブベースでの資料のボリュームがどんどん増えていますし、多くの参加者が資料を会場でダウンロードします。参加者が資料を一斉にダウンロードしたとき、いかに安定した通信環境を提供できるかは、国際会議の運営においてますます重要になっています。

天内:
現地にいながらオンラインプラットフォームにも接続してオンライン参加者とのインタラクションをはかることも当たり前になっていますしね。

また、「会議ではなく“スピーチ”になりやすい」「雑談が生まれない」「割って入ることができない」など、フィジカルな空間に備わった体験をオンライン空間がスポイルしているというデメリットも、多くの方が感じているところだと思います。高輪ゲートウェイシティで先行し実証実験を行った「空間自在ワークプレイス」などとも連携しながら、そうした欠点を補ってデジタル空間を充実させていくことも可能だと考えています。

ハイブリッドの時代にこそ見出すべき、リアルの価値

「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」パース(外観イメージ)。「コンベンション・カンファレンス」は、高輪ゲートウェイ駅に隣接した複合棟ⅠのB2階~1階、エレベーターを経由した複合棟Ⅰ South 6階に位置する予定となっている。

西村:
当然、そうやってオンラインの体験を高めていけばいくほど、問われるのはオフラインの意味です。言うまでもなく、どのような会議やイベントを開催するか、どのようなスピーカーを招くかといった内容そのものが素晴らしいものであることは大前提ですが、それらを聞くだけなら、オンラインでも十分にできてしまう。人や情報の交流がフィジカルに集うMICEのあり方を実現するには、参加者がわざわざ会議のために「そこに行く理由があるか」が重要です。

天内:
主催者や参加者の目線でいくと、会議をすること以上の得るものや体験にきちんとアクセス可能かということですよね。

西村:
例えば、会場の外に出られなかったMICEの参加者からは、せっかく日本に来たのにそれらしいものを味わえなかった、といった声もあります。一方で、「富士山に登る」「白馬にスキーをしに行く」など、よくそこまでというくらいに、会議前後のスケジュールを埋めている海外からの参加者も多くいらっしゃいます。

コンベンションやカンファレンスのクオリティとは関係のないことのように思えるかもしれませんが、そのクオリティはもはやコンテンツだけで語ることはできません。「そこにひとが集う」という価値を、MICEがいかに開催地に提供できるかも非常に重要になっています。そのために、参加者が集う理由をつくることがとても大切になってくるのです。

JR東日本がすすめる高輪ゲートウェイシティは、そうした意味でとても大きな武器を持っていると感じます。

天内:
西村さんから見て、その武器とはどのような点にあると思いますか?

西村:
あたらしい街にできるMICE施設は約2000人規模の会議室や、大ホールを有する予定となっています。それくらいのキャパシティの施設は郊外には比較的多く存在しますが、都心部には少ないのが現状です。大型のMICE施設が、東京都心の、非常に交通アクセスのいい場所にできるということは、高輪ゲートウェイシティのMICE施設の大きな特徴であると思います。

空港も近く、駅と直結していて、新幹線を含む鉄道ネットワークも充実している。タイトなスケジュールのなかで東京を楽しむことができて、さらにビジネスの予定を増やすこともできます。

天内:
移動中、シームレスに仕事ができる環境と選択肢をサポートするための「新幹線オフィス」との連携も可能だと思っています。

西村:
会議単体にとどまらず、広い範囲で参加者の行動の流れを生み出すことができますよね。海外に良い施設は多くありますが、これだけ利便性の高い立地での大型施設はそうそうないと思います。

複合棟Ⅰパース(内観イメージ)

求められる内実とトレーサビリティ

西村:
立地やハードの機能的な部分にとどまらず、会議やイベントの背景や仕組みに関してのトレーサビリティを高め、オープンに発信し、それらが催事のあらゆるところに染み出していることが重要です。

例えば海外のMICEは、用意するフード&ベバレッジの内容に非常に注意を払っていると感じることが多いです。フードのイシューを抱える人でも楽しめる食の多様性を担保しているかはもちろんのこと、会議のテーマに沿った選び方か、地域とどのようにコラボレーションしているか、どれくらいフードウェイストがなかったかなど、「そんなことまでカウントしているのか」と驚くくらいに、しっかりとトレースできるような設計にしているのです。さらに、検証後に目標に対してどの程度達成したのかを数字で出して、ビジュアルにまとめたレポートで非常にうまく発信しています。

天内:
テーマとそれにふさわしいキャスティング、そこから細部にいたるまでひとつのストーリーが通った催事が求められていますよね。それをうまく発信することで会議の価値を上げることにもなりますし、それを可能にするためのトレーサビリティを企画のはじめから想定しておくには、施設がそれに適した運用ルールや機能を有している必要があります。

西村:
そうですね。例えば、ゴミやフードロスの量、電力消費量などのデータは、それを集計する機能、また提供できる運用ルールを施設側がもっているかにもよってきます。施設側の協力なくしてはなかなかできないのです。

また環境に配慮した仕組みは、現状はやはりお金がかかるのも事実です。ドイツのある会議施設では一般的な電力と再生可能エネルギーを選択することができて、予算によって異なる料金プランを提供していると聞いたことがあります。こうした選択肢も、やはり気候危機への取り組みという視点が、最初から施設にインストールされているか否かによっています。

天内:
フードロスや廃棄物、エネルギーの循環などの部分については、高輪ゲートウェイシティ全体で継続的に計測するシステムを構築するため、トレーサビリティを担保することが可能です。一方で、会議開催時の造作物・制作物は設置者が撤去して持って帰ってしまうので、そこのトレースが難しい。ハードのインフラだけでなく、施設側のルールや運用も、非常に重要になってくると思います。

開催地に何を残せるか

西村:
今後MICEにますます求められる「会議施設のなかにとどまらないあり方」は、出席者だけでなく、開催される場所で生活する人々の視点からも考えていく必要があります。

大小様々なコンベンションに関わらせていただくなかでときどき気になるのが、せっかく著名なスピーカーが集まり意義のある会議を行っても、地域の方々にとっては「知らないところで勝手にはじまっていて、勝手に終わっているもの」になっているかもしれないということ。あとで新聞やニュースで「こんなことがあったんだ」と知る方もいらっしゃるのではないかと感じるときもあります。

だからこそ、開催地を決めるMICEの各国の主催団体は、「開催地に何を残せるか」を大きな論点に挙げています。参加者やたまたま集まった人だけがホスピタリティを享受するのではなく、地域に開かれたMICEが求められています。

天内:
施設単体にとどまらず、駅・街・地域が一体となり“街全体で行うMICE”。これが、高輪ゲートウェイシティがもっとも重視しているMICEの考え方であり、武器だと考えています。

コンベンション、カンファレンス、ホテルといったMICEの素地が開催場所に揃っているだけでなく、オフィスや居住施設、文化創造施設、駅や公園や広場などの公共的スペース、高輪ゲートウェイシティの居住者、まちづくりのなかで関係性を構築している地域の生活者/事業者のみなさま、学校などと連携しながら、より地域が参加可能なプログラムを催事に組み込んでいくMICEのあり方を目指しています。

西村:
地域の課題解決の取り組みを各国から来るコンベンションの参加者と議論したり、学生たちと交流するプログラムがあったりしてもいいですよね。

「オンラインではできないことをやりたい」「やっぱり現地で行いたい」と主催者が考えたとき、現地の人々との交流は大きな魅力になります。

“世界でも稀”なわたしたちが、できることを

天内:
加えて、街全体での地域と催事の接点をより多くしていくことができます。一般的に、駅の中と街での広告は完全にわかれてしまうのですが、エキマチ一体の高輪ゲートウェイシティでは、駅と街全体でのサイネージや展示・イベントを設計し、催事を盛り上げていく仕掛けが可能です。地域のみなさまが知らないところで起きている会議ではなく、より一般の方も参加できるようなプログラムを組み込んだ会議にしていくことができると考えています。

西村:
先ほどの空間自在プロジェクトや新幹線オフィスもそうですが、街と駅、鉄道ネットワーク、サービス、グループ会社、様々なアセットがあるからこそ、施設から飛び出したMICEの展開が可能になりますよね。

天内:
そうですね。例えば、Suica1枚あれば街のなか、あるいは移動先も含めてすべてのサービスを受けられる(決済できる)環境をつくることができれば、会議の参加者向けのSuicaを発行することでシームレスな移動が可能になることはもちろん、会議参加者がどのような行動を行ったのかも主催者側にレポートとして返すこともゆくゆくはできるかもしれません。

これは他のまちづくりではなかなかできない、JR東日本ならではのユニークネスです。西村さんがおっしゃったようなJR東日本のアセットと同時に、開発用地をJR会社単独で所有をし、建物のオペレーションまでワンストップでわたしたちが担うからこそできることです。

海外を見渡しても、線路を保有する会社と車両を保有する会社が異なることがほとんどなため、日本のように線路と車両どちらももった、しかも国から補助金を得ていない民間の鉄道事業社がグリーンフィールドで開発するMICE施設は稀な存在です。だからこそ、地域に何かを残せるような街全体でのMICE、本当の意味での次世代のMICE誘致が、JR東日本ならではの新しいかたちで実現できると考えています。

「伝えたいこと」が未来に繋がる

西村:
国際会議の誘致の提案資料をつくる身として常に感じるのは、「伝えたいことがたくさんある施設」は良い施設だ、ということです。つまり「書くことが溢れている施設」です。

「スペックがいい」「立地がいい」だけだと、これからの世界で求心力を持った施設にすることは難しい部分もあります。催事の主催者からしてみれば、甲乙つけがたいということになります。「こんなことを伝えたい」という思いの詰まった施設は、会場としての提案がとてもしやすいですし、いま求められているのも、そんな思いがより広い世界に向かっている施設だと感じます。

天内:
外の世界や、未来に繋がる施設にしていきたいですね。ただ会議やイベントに参加してきて、「いろんな話聞けてよかったな」で終わるのではなく、そこに参加した人同士で生まれた繋がりをつくっていきたい。

例えば、高輪ゲートウェイシティ近くの、高輪に移転される予定の東海大学観光学部の生徒たちや、地域連携の取り組みのなかで関係を深めている学校の生徒たちなど、彼ら/彼女らの学びの場、次世代育成の場となり、それがゆるやかにネットワーク化され、未来の繋がりを生んでいけたらいい。そのためのひとつの機能として、MICEをうまく組み込んでいけたらと思います。

西村:
わたしが運営に携わったなかで印象に残った会議に、福岡市で開催されたG20 財務大臣・中央銀行総裁会議があります。そこでは、会議で使った会場のセットアップをそのまま残し、翌日に地元の小学校の子どもたちに会議のテーブルについてもらったり、同時通訳を試してもらったり、会議の様子を説明するなどの機会があったんです。後日知ったのは、「こんな会議に出るひとになりたい」「通訳をするひとになりたい」、はたまた「会議の裏方に関わりたい」といった子どもたちの声でした。

新しい世界を知る一助になり、予期せずとも誰かの未来に繋がる。それがMICEの本当の意義だと強く思いますし、それが翻っては施設や街、地域のプレゼンス、競争力にも繋がっていくのだと思います。そんな場所を、MICEを通して高輪ゲートウェイシティで実現させていけたらと思っています。

取材・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社

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