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“新たな公”のためのファーストステップ。「高輪地区まつり」を開催

JR東日本は10月14日から16日にかけて、高輪ゲートウェイ駅および同駅周辺地域で「Takanawa Gateway Fest 2022」を開催しました。2024年度末にまちびらきを迎える「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」が掲げる「Global Gateway」をコンセプトに、様々なヒト・モノ・情報の交流を促進するために2020年にスタートした本イベント。今年で3回目の開催となった今回は、その一環として、より地域のみなさまが参加し、主役となって地域のにぎわい創出・魅力発信を行うための地域活性化イベント「高輪地区まつり feat. Takanawa Gateway Fest 2022(以下、高輪地区まつり)」を、一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメント(※)主催により実施しました。

※高輪ゲートウェイ駅周辺エリアの更なる魅力と価値の向上を目的としたエリアマネジメント推進のため、2022年4月にJR東日本が中心となり設立したエリアマネジメント団体

今回は「高輪地区まつり」にフォーカスし、道路を開放して実施した意図、そして駅周辺で推進するエリアマネジメントが目指す「新たな公」への考えを、JR東日本/一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメントの片桐暁史がお伝えします。

片桐 暁史
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット チーフ。
一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメント 事務局次長。入社後、駅および周辺の開発・まちづくりに従事。主な担当プロジェクトは「コトニアガーデン新川崎」「ウォーターズ竹芝」など。品川開発プロジェクトには2019年より携わり、主にエリアマネジメント・地域連携を推進。

「高輪地区まつり」がなぜ道路を開放したか

高輪ゲートウェイ駅前の道路(補助332号線)を開放(道路占用によるイベント・歩行者専用空間化)した「高輪地区まつり」の背景には、近隣の町会・自治会や学校、更には港区と連携した全国自治体など、各地域のみなさまからの声があります。それは、パンデミックによって、約3年間子どもたちの学校外での交流や発表の場が失われ、町会・自治会もお祭りや交流イベントを開催することができていない。全国自治体も東京でのマルシェ出店の機会が減少しているといったものでした。地域が現在抱える課題を起点に、高輪ゲートウェイシティと地域の関係性だけでなく、地域/地域に住む方が主体となった活気や繋がりを取り戻す一助となる。それを目的に、「高輪地区まつり」は開催されました。

当日は、駅前の道路空間約300mを開放し、5つのゾーンで、地域のみなさまが主役となった幅広いコンテンツと参加者が集いました。「①ステージイベントエリア」では、東海大学附属高輪台高等学校・中等部 吹奏楽部による演奏や、港区観光大使を務める「REAL VOX」らのステージ企画などが開演。「②キッチンカーエリア」では、地域の商店街や高輪を中心に営業するキッチンカーなどが飲食を提供。「③全国連携マルシェエリア」では、港区が連携する日本各地の自治体がマルシェを出店し特産品が集結。「④地域の魅力発信エリア」では、近隣の町会・自治会等が出店し、地域の魅力発信や町会同士の交流が見られました。「⑤展示エリア」では、高輪神社の協力のもと高輪神社の大神輿などを展示。そして参加自由の「高輪ゲートウェイ盆踊り大会」では、徐々に輪が大きくなり約300名による盆踊りとなるなど、大いに地域のにぎわい創出と魅力発信が行われました。

「⑤展示エリア」では、高輪警察署や高輪消防署の協力を得て、パトカーや消防車の展示も行い、小さなお子さまたちに喜んでもらえました。当初は警察・消防のみなさまの参加は予定にありませんでしたが、道路を開放してイベントを実施するための各種協議・調整のやりとりのなかで、ぜひお互いに参加したい/してほしいというコミュニケーションが生まれ、実現に至りました。行政や公共機関も、間違いなく地域を構成する要素のひとつです。「公」と「民」の生活の中でのゆるやかな繋がりも含めた、将来の地域の関係づくりのための大きな一歩になったと感じています。

エリアのにぎわいや未来を見据えた繋がりの積み重ねは、単に駅と新しくつくる街というJR東日本の敷地のなかに閉じた取り組みを行うだけでは決して実現しません。駅と、新たに生まれる街(その街区と街区)、そのまわりにある既存の街が繋がり合うことでにぎわいや関係性が連続し、地域全体に染み出していくことが重要です。そこで着目したのが、駅と新しくつくる街、周辺の街を繋ぐ接点/ハブとなる公共空間です。今回は、駅と既存の街との接点として駅前道路に着目し、駅と街・人が一体となったにぎわい創出を目指しました。「道路の開放」は、今回の「高輪地区まつり」において、地域が一体となるために何としても成し遂げたかったことなのです。

「高輪地区まつり」の実現にあたり、道路占用許可等の法制度活用や行政・公的機関、さまざまなステークホルダーとの協議・調整を行うわけですが、そのプロセスのなかで改めて実感したのは、地域のみなさまが主役として輝くための「しつらえ」や「土台」を整えることが、駅周辺で推進するエリアマネジメントが担う重要な役割なのだということです。

本来であれば使えない空間を使うために、行政や関係各所と調整をする。そのしつらえが整ったら、単にJR東日本がやりたいことをやるのではなく、そこから先は地域のみなさまが主役になってそれぞれの「やってみよう」「やってみたい」にトライしてもらう。「高輪地区まつり」でわたしたちが実現したかったのはその点であり、イベント名に「JR東日本」の名前を冠しなかったのも、主役は地域の方々であってほしいという思いがあったからです。

「誰のものでもない」から「みんなのもの」へ

「高輪地区まつり」のしつらえを整えるために、主催者としての機能を果たしたのが「一般社団法人高輪ゲートウェイエリアマネジメント」です。同団体は、高輪ゲートウェイ駅周辺エリアの更なる魅力と価値の向上を目的としたエリアマネジメント推進のため、2022年4月にJR東日本が中心となり、非営利型の一般社団法人として設立されました。まちづくりに携わるJR東日本グループ会社や、周辺の事業者、町会・自治会、行政等と連携しながら、駅周辺エリアにおける安全安心でにぎわいのある魅力的なまちづくりを実現するための取り組みを、まちびらき前から議論し、推進しています。

「エリアマネジメント」という言葉から思い浮かべやすいのは、地域におけるイベント開催や情報発信などの役割かもしれませんが、これはほんの一部に過ぎません。明確な定義はありませんが、一般的には、いち開発事業者だけでなく、地域における様々な主体(周辺事業者、住民、行政、学識者など)が連携して、長期的視点からエリアの価値を高めていく取り組みを指します。

これを前提に、高輪ゲートウェイエリアマネジメントでは、敷地や建物単位ではない、街全体の連続性を目指した活動を行っていきたいと思っています。地域の価値を生むにぎわいや快適性・利便性は、民間の敷地単位だけでなく、公園や道路、民地と民地をまたぐ中間領域なども一体的かつ連続的に培っていく必要があります。本来は行政が担うことが多い公共的な領域においても地域の価値向上に向けての取り組みを行い、「新たな公」を担っていくことが重要だと思います。

都市には公園や河川などの「公共空間」が多く存在し、それらは本来「みんなのもの」であるはずです。しかし、禁止看板ばかりの現代の都市空間においては「誰のものでもないもの」と言ったほうが感覚的には近いのではないでしょうか。公共空間が、民間敷地とも連携し、誰もが豊かな過ごし方ができる空間となれば、都市はもっと豊かになるはずです。わたしたちは、このような「できることのほうが少ない公共空間」に対し、民間による工夫や柔軟な運用管理により、安全性と自由度の境界線をもっと最適化していけないか、今回のような取り組みや実証実験なども通して、行政や地域のみなさまと検討していければと思っています。民間敷地だけでもなく、公共空間だけでもなく、街全体の連続した「都市」としての魅力・価値・利便性が高まる空間のあり方を考えていきたい。

今回の「高輪地区まつり」は1日だけの限られた範囲での道路開放となりましたが、将来的には、期間を伸ばすこと、会場を増やすこと、街にできる広場と一体に繋げていくことなども可能かもしれません。今回の道路開放はその未来に向けた高輪ゲートウェイシティのメッセージでもあり、「新たな公」に向けた第一歩であると考えています。

循環し、自走するエリアマネジメント

また、「高輪地区まつり」は“様々な取り組みが循環し、築き上げられるレジリエントなエリアマネジメント”への第一歩でもあります。

JR東日本が目指すエリアマネジメントは、単にイベントや情報発信などのにぎわいづくりだけを行うことではありません。そこで得られた収入や関係性を、地域における安全安心(防災・防犯等)、環境共生(低炭素・環境美化等)、コミュニティ醸成などの都市課題・公共的領域への活動にも還元していくような仕組みづくりも見据えて今後の活動を行っていく必要があります。

同時に、平時の取り組み(屋外サイネージ/イベント/コミュニティ醸成など)が有事の際の行動(防災情報/避難行動/共助など)にシームレスに繋がっていくような取り組みや仕組みを実現していきたいとも考えています。エリアマネジメントの様々な活動や収益が循環し、また日常の取り組みが有事に備えた防災力向上に繋がっていくといった、本当の意味でサステナブルでレジリエントなまちづくりを支えるエリアマネジメントを築き上げていきたいと思っており、まさにそれが「新たな公」の役割だと考えています。

2022年8月には、駅周辺の主要事業者等を構成員とした「高輪ゲートウェイ駅周辺地区 広域連携連絡会」も設立しました。この連絡会には、高輪地区だけでなく、線路を挟んだ先である港南地区の事業者なども構成員となっています。駅を中心としたまちづくり事業者として、高輪ゲートウェイシティのまちづくりを契機に、これまで線路で分断されてきた高輪地区と港南地区の地区間連携(にぎわい・回遊・安全安心等の地区間連携)にも、今後取り組んでいきます。また、少し大きな概念となりますが、JR東日本という鉄道事業者だからこそ実現できるエリアマネジメントとは何なのか、従来の公共交通志向型まちづくり“TOD”(Transit Oriented Development)の先にある“TODM”(TOD + Management)とは何なのかも考え、実践していきたいと思っています。

公共空間も含めた街全体を通したにぎわい・魅力づくり、安全安心・環境共生等の都市課題・公共的領域への貢献、駅を中心とした地区間の連携。これらは国営企業という歴史をもち、交通インフラという公共的な役割を担うJR東日本のまちづくりにとって重大な問いです。その問いについて本気で考え抜き、実践し続けた先に、高輪ゲートウェイシティや高輪ゲートウェイエリアマネジメントが目指す「駅・街・人が一体となった、安全安心でにぎわいのある魅力的な都市」が生まれていくはずです。

取材・構成:和田拓也
撮影:Takanobu Watanabe
ディレクション:黒鳥社

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