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「赤の継承~カープ三連覇の軌跡~」を読んで

2016年、プロ野球12球団で1番優勝から遠のいていた広島東洋カープが25年ぶりに優勝を果たし、そこから2018年までのリーグ3連覇を達成した。私は子供の頃から親の影響でカープを見始めたが、当時は貧乏球団ということもあり優秀な選手がたくさん抜け、優勝どころかAクラスになることすらできなかった。「俺が生きている間にカープは優勝することができるのか?」と疑問を抱かせるほど本当に弱かった。だからこそ2016年のカープ優勝は本当に嬉しかった。

優勝時の監督である緒方孝市は選手、コーチ、監督と33年間も広島東洋カープの球団で活動をされ、その集大成をタイトルの一冊にまとめております。とてもいい内容だったので今回その内容の一部紹介と感想をまとめたいと思います。

1.怪我の多かった現役時代

私が野球を見始めた00年代は主に打の主力として活躍されていたが、緒方さんは元々俊足を武器をしていた。1995~97年には3年連続盗塁王を獲得し、当時強肩であった古田さんが「緒方は刺せない」と言わせるほど速かったらしい。しかし1998年6月に甲子園球場でフェンスによじ登った際足を捻挫し、そこから盗塁が思うように決まらなくなる。緒方さん自身もそのときの怪我は自分の武器を失ってとても辛かったと本に記載している。そこからもホームでのクロスプレー、デッドボールなどで度々怪我を負う日々が続く。本来ならそこから怪我を恐れて全力プレーを避けてしまいがちだが、現役時代は全力プレーを怠ることはなかった。だからだろうか、子供の頃の私にとって緒方孝市は憧れの存在だった。

2.選手時代より辛かったコーチ時代

2009年に現役を引退した緒方さんは野村(謙二郎)監督の下コーチに就任する。コーチになっても全力でやるスタイルは変わらなかったらしいが、最初は選手との意思疎通を図ることがうまくできず、相当悩んでいたらしい。そこからどうしたらいいのか考えていたところトレーナーが口にした言葉をきっかけにコーチングの勉強を始めた。これは私の勘だが、勉強においても気を緩めることはしなかったんだろうなと思う。

3.2015年に監督就任。しかし1年目は失敗続き

2014年に監督を退いた野村監督の後任として、緒方さんが新監督として就任。当時のカープは野村監督により3位になれる程の実力を上げ、さらにメジャーから黒田博樹、阪神から新井貴浩が復帰ししたのもあり、評論家から優勝候補筆頭と言われていた。弱いカープしか知らない私にとって信じられない話だった。緒方さんもそのことを重々承知の上、「何が何でも勝つ」と意気込んで2015年シーズンに臨んだ。

しかしペナントレースでは勝ちたい気持ちとは逆に、負けの続く日々が続いた。5月以降は少しずつ持ち直してきたが、4月の借金(勝利数に対する敗戦数の多さ)が響き、最終的に4位という形となった。このシーズンは特に接戦で負ける試合が多かったため、緒方監督の采配が露骨に目立った。それゆえメディアから批判され、ファンからも多くのブーイングも多かった。私も緒方監督の采配に疑問を抱くことは多数あったが、それにしても「叩きすぎじゃないんか」と思った。しかしプロ野球の世界では結果を残さないと叩かれる運命なんだなと実感した。

4.「結びに専念すれば、果が生まれ、果に専念すれば、苦が生まれる」

2015年の失敗を糧に、緒方監督は結果を求めずプロセスに集中すること専念した。そのときに選手、コーチ、スタッフにこの言葉を書いた組を配った。

「結びに専念すれば、果が生まれ、果に専念すれば、苦が生まれる」

(注釈)
「結果の『結』は結びといい、行いそのものの意味、行うと言うことに意識を持っていけば、後から結果は生じるものですが、行いそのものでなく後の結果ばかり考えていると、そこに苦しみしかでてこない」

この言葉には「お金持ちになりたい」「賢くなりたい」「有名人になりたい」その気持ちが強くなりすぎると、それに縛られ、重圧に潰され、自由を失い、持てる能力を発揮できずに終わってしまうという意味合いを込めている。私は本書でこの言葉を見たとき「その通りだ」と思った。私も過去結果を求めるが故に自分のすべき行い(本書で言う「結び」)に集中できず、自分を追い込んでしまったことがあったからだ。この言葉には感銘を受けた。

緒方監督自身も「優勝したい」「勝ちたい」という気持ちが強すぎることにより自分の役割を見失ったことを反省し、この言葉を軸に意識改革を実行し、2016年シーズンに臨んだと述べている。

5.そして25年ぶりの優勝へ

2015年オフに前田健太がメジャー挑戦のためエースが抜けるシーズンのため前年と比較して評価がものすごく低くなっていた。ネットでも「マエケン(前田健太)が抜けて緒方監督のままじゃ優勝なんて無理w」と散々な内容が多く記載されていた。私も現役時代好きだった選手なだけにものすごく悔しかった。当初は優勝は無理でもAクラスになってほしいとは思っていた。

ただ、この年のカープは本当にすごかった。開幕スタートは多少こける試合もあったが前年と比較にならないほど打線がつながり、面白いように点を取れるようになっていた(特に鈴木誠也の活躍が素晴らしかった)。又、新外国人のヘーゲンス、ジャクソンにより中継ぎも強化され、接戦をモノにできるようになっていた。

7月には2位と10ゲーム以上も引き離していて「優勝待ったなし」と言いたいところだが、25年も優勝から遠ざかっていることもあり全然安心できなかった。「1996年のようにまくられるのではないか」そういった声もちらほら上がっていた。

実際7月半ばから2位巨人に徐々にゲーム差を縮められ、8月には4.5ゲーム差まで縮まっていた(はず)。そのときの巨人との直接対決で1,2戦目を落とし、3戦目も敗色濃厚だったが、菊池の同点ホームラン、さらに新井のサヨナラタイムリーでカードの最終戦を勝利し、カープはそこから息を吹き返した。そこからさらに勝利を積み重ね、2016年9月10日に優勝を達成。私も野球を見始めて好きな球団が優勝するのは初めての経験だった。カープが優勝したのももちろんだが、2015年に叩かれまくっていた緒方監督がチームを優勝に導いてくれてくれたのがものすごく嬉しかった。

6.最後に

本書は他にも

・高校時代の恩師
・現役時代のコーチ、監督の教え
・愛犬「優勝」との生活
・外国人の育成
 etc.

と色々と述べられております。もし興味を持っていただけたら手に取って頂けると嬉しいです。現役時代に野球の面白さ、監督時代にカープ優勝の喜び、本書にて野球人生の苦悩と学びをくれた緒方さんには本当に感謝しかありません。今更ですが33年間お疲れ様でした。


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