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突然ショートショート「18禁と曲がり角」

 いわゆる『18禁』と呼ばれるビデオが落ちていた。否、正しくはDVDなのだが。
 しかしこんなものを一体どうすればいいのか、わからなくて困ってしまう。

 「何も拾わなければいいのに」というのは間違いだ。何故なら、落ちていたのが私の家の前だったから。
 拾わないで放っておくと私がまるで『18禁』と仲がいいかのように思われてしまうかも知れない。
 何より家の前に物が落ちていること自体印象が良くない。なので取りあえず拾った。

 チラッとパッケージを見たが、表にはとても声に出して読めないタイトルが、裏には本編映像の切り抜き、それもちゃんと『18禁』らしい行為をしている場面が載せられていた。
 こういうものを楽しむ人がいるなら、是非その顔を見てみたいと思ってしまう。

 さて、これをどうするか。
 落とし物は警察に届けるのが当然で、当たり前だが借りパクをすればそこで逮捕となる。
 よって交番に届けることにした訳だが、朝は忙しくて交番など寄り道をする程の時間はない。
 と、いう訳でひとまずカバンに入れて会社に持っていき、交番へ届けるのは帰りに…という羽目となった。

 まさか会社に『18禁』のビデオを持っていくとは。こんな人、世界中探してもきっと私だけだろう。

 さて、通勤時間で無事にビデオの存在を隠しきっていざ会社のあるビルへ…という時だった。
「うわっ!」
「ぎゃあ!」
 ボーッとしていて、入口の手前の曲がり角でぶつかってしまった。
「すいません…」
 歩道にぶちまけられたカバンの中身。それを見た私と相手の女性は唖然とした。
 例のビデオが、表面を我々の方に向けて露出していたのだ。

「…」 
「すいません…すいません…」
「あ、いえ」
 女性はリアクションに困っているようだった。そりゃそうだ。
 周りの通行人も皆私とビデオのパッケージに注目している。

 これが高校生ぐらいだったら、上手くごまかせて異性との素敵な出会いになったのかも知れない。
 だが私は今や36歳。いい年をして妻子持ちの立派な大人なのだ。

 周りの視線をよそに「すいません」を連呼しながらその場を去る。
 ああ、私はもはや死んだに等しい。

(完)(860文字)


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