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明かり差すニュータウンの傍らで#20「怪鳥往復ビンタ」

 ある雨の日のことであった。私はスクーターを駆り、駅に向かっていた。
 いくら「明かりの差す町、明乃浦あけのうら」といっても、雨が降れば明かりは差さず、街灯の白い光がぼやあ、と光るのみである。
スクーターのライトもつけていたので、前方はそのおかげで一層明るくなっている。

 駅に続く道に出ようとした時、路肩から子供の悲鳴が聞こえた。
「うわっ」という、男の子の声だった。
 何があったのかわからない。しかし、ただ事ではないと思った私はスクーターを停めて男の子の元へ向かった。

 「どうしたの、君?」
男の子は腰が抜けた様子だった。
「あれ……あれ、喋ってね、すごい長い足が生えたんだ!!」
そんな訳ないじゃないかと思って男の子の視線の先を見てみると、そこには黒色で足の長い鳥が、じっとこっちを見つめていた。

 それは実に不気味で、まるでホラー映画のワンシーンのようだった。
映画ではこの後、鳥がバタバタと動いて、2人とも慌てて逃げるんだろうな……なんて考えていると、鳥はバタバタと羽をはためかせ、空中に浮き上がった。
 「ケハイ……ケハイ…ガ……スル……スルスルスルスル!」
同時に、鳥は高い声で喋りだし、黒い粒子のような何かを身に纏った。
「うわぁ~!」男の子は恐怖が限界に達したのか、傘を捨てて逃げ出していった。
 黒い粒子が離れると、ハトに近いサイズだった鳥は、近くの民家の窓ガラス程はあろうかというサイズの怪鳥に変化していた。
 ギャオー、と鳴き声を発しながら、口から火のような物を吹いている。
勘のいい私はここで気づいた。これは戦わなければならないパターンだ、と。

 スマホのキーホルダーとして付けてあるブローチを手に取り、金属の外周部分をぐるっと回す。
白い光に包まれながら、一瞬だけ体がフワッと浮いたような感覚を味わう。
この時、私の身体は成人男性相当のそれから、少女相当のそれに切り替わるらしい。正確にはわからないが。
その後はそこにコスチュームの構成パーツが付いていき、胸元のリボンが付いた所で一連のプロセスが終わり、相手への宣言─名乗り口上を決める。
「ちょっとの愛と勇気と希望を炸裂させる!『マジカルフラペノワール』見参!」

 朝からハードな戦いになりそうだ。しかしながら男の子を怖がらせた罪は大きい、と私は思う。
「人を怖がらせるような奴は……許さない!」
鳥の胴体を狙って杖から波動弾を発射する。
グワァァ……と奇声を発した後、鳥は大きな翼で私を平手打ちした。

 「痛っ……ちょ……やめ……!」
何度も何度も、平手打ちというより往復ビンタであった。
「見ろよおい、人間が鳥に往復ビンタされてるぞ!」
「アハハ!」学校へ向かう少年達の笑い声がする。
「うるさい!見てないでとっとと学校へ行きなさい!!」私は少年達を叱りつけ、再び戦闘に戻った。
「わ~、怒った……」少年達は去り際に、そんな言葉を残していった。

 そんな中、往復ビンタをし続けた鳥に、異変が起きた。
だんだんビンタをするスピードが弱ってきたのだ。
私も鳥の動きを見計らって避け続けると、鳥はよろけて倒れてしまった。
 そのまま、鳥は消えていった。

 「ふぅ…って、いつもの電車を過ぎてる!ヤバイぞこれ!」我にかえった私は変身を解いて元に戻り、スクーターを駅に向かって駆るのであった。

 何事も大切なのは忍耐力らしい。今日は朝からそんな事を思い知った。

(了)(1,368文字)


あとがき

 「怪鳥」で「平手打ち」と言えるのか。まずそこです(笑)
 「平翼打ち」とするのも変だし、そもそもその名が浮かぶ以前から「往復ビンタ」になりました。
 訳のわからないタイトルの付け方ですが、これでいいのかもと思います。

 後半の切れるシーンはお気に入り。
「顔を赤らめている」様子も入れても良かったかもしれません。
マジフラさん編は月曜と木曜日の投稿になりそうです。


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