見出し画像

私、悪魔になっちゃいました「#05/重要な知識」

 休日のショッピングモールで、悪魔になってしまった私は、またも起こった自らの悪魔化を憂いていた。
 今はもう元の姿に戻ったとはいえ、このままだと次のタイミングが読めない。いつ悪魔になるかわからないのだ。

 ぼやーんとした状態で車を家まで走らせる。だけどもぼやーんとしていたら事故を起こしてしまう、と聞いたことがある。
 家につくまではこのことを忘れよう、そう心に決めた。

 家についた。店で買ったトップスを一度洗濯機にかけ、ビーズのソファに体を委ね、どうしてこうなったのかを考えてみる。
 初めて悪魔になってからの数日間を振り返ってみる。
 何だったか、悪魔になった私と対面した日があった気がする。

 その時、そっちの私は何と言っていただろうかという問いまでには行き着いたのだが、その先がわからない。そう、覚えていないのだ。
 悪魔になっている時の記憶はある。会社の同僚や、ショッピングモールの人々が私から逃げていく様子。そしてセクシーな悪魔になってしまった私を、手鏡で見つめた時のこと。
 問題は「悪魔になった私」を外から見つめていた時の話だ。

 何を言っていたのだろう。まずはその辺り、あの日の記憶を思い出してみる。
 確か、昼は珍しくラーメン。その後にクソ先輩、もとい丸田先輩に絡まれる。そして悪魔に変身してすっきりし、そのあとに元に戻った。
 この、「すっきり」と「そのあと」の間が思い出せないのだ。

 何があったのか。記憶を必死に……ではなく、一つ一つ丁寧に思い出していく。
 「悪魔になった私」が出てきた所まで思い出せた。

 次は何と言っていたか。
 私が「すっきりさっぱり」と言って、その後……何を言っていたか。
 確かこのまま、「バイバイ」みたいな展開になり始めて、それで私が「待って」と言った気がする。

 だんだんと思い出せてきた。
 「待って」の後、何を言ったかも。
 「あなたは一体何なの?」というような台詞。

 その後だ。その後にそっちの私は何を言ったか。

 「あなたの潜在意識」と。そうだ。そうだった。「あなたの潜在意識」である所までがわかり、そのまま目覚めて行ったのだ。

 これで一件落着かと思ったが、よくよく考えるとその前に何か言っていた気もする。
 ……「ラーメン」。急に浮かんだその言葉で全てを思い出した。

 「ラーメンを食べると会える」のだと。
 私は、この「悪魔」に対する重要な知識を手にしたのだった。

(了)(967文字)


マガジン(一話から読めます)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?